今週の「マガジン9」

 大手化粧品会社の会長から衆議院選挙前に計8億円を借り入れていたことが発覚し、今月上旬にみんなの党代表を辞任した渡辺喜美氏が、同党立ち上げ時に売りにしていたのは「自分たちにはしがらみがない」ということでした。
 彼が言う「しがらみ」とは、利権や既得権益など、まとわりつくもの、邪魔をするものの意味ですが、しがらみを漢字で書くと「柵」。本来は、川の中に打ち並べた杭に木の枝や竹などを横に結びつけて、急な水の流れをせき止めるものを指します。
 私たちは様々なしがらみのなかで生きています。それは家族や友人、学校や職場、あるいは地域の集まりと、さまざまでしょう。そのなかで不満や反発を抱えながらも、互いに折り合いをつけて日々を過ごしている。だから勢いに任せて一方へ流れてしまわないで済む。
 ところがしがらみのない人々が増えていることを思わせる数字があります。2010年時点で世帯の類型のうち単独世帯数が約1679万世帯ともっとも多く(典拠:国立社会保障・人口問題研究所)、2012年の全雇用労働者のうち3人に1人が非正規雇用労働者になっている(典拠:厚生労働省)というのです。
 政治の話に戻れば、「しがらみ」とは、相反する利害や思惑、信条をもった人々の存在であり、いかに彼らを納得させる言葉と政策をもてるかで、政治家としての力量が決まる。ゆえに、しがらみのない政治家は暴走する危険性が高いともいえるかもしれません。

 反貧困運動を長年続けている湯浅誠さんは自著『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版)で次のようなことを書いています。
「……誰かに任せるのではなく、自分たちで引き受けて、それを調整して合意形成していこうというのが、民主主義というシステムです。したがって民主主義というのは、まず何よりも、おそろしく面倒くさくて、うんざりするシステムだということを、みんなが認識する必要があると思います」
 この一節を読んで、「そんな面倒くさいことやっていられるか」と思う人はどんな層か? 私は「日々の仕事に追われ、不満を抱えながらも、生活しなければならないので、会社の方針に唯々諾々と従うサラリーマン」の姿を想像してしまいました。一方、「夫はサラリーマン、妻は専業主婦、そして子供が2人」というステレオタイプの家族形態が多数派ではなくなった現在、しがらみがなく、世の中と1対1で向き合ってしんどい思いをしている人の方が、「おそろしく面倒くさいシステム」を楽しめるのではないか。
 他人とあーだ、こーだやっていることを愉快に感じる人々が、これからは増えていく。そんな予感がします。

(芳地隆之)

 

  

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vol.450
「しがらみ」とは何か? を考える
」 に1件のコメント

  1. ピースメーカー より:

    >他人とあーだ、こーだやっていることを愉快に感じる人々が、これからは増えていく。
    >そんな予感がします。

    先日、伊勢崎賢治さんは、”「こだわってないけど、9条はまだおトクだから残せ」って発言したら、案の定、こんなヤツ護憲派じゃないって批判が出始めた。結構! 護憲のためにウヨク保守に切り込むには、護憲派から嫌われること!”とツイートされていました。
    https://twitter.com/isezakikenji/status/457334803524620288
    私は伊勢崎さんの発言を愉快に思いますが、護憲派もまたこのような伊勢崎さんを「しがらみ」ではなく「愉快」と感じる人が増えていくということでしょうか?

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