今週の「マガジン9」

 土井たか子さんが亡くなった。85歳だった。
 先日ある会合で、土井さんの秘書として長い間、二人三脚で歩き続けてきた五島昌子さんにお会いしたとき、「土井さんのご様子はいかがですか?」とお聞きしてみた。「ええ、あまりよくないのよ…」というのが、五島さんの辛そうなお答えだった。
 それからまだ1カ月も経っていないのに、訃報。

 かつて、野党第一党としての社会党の存在感は、大きなものだった。しかも、土井さんが委員長になってからの社会党の躍進は、それこそ目覚ましいものだった。まさに「山が動いた」のである。
 1989年の参議院選では多くの女性候補を率いて大勝、いわゆる「マドンナ旋風」を巻き起こし、参院では土井さんが首相(内閣首班)に指名された(衆院では自民多数だったために、実際には首相にはなれなかったが)。女性候補を多数当選させたことは、日本政治史上では極めて稀なことであり、女性政治家といえば、まず第一に土井さんの顔が浮かぶのだ。
 私はそのころ、数回、ロングインタビューをさせてもらった。その際、当時の防衛庁裏の檜町公園(だったと思う)で、土井さんの写真撮影をしていたら、子ども連れのお母さんたちが「きゃあ、土井さんよーっ!」と叫んで走り寄って来て握手を求め、子どもとのツーショット写真をせがむなど、まるでアイドル並みの人気だった。まさに「土井ブーム」、懐かしい思い出である。

 ツイッターを見ていたら、@TrinityNYCという方が次のように書いていた。

1980年代から90年代にかけて、当時の日本女性たちが土井たか子氏から感じ取っていた「漠然とした希望」と、いま安倍政権が選んだ女性閣僚の面々や首相夫人のスピーチなどから日本女性が感じ取っている「漠然とした失望」の対比が、ハンパない。

 その通りだと思う。安倍首相がしきりに口にする「女性の活用」という言葉の気味悪さ。安倍内閣の女性大臣たちの男性以上のマッチョぶり。それは土井さんが掲げた「女性の時代」とは、まさに対極にある。
 ネオナチとのツーショット写真を暴露されても「知らなかった」と嘘をついて居直る山谷えり子大臣。「私も2児の母ですから…」と、就任会見では原発再稼働に躊躇を見せた小渕優子大臣も、結局は「すべて政府が責任を取りますから」として再稼働を簡単に認めてしまった。
 それらのどこが「女性の活用」か。男の言い分を、代わりに女性に言わせているだけではないか。都議会に限らず、国会も含めたオトコ議員たちのダメさ加減は言うまでもないが、(特に自民党の)女性議員たちのオトコ化にも目も当てられない。

 日本の政治は後ろ向きに進みつつある。たくさんの後退状況があるけれど、中でも女性の生きづらさは、土井さんの時代よりももっともっと進行しているとしか思えない。
 土井さんは、何を思って目を瞑ったのだろうか…。

(鈴木耕)

 

  

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