今週の「マガジン9」

 先月、北朝鮮の金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港ロビーで殺害された事件の続報はいまも絶えませんが、新たな情報が入れば入るほど、真相が見えなくなるような気がします。その理由のひとつは殺害を仕掛けた側の演出過多。金氏の殺害が最大の目的であれば、わざわざ衆人環視の下で実行する必要はありません。闇に葬り去る方法もあったでしょう。あえて目立つやり方をとったところに(マスコミが飛びつくことも想定した)何かの意図が感じられます(1987年に起こった大韓航空機爆破事件の直後も、同じような芝居がかったものを感じました)。

 そして数日前、北朝鮮政府は弾道ミサイルの発射実験を行いました。あの国はどうなっているのか? テレビで繰り返し放映される北朝鮮の国家元首や彼への忠誠を違う政治家たちの映像からいったん離れて、市井の人々の日常を想像してみないと、隣国の異常な行動が目立つばかりで、北朝鮮の国民はどんな毎日を送っているのか、という発想にはなかなかいたりません。

 彼らが普段から自由にものを言えて、自由な行動ができるようになるにはどうすればいいのか。

 北朝鮮と接する中国は共産党の一党独裁、韓国が長い軍政から民主化されたのは、戦後40年以上を経てからでした。そのためあの国に対し、外から民主化を促す動きはほとんどなかったのではないでしょうか。

 ここは日本がその役割を担うべきだと思います。軍事力による押さえ込みという方法ではなく、人と人との交流を通したソフトによる緊張緩和です。難題でしょうが、日本がかつて朝鮮半島を植民地支配していた歴史を清算するための意思表示ともなるでしょう。綺麗ごとだと冷笑されるかもしれませんが、理想がなければ、人間は前へ進めない。「綺麗な言葉、綺麗な思考は、貪欲に幸せになるための材料です」と私に言ったのは最近知り合った方でした。

 以前、マガ9レビューで評伝(『ヴィリー・ブラントの生涯』)を紹介した、東西冷戦に風穴を開けた元西ドイツ首相のヴィリー・ブラントのような政治家が日本の表舞台に現れることを願ってやみません。「安倍首相がんばれ!」と子どもたちに連呼させる幼稚園の映像を見たとき、「あちらをこちらに近づけるべきなのに、こちらがあちらに近づいてどうする」と思いました。

(芳地隆之)

 

  

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