中島岳志の「希望は、商店街!」

「世論のジェットコースター化」は危険

 菅内閣が発足しましたね。菅さんは「不幸の最小化」といった政治哲学や理念を語ることができる政治家ですから、中身はともかく、鳩山さんよりは明らかに首相にふさわしい人物だと思います。

 しかし、内閣支持率が急回復しすぎです。これは、今世紀に入ってからの顕著な傾向ですが、内閣が変わった瞬間、支持率が急上昇し、3か月から半年後に急降下するという現象が続いています。「世論のジェットコースター化」ですね。

 つまり、この支持率の急上昇は、数カ月後の急降下とコインの裏表の関係にある現象だということを、われわれは冷静に受け止めなければなりません。菅内閣だけが例外とは思えませんので、おそらく来年度の予算編成の過程で「失点」が重なり、秋には支持率を下げて行くことでしょう。われわれはそのような状況を今からしっかりと見据えておかなければなりません。

 私が恐れるのは、支持率の乱高下を繰り返す中で国民の間にシニシズムが蔓延し、その中で極端な政治家への待望論が一気に拡大することです。「こうなったら一気に世の中を変えてくれるリーダーが登場してほしい」という〈救世主待望論〉が、いずれこの国を覆うことになるでしょう。

 その時、登場する可能性が高い候補者の筆頭が橋下徹大阪府知事です。彼は東国原宮崎県知事のように、「自分を首相候補にするなら国政にうってでる」なんて顰蹙を買うようなことは言わないでしょう。また、山田前杉並区長のように政権奪取の明確な展望もないまま、国政に参戦するようなこともしないでしょう。

 橋下氏は、まちがいなく「その時」を待っています。永田町に閉塞感が漂い、「目新しい救世主」待望論が拡大する時を。自分から手を上げるのではなく、権力基盤が用意され、そこにみんなから望まれて担がれることを。

 その時に不気味なのが、小沢一郎氏の動きです。菅首相が失点を重ね、彼に代って別の首相が誕生してもうまくいかず、閉塞感が漂い始めた時、小沢氏が橋下氏を担ぐような場面が出てくるのではないかと私は見ています。

 これは当たってほしくない予想ですし、私は占い師ではありませんから、確実な未来予測なんてできません。しかし、近い将来にシニシズムが蔓延し、救世主待望論が出てくる事態は、しっかりと想定しておかなければならないと思っています。そして、気分と化した世論に対して批判的な眼を持ち続けなければならないと思っています。近視眼的で直前の単一イシューに影響されやすい今の世論は、本当に危険です。全体主義的な政治を引き寄せるのは、常に世論の熱狂です。そのことを今、われわれは肝に銘じておかなければならないと思います。

「大店法改正」によって大型店の出店がラッシュに

 さて、政治の話はこの辺までにして、発寒商店街の話を進めたいと思います。

 シャッター通り化した札幌市西区の発寒商店街。日中でも人通りはまばらで、生鮮食品や日用品が揃わない商店街は、周辺に続々と誕生する大型ナショナルチェーンのスーパーにお客さんを奪われるばかりでした。

 この傾向の発端は、何といっても1992年の大店法改正でした。1989年の日米構造協議によって内需拡大が「強制」されると、「規制緩和=正義」という言論が支配的になり、大型店の出店規制が緩和されて行きました。

――日本の市場を狙うアメリカ企業とそれをバックアップするアメリカ政府、その流れに乗って「規制緩和」を叫ぶ新自由主義者たち。

 このような流れと都市の急速な郊外化、自家用車の普及がリンクして、郊外への大型店の出店ラッシュは始まりました。

 大型店の進出は、地方の自治体の政策とも大きくかかわっています。北海道の場合、新しい幹線道路を旧市街地の混雑を避けて通すために、次々とバイパスがつくられ、その道沿いにナショナルチェーンの店舗が進出しました。行政は、大きな企業が進出してくれることで固定資産税の税収が上がることを期待し、農地からの用途変更を積極的に推し進めました。なんせ税収のほとんどない農地が大規模開発によって「ドル箱」に変わる(ように思えた)わけですから、財政の苦しい地方公共団体はこのような計画に飛び乗ったわけです。行政は、開発のために上下水道の整備をはじめとするインフラを整え、多額の公共投資を行いました。

 その結果、どうなったか。市内の中心部や駅前商店街の空洞化が進み、全体の税収は落ちて行きました。土地面積当たりの税収は明らかに中心街のほうが高く、しかもすでにインフラ整備も整っているため、実は中心街の活性化のほうが財政にとってはプラスに働きます。郊外のインフラ整備(とその維持)に投じた負担に見合った税収が、ナショナルチェーン店舗からガッポリと入ってきているかというと、結局のところ中心街の税収の落ち込みを考慮すれば、総合的にはマイナスになっているケースが多いのです。つまり大型店の誘致は、総じてコスト・ベネフィットの関係がうまくいっていないのです。

行き詰まる大型商業施設のビジネスモデル

 しかも、郊外の大型店は、商売がうまくいかなくなると容赦なく撤退します。地方都市は人口の減少が著しく、その少ない消費者をターゲットに安売り競争が激化すると、中心街の零細小売店は次々に倒れます。しかし、大型店がマーケットを独占した頃には、消費者人口がさらに減少しているため商売が成り立たず、撤退の決断が下されることになります。そうすると、町で買い物をする場所自体がなくなるという「買い物難民」現象が起こり、さらに大型店での雇用がなくなるため、失業者が増加することになります。その結果、その町は「住めない町」になってしまい、さらなる人口流出が加速化します。

 「大型店は雇用を生み出している」と言いますが、町全体でみるとそうは言えません。中心街の小売店が次々に潰れていくため、そこで確保されていた雇用がなくなり、結果として失業状態に陥る人は増加します。さらに、大型店では利益が少なくなると、容赦のないリストラがはじまり、労働環境は悪化していきます。生き残りをかけた安売り競争が激化すればするほど、結局はそのコストをその町の従業員が払うことになり、町全体の所得は減少していきます。しかも、行政は税収の減少に直面し、インフラ整備などで投資した金額を回収することができなくなります。さらに大型店が撤退してしまうと、その後始末は結局住民による負担で埋め合わせなければならず、生活環境が悪化しているのに増税が断行されるという現象がおこります。

 こんな悪循環を繰り返しているのが、今の日本の地方の現状です。しかも、大型商業施設の経営は、どこも年々厳しくなるばかりです。地方の人口に比して多くつくられすぎたスーパーは、現在どこも過当競争状態です。しかも、少子高齢化の勢いは強まるばかり。将来に不安をもつ高齢者は、貯蓄を消費に回すことはありません。そして、地方の人口は減少の一途をたどっています。大型商業施設のビジネスモデルは、行き詰まりが目立ちます。

 そんな中、駅前商店街の活性化は、地方都市にとって極めて重要な問題です。商店街が住民の日常生活を支え、安定的な雇用を生み出す場とならなければなりません。そして、商店街がもっていた「縁側機能」を復活させ、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の場所にしていくことが、どうしても必要です。地方都市の生き残りは、商店街の再活性化にかかっているといっても過言ではありません。

 そんなわけで、発寒商店街の復活を成し遂げるべく動き出したわけですが、目の前には大きな障害がいくつも存在しました。問題は山のようにあったのですが、その中心は何と言っても「商店街の人たちがやる気を失ってしまっていること」と「地権者が空店舗の賃料を値下げしようとしないこと」でした。

――どうやれば商店街の人たちからやる気を引き出すことができるのか、そして地権者の心を動かすことができるのか。

 この難問に、私は北海道大学の学生たちと共に取り組むことになりました。

【お知らせ】

私が担当する地元FM局(三角山放送局)の番組「中島岳志のフライデースピーカーズ」(毎月第一金曜日の16:00~19:00)ですが、次回の放送(7月2日)は参議院選挙直前スペシャルとしてゲストに山口二郎さんをお招きして、徹底討論を行います。

番組では前回からツイッターを導入し、リスナーのみなさんの呟きを番組に反映しながら進行しています。是非、番組に呟きをお寄せください。ツイッターで「三角山放送局」をフォローしていただき、番組中、ハッシュタグ「#sankakuyama」をつけて呟いていただければ、番組を進行しながら私がすべてのコメントに目を通します。重要な呟きは、番組で即、ご紹介します。

番組はネットやi-phoneで聴くことができます。是非、札幌からの発信に注目してください!!

 

  

※コメントは承認制です。
第2回
なぜ、地方商店街はさびれたのか
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    地方の過疎化は、国の政策と大きく関わっていたのです。
    マスコミの報道で操作される「世論のジェットコースター化」が
    さらなる悲劇を生み出さないようにするにはどうすれがいいのか?
    参議院選直前の7月2日の放送を聞いて、みんなで考えましょう。

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なかじま たけし: 1975年生まれ。北海道大学准教授。専門は、南アジア地域研究、近代政治思想史。著書に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)、『中村屋のボース─インド独立戦争と近代日本のアジア主義』(白水社)、『パール判事─東京裁判批判と絶対平和主義』(白水社)、西部邁との対談『保守問答』(講談社)、姜尚中との対談『日本 根拠地からの問い』(毎日新聞社)など多数。「ビッグイシュー」のサポーターであり、「週刊金曜日」の編集委員を務めるなど、思想を超えて幅広い論者やメディアとの交流を行なっている。近著『朝日平吾の鬱屈』(双書Zero)

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