ぼくらのリアル☆ピース


相談や講演会にと、忙しく飛び回る24歳の仁藤夢乃さん。3年前に一般社団法人「女子高生サポートセンターColabo」を立ち上げ、孤立する10代の少女たちのサポート活動をしながら、彼女たちがおかれている状況についての情報発信も行っています。
著書『難民高校生』には、家にも学校にも居場所を見つけられず渋谷の街をさまよっていた高校時代について綴られています。
大学在学中には、フェアトレード、難民支援や東日本大震災の被災地支援など、さまざまな社会問題にも関わり「女子高生のことも、政治やホームレス問題もすべて地続きのように感じている」という仁藤さんに話をうかがいました。

仁藤夢乃(にとう・ゆめの) 1989年生まれ。「渋谷ギャル」生活を送り、高校を中退。ある出会いをきっかけに、農業やボランティア活動などを始める。大学在学中の東日本大震災をきっかけに、「Colabo」を設立し、高校生と復興支援商品を開発。現在は少女たちの自立支援を行っている。著書に『難民高校生』(英治出版)『女子高校の裏社会』(光文社新書)。

◆めげない援交おじさんに、支援者が負けてはだめ

――前回は少女たちの置かれている状況とColaboの活動について聞きましたが、仁藤さんのような支援をしている団体は、少ないのでしょうか?

 学習支援とか就労支援とか、若い人を対象に支援している団体はたくさんあるんです。でも、ただ相談窓口があるだけでは意味がない。若い女の子は支援が難しいとされていて、自分から相談にはなかなか来ないと言われます。でも、私からしたら「そりゃ、行かないよ」って思う(笑)。「さあ、相談にのりますよ」と待っていられても、ハードルが高すぎる。だからって、「女の子は来ない」で終わらせてはだめ。それは支援のあり方が機能していないってこと。女の子側の問題じゃなくて、支援者側の問題です。
 支援者からは「面接をばっくれられた」とか、「うざいと言われて関わるのがこわくなった」という話もよく聞きます。あと「傷つくことありませんか?」と聞かれることも。傷つくことは、もちろんありますよ! 約束に来ないとか、寝坊するとか、本当か嘘かわからない言い訳をされるとか。でも、それも含めて向き合って、信頼関係をつくっていかないと。
 講演会では「うざいと言われたからいやだって言っていたら、支援なんてできません。何度断られてもめげない援交おじさんを、もっと見習ってください」と話しています(笑)。

◆表社会のスカウト組織をつくりたい

――支援に「つなぐ」部分が機能していないということですか?

 そうなんです。いい支援のプログラムはたくさんあって、受け皿の議論はたくさんされているけれど、若い人につながるためのアウトリーチの方法は考えられていないし、確立もされていない。使われない支援では、意味がないですよね。
 困っている女の子に一生懸命声をかけるのは、援交おじさんとスカウトばかり。JK産業とかキャバクラのスカウトって、新宿だけで毎日100人とか200人くらいいるんですよ。裏社会のスカウトの人たちは、女の子と必死でつながろうとしています。だから、表社会にも、それに負けないくらいのスカウト組織をつくっていかないと。
 たとえば、裏社会では「スカウト」と「店長」と「オーナー」という主に3つの役割があります。女の子に声をかけるスカウトは若い人。アプリとか流行りのツールや場所、スタイルを研究して、LINEも駆使します。スカウトにもいろんなタイプの人がいて、女の子は自分のセンスに合うか合わないかで、連絡先を教えるかどうかを決める。でも、女の子がひとりひっかかれば、その子の紹介で他の女の子につながることもできる。女の子のニーズやタイプにあうように、お店も可愛い系とか大人っぽい感じなどいろいろ選択肢があるのですが、それを運営しているのが「店長」です。
 表社会でも、「スカウト」は若い人がやって、「店長」は知識や支援経験のある大人が担えばいいと思います。そして、いろいろな店舗を運営している「オーナー」は、表社会でいうと「地域」みたいなイメージです。地域のなかに、それぞれのニーズに合わせた支援団体があって、そこに支援のスカウトがきちんとつなぐ。それくらい力を入れて困っている女の子に声をかけていくことは、貧困の連鎖をとめるにも役立つし、既存の支援を生かすためにも意味があると思います。

◆親が豊かでも、子どもは貧困という現実

――JK産業のようなところで働く背景には、貧困の問題もあるのでしょうか?

 そうですね。取材では、JK産業で働いている子の3分の2は、家庭環境に問題があり、3分の1は貧困の問題を抱えていました。ちょっと複雑なのですが、親は経済的に豊かでも、家族関係がうまくいっていないために、子どもだけ貧困というケースも多い。要するに、ネグレクトみたいな感じです。いいマンションに住んでいて、親の見栄でいい私立高校に通っていても、家では食事もでないし、食費もほとんどもらえない。
 日本では「子どもの貧困=親の貧困」としてとらえられがちで、子どもは親から養育されていることが前提になっている。でも、そうじゃない場合もあるんです。そういう子どもたちは、制度の隙間みたいなところにいます。すごく生活に困っているからといって、10代で生活保護をとれるかというと、実際はかなり難しい。そういう子どもたちの受け皿はないし、見過ごされています。
 来年施行される「子どもの貧困対策法」の検討会でも、高校生世代の子どものことはほとんど議論されていませんでした。でも、いま関わっている女の子たちをみていると、高校生世代が、貧困を再生産するかどうかの重要なラインだと感じます。進学するのか、就職するのか、JKリフレや18歳未満を働かせる違法のキャバクラのような雇用契約のない仕事に就くのかで、その先の将来は大きく変わる。それは男の子にしてもそうです。
 妊娠や中絶の相談もよく受けるのですが、15、16歳くらいの女の子だと、数ヶ月後、数年後にはお母さんになっている可能性もあります。母親が孤立した状態のままで子育てをすることになると、関係性の貧困や経済的貧困がそのまま子どもにも引き継がれてしまう。子どもの貧困問題というと、どうしても小さい子どもばかり目がいきがちで、確かにそれも必要だと思うのですが、10代後半の子どもたちへももっと目を向けてほしいです。

知り合った女の子と、料理をすることも。楽しみながら生活力を身につける。

◆高校を中退した子どもの行く先がない

――ほかに、10代の子どもへの支援で足りないと感じているものは?

 たとえば高校を中退してしまうと、アドバイスしてくれる大人がまわりにいなくなってしまいます。中退後の進路は誰も教えてくれません。高卒認定試験に受かれば大学に行ける可能性があるとか、もう一回高校に再入学ができるとか、通信制や定時制で勉強できることも知らない子がいる。それを教えるかどうかは担任の先生次第。私が高校を中退して大学にいった話をすると「えっ、どうやって?」と聞いてくるんですよ。そういうことは学校にいる間にちゃんと教えてあげるべき。でも、それをやると中退率が上がるとか意味不明なことを言われちゃう。学校をやめてしまう子へのサポートはまったく考えられていません。
 JKリフレやお散歩には、高校を中退した子もかなりいます。それは、ほかに働く場がないから。中退すると現役の高校生よりもバイトに受からない。信頼されないんですよね。JK産業とかにいる子たちは、ある意味ですごく自立心がある子が多い。自分の力でなんとかしようと思うから、「じゃあ、自分で稼がなくちゃ」となるんです。でも、自立心がせっかくあっても、働ける場所は危険なところしかない。夜の仕事を始めれば生活が昼夜逆転するので、昼間の大人の目にもつかなくなっていく。その子たちがちゃんと安全に働ける場があればいいのにと思います。
 東京都では毎年3,500人くらいが高校をやめていますが、2年間に中退した7,000人の追跡調査を行ったところ、900人ちょっと、つまり14%くらいしか把握できなかった。学校にいる間なら、その子がどこにいるのか把握できたはずなのに、やめた途端に14%になってしまう。残りの86%はどこにいるのか、わからない。そういう子たちがJK産業などに多くいるのです。

◆社会と女の子をつなぐきっかけに

――仁藤さんのFacebookやブログには、特定秘密保護法の話やデモに参加したことなどもかなり書かれていましたね。

 Facebookやブログには、読んでいる女の子に興味をもってほしいことを書いています。女の子と会ったことや料理のことなんかと同じように、デモについても書きました。特定秘密保護法がとんとん拍子に進んじゃって、本当に戦争がリアルに迫ってくる気がしてやばいと思ったんです。それに、デモって以前は一部の人たちだけが盛り上がっているものという印象でしたが、今回はたくさんの若い人たちが声をあげていました。若い人でも自分たちのやり方で、自分たちの意見を出してもいいと思えるデモだった。だから、女の子たちも連れて行きたいし、声をあげている若い人たちのことを知ってもらいたいと思ったんです。

――反応はどうでしたか?

 私のブログを見て、父親から虐待を受けて、保護された施設からも逃げてしまった女の子が「なんか秘密保護法とか戦争とか政治とかよくわかんないけど、そういう風に子どもを守るためにとか、未来のこととか考えて本気で主張している人のことをブログでみて、私も人のために何かしたいと思いました」というメールをくれました。「戦争って起こるんですか?」と聞いてきた女の子もいます。どんなことが社会で起きているのかを知って、それを自分のこととして考えるきっかけにしてほしい。
 私自身、学生時代にはフェアトレードのファッションショーを開催したり、難民支援を手伝ったり、東日本大震災の被災地支援をしたりしてきました。いまは女子高生のサポートを軸にしていますが、女の子たちにもいろんな世界があることを知ってほしい。いろいろな問題に立ち向かっている人、さまざまな悩みをもって生きている大人の存在を知ることは生きていく力になると思います。

◆すべて「自分ごと」。無関心な社会を変えたい

――「どんな問題もすべて地続きだ」とも書かれていましたね。

 フェアトレードも難民支援もホームレス問題も、すべてたまたまの縁で関わったものばかりですが、知れば知るほど自分に関わりがあることだと感じました。そういう意味では、ぜんぶ地続きの問題。私も高校時代には「うちらホームレスじゃね?」とかいいながら、帰るところも行くところもなくてビルの屋上にダンボールを敷いて寝ていたので、ホームレスのおじさんの気持ちもわかる気がする。実際に、ホームレス支援団体などでおじさんたちの幼少期の話を聞くと、いま関わっている女の子たちの状況や背景と重なる部分も多いんですよ。女子高生の話も、おじさんたちに聞いてほしいと思う。そこからお互いに気づけることがあるような気がします。
 高校生のとき、「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されているはずなのに、私はなんでホームレスみたいな状態におかれているのだろうと思っていました。いま、私たちが支援しようとしている「衣食住」や「関係性」は、誰にでも必要なもの。本当はあって当たり前のものです。それなのに、それが保障されていない「私たち」だったし、いま関わっている「女の子たち」だし…。だから、憲法や政治、社会のことをもっと女の子たちにも知ってほしいという気持ちもあります。自分がもっている権利がわからないと、問題があっても怒りもわからないし、声もあげられないから。
 いまって、社会全体が無関心。何でも自己責任として放置してしまう。でも、社会は一人ひとりがつくっているものですよね。「出会った責任」、「知った責任」があると思う。子どもたちが「生まれてきてよかった」と思えるような社会にするために、大人が一人ひとり動いていかないといけない。自分のこととして、女の子たちが孤立に追いやられるような社会を変えていかなくてはと思っています。

構成/中村未絵 メイン写真/仲藤里美

 

  

※コメントは承認制です。
仁藤夢乃さん ■その2■
女子高生もホームレス問題も
すべて地続きのこと
」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    「子どもの貧困」が話題にあがるようになりましたが、制度の狭間におかれた10代の現状はあまり知られていないまま。女の子たちにつながろうとするスカウトや“援交おじさん”に負けない「表社会のスカウト組織」がつくれるかどうかは、私たちの関心の高さにかかっています。

  2. 伊藤惇 より:

    援交おじさんは性欲、スカウトはお金、という明確な目標がしっかりしてるから、
    女子高生に根気強くかつ様々な工夫をしてコミュニケーションをとる。
    支援者・相談員とかは、明確な「話せた・助けた女子高生の数」のノルマ的なモノなんてないだろうから、
    もし女子高生にそっぽ向かれても自分に大きな不利益はないし、
    逆に、うまくいっても大きな利益がない。本気度が違うよ。
    利益やメリットばかり気にするなんて薄情な人間の考えだ、と言われるかも知れんが、
    無視や罵倒を乗り越えてても根気強いコミュニケーションをとるためには、明確なモチベーションが必要。
    精神論やキレイ事じゃいつまでたっても、カタチだけの支援のまま。

  3. marimo より:

    なるほど裏社会の構造との比較は、わかりやすいです。仁藤さんすごいひとですね。家と学校(それに関するネット社会)以外にも居場所があるんだよ、と悩んでいる多くの若者に伝えたいものです。

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