普天間基地の「移設」問題が注目を集める一方で、
沖縄県外ではほとんど報道されていない、
もうひとつの「新基地建設」の動きがあります。
沖縄本島北部、東村高江。やんばるの森に囲まれたその小さな集落で、
米軍ヘリパッド建設への反対運動に取り組む
比嘉真人さんに話を聞きました。
比嘉真人
(ひが まさと) 1977年生まれ。東京でTV番組制作などの仕事にかかわった後、2007年に沖縄本島北部の国頭郡東村高江に移住。米軍ヘリパッド建設計画に反対する住民たちの活動を、映像に記録して発信し続けている。愛称は「マーティ」。
<高江のヘリパッド建設問題とは>
沖縄本島北部、国頭郡東村にある高江は、希少な動植物の生息地として知られるやんばるの森に囲まれた、人口約160人の小さな集落。すぐ隣には、沖縄県内最大の米軍事演習場である、アメリカ海兵隊の「北部訓練場」がある。
1996年のSACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意により、この北部訓練場は総面積の約半分が日本政府に返還されることとなった。同時にその「交換条件」として、ヘリコプターの離着陸施設「ヘリパッド」の建設計画が浮上。6カ所にわたる建設予定地は高江の集落をほぼ取り囲むような形で位置しており、自然環境はもちろん生活環境のさらなる悪化が懸念されている。
突然発表されたこの計画に対し、高江の住民らは2007年7月から工事現場入り口での座り込みなどの抗議行動を続けてきた。詳しくは住民らによるブログ「やんばる東村 高江の現状」などを。
◆高江と出合い、
ヘリパッド問題と出合った「激動」の3年
──比嘉さんは現在、沖縄本島北部の東村高江で、米軍のヘリパッド建設計画への反対運動にかかわられていますが、もともとは沖縄のご出身ではないんですよね。そもそもどうして沖縄に、それも高江に住むことになったんでしょうか?
以前は東京で、フリーでドラマ制作のスタッフをしていたんです。両親は沖縄出身なので、小さいころからよく遊びに行っていて、いいなあ、住みたいなあ、とはずっと思っていたんですけど。
そんなとき、2006年の秋に、友達に誘われて行ったチベットのダライ・ラマ法王の講演会で、高江に住んでるっていう女の子と知り合ったんですね。彼女は東京出身なんだけど、高江にある「山甌」っていうカフェで働いていて。そのときに話を聞いたのが、ヘリパッド建設計画について知った最初です。
で、そのときは正直「そうなんだ、大変だね」くらいしか思わなかったんですけど、ちょうどそのしばらく後に沖縄に遊びに行く予定があって。せっかくだから、というので高江にも足を伸ばしたんですね。
──行ってみて、どうでした?
とにかくもう、自然が圧倒的で。特に星空がすごくて、流れ星なんて5分に1回は流れてるんじゃないか? みたいな感じでした。
──そうですよね。私も2007年に一度だけ高江に行きましたけど、まずその自然の豊かさにすごく感動しました。
その後、東京に戻ってまたドラマの仕事をしてたんですけど、「山甌」の彼女から「2007年7月に工事が始まる」という連絡が来て…。ちょうど仕事もひと区切りつくタイミングだったし、一緒に泡盛を飲んだりした地元の人たちのことも、「どうしてるんだろう」と気になって、また現地へ行くことにしたんです。
そうしたら、ちょうど建設工事現場の入り口での座り込みが始まろうとしていたんですね。建設計画について、沖縄防衛局(防衛省の地方機関)に説明や話し合いを求めても、納得のいく回答は得られない。それでやむなく、別に運動家でも何でもない、普段はカフェをやってたり農家だったりっていう「普通の人たち」が、工事が始まらないように監視活動をするしかないという状況になっていた。
──「山甌」のオーナーも参加されていますし、本当に「普通の人たち」ですよね。それまで、反対運動とかデモとか、そういうこととはまったく無縁だった人たちが、とにかく「生活を守る」ために立ち上がらざるを得なくなった、という感じ。
そうなんです。それを見て「何か自分にもできることはないかな」と思って。「このことを、外にもっと知らせなきゃ」と、たまたま持ってきてたビデオカメラで、その様子を映像に収めることにしたんです。
──もともと、お仕事でも映像を撮ったりはしてたんですか?
いえ、テレビの仕事は制作の裏方だったし、一時期専門学校にも行ったけど中退しちゃったので。趣味で撮ったりはしてたけど、ちゃんと撮ったものを形にしたのは高江に行ってからですね。
──でも、そのときはまさか自分が「住民」になるとは思っていなかったですよね?
そうですね。何カ月か滞在して映像をまとめる、くらいの予定だったんですけど…えーと、そうこうするうちに高江に住んでる彼女と、結婚することになりまして(笑)。もともと沖縄への移住は考えてたし、じゃあ高江に、ということになったんです。
そこからずっとヘリパッドの問題が続いているので、当然僕もかかわり続けることになって。今は、畑をやったり、頼まれてNGOのイベントなんかの撮影をしたりしながら、地元住民でつくる「ヘリパッドいらない住民の会」の事務局をしています。
──東京で仕事をしていたころから、なんだか激動の3年間ですね。
そうなんです。今、こうやってあちこちで「日米安保が…」とか話したりしながら、ときどき「何言っちゃってんだ俺!?」とか思うことがありますから(笑)。そんなこと話すような人間じゃなかったのになーって。
あたりに広がるやんばるの森。その豊かな生物多様性に、「東洋のガラパゴス」の別名も
◆「国への反対行為」は「違法行為」?
──さて、高江の問題についてもう少し聞かせてください。住民の皆さんが座り込みを開始して、その後はどうなったんでしょうか?
一時は、沖縄防衛局から40〜50人もが大挙して押し寄せて、工事を強行しようとしたりもしたんですが、みんなの監視もあって結局1年半くらいは工事は進まないままでした。
でも、それに対して国がとったのは、「説明して理解を求める」ではなくて「住民を訴える」という行動だったんですね。2008年の12月、沖縄防衛局から15人の高江住民に対する「妨害行為の禁止命令」などの仮処分(※)を求める訴えが、那覇地裁に申し立てられたんです。
※仮処分・・・何らかの権利が著しく侵害されていたり、もしくはその危機に瀕している場合に、その権利保全のために裁判所が暫定的に行う処置のこと。通常の裁判より迅速な解決が必要なときに行われる。ここでは、沖縄防衛局が「工事を進める権利が住民の反対運動によって侵害されている」として、住民たちに「妨害行為」をやめさせる仮処分を出すよう、地裁に訴え出たということ。
──「妨害行為」というのは?
ブログや新聞の記事で座り込みを呼びかけるコメントをしたこととか、とにかく建設に反対する内容の行動はすべて妨害行為にあたるという主張でした。しかも、15人の「被告」の中には、座り込みしてない人や小さい子どもの名前まであったりと、すごくずさんな申し立てだったんです。
でも、1年後の去年12月に出た仮処分決定は、15人中13人に対する申し立てを却下したものの、残り2人に対しては「妨害行為禁止」を命令する内容のものでした。もちろん納得はいきません。そこで、それに対する不服申し立てということで、今度は逆に僕たち住民のほうから、防衛局に正式な提訴をするよう求める「起訴(提訴)命令」を申し立てたんです。
──どういうことですか?
一つは、自分たちがいったいどんな「妨害行為」をしたというのか、ちゃんとそこを白黒つけたいという思いがあったこと。そしてもう一つ、仮処分が出たあと、それを放置していたら、その処分はずっと効力を持ったままですよね。だけど、それに対して「仮処分じゃなくて正式な提訴をしろ」という申し立てをすると、相手がそれに応じて45日以内に提訴をしなければ、仮処分自体が無効になるんですよ。
──なるほど。結果的に、仮処分の効力も失わせることができるわけですね。
そうなんです。で、仮処分の申し立てはもともと政権交代前に、前政権のもとで起こされたもの。政権交代が起こって、しかも現法務大臣の千葉景子さんは「人権派」と言われていた人ですよね。住民に対してこんな人権を無視した、恫喝するような政策はまさか引き継がないだろう、当然提訴は見送るだろう、という期待があったわけです。もちろん僕たちも、提訴の見送りを求める署名を集めたりもしていましたし…。
ところが、甘かった。民主党政権は今年1月29日、前政権の政策を引き継ぐ形で、「高江の住民による妨害行為の禁止」を求める正式な裁判を起こしたんです。結果として、住民の2人は法廷で被告席に座らされることになってしまいました。
この裁判についてはまだ判決は出ていなくて、口頭弁論が始まった段階なんですが、もし裁判が進んで、国が勝つようなことがあったら−−座り込みなどの活動が「妨害行為」だとして禁止される判決が出たら、ほかの住民運動にもそれが判例として波及してしまうでしょう。「戦争はいやだ」「基地はいやだ」といって反対する行為が、違法行為だということになっちゃうんですよ。
──そうですよね。基地問題だけではなくて、原発やダム建設への反対行動なども、すべて「違法行為」だとされかねない。そんなメチャクチャな、と思うんだけれど、それが国の行為として、公然とまかり通ってしまっているわけで・・・。
沖縄自体が「本土」からは離れた小さい島だし、高江なんてさらにその中でもほんとに小さい集落。なめられているというか、「人なんていないも同じ」みたいな感覚で見られているんじゃないか、という気がしますね。
工事ゲート前の座り込み現場。交代での座り込みは、もうすぐ開始から3年を迎える
ちょうど来京中だった比嘉さんにお話を聞いたのは4月6日。
その後も、高江を、そして沖縄を取り巻く状況は、激しく揺れ動き続けています。
「妨害行為」をめぐる裁判の第2回公判は、5月26日(水)11時から、那覇地方裁判所にて。
また、現状を広く知ってもらうため、6月半ばには東京で、
比嘉さん撮影の映像上映などをまじえたイベントも開催予定とのことです。
日程などはブログ「やんばる東村 高江の現状」で。