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安冨歩[編]小出裕章 中嶌哲演 長谷川羽衣子/明石書店

 『原発危機と「東大話法」――傍観者の論理・欺瞞の言語』で、「都合の悪いことは無視し、都合のいいことだけ返事をする」「どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す」「ああでもない、こうでもない、と引っ張っておいて、自分の言いたいところに突然落とす」など、原子力産業の中枢にいる専門家の詭弁ぶりを明らかにした安冨歩氏が編者となった対談集である。
 京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏とのそれは、編者が憧れの人へインタビューしているかのようだ。『原発のウソ』をはじめ、反原発の自著が次々ベストセラーになっていることにも無頓着。出世の道から外れても、誰にも命令されず、誰にも命令しない今の立場に満足とどこ吹く風。反原発を貫いているのは、原子力の平和利用という言葉に騙されてこの道に進んだ自分に対する落とし前であり、世のため、人のためではなく、自分のために原発とその利権に群がる集団と闘っているのだと言い切る。そんなかっこよさを引き出している。
 明通寺の住職、中嶌哲演氏は、沿岸部に多くの原子力発電所を抱える若狭湾に近い福井県小浜市で1970年代から反原発運動を続けてきた(「禁原発」を掲げて活動を続ける元衆議院議員の平智之氏、『日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体』の著書、大阪大学准教授の深尾葉子氏も同席)。当時から現在までの活動を振り返りながら、中嶌氏は、天文学的な数字、難しい専門用語や記号を持ち出す原発推進側の主張を鵜呑みにしてはいけないとし、自分を突き動かしたのは、原発をもってくると「広島原爆1000発分の死の灰」がたまるという言葉だったと語る。
 最後に登場するのは、NGO「e―みらい構想」代表かつ緑の党共同代表も務める長谷川羽衣子氏だ。彼女からは、楽しくオープンで多く人々を巻き込める反原発デモの方法や、ドイツの緑の党が政権に参画するまでの歴史をみながら日本の緑の党が影響力をもつ組織になるための課題が語られる。
 これらの対談は、自分以外の人やモノに自らの生殺与奪の権利を握らせないための指南書のようにも読める。
 編者が言及する、自らの立場上、嘘やごまかしをせざるをえず、それを指摘されると「自分には妻や子供がいる」と訴えざるをえない原子力産業に携わる人々の姿は、私たちにとって他人事ではないだろう。
 本書は反原発を機に生まれた人生相談本といえるかもしれない。様々な局面で活用可能なノウハウも詰まっている。

(芳地隆之)

 

  

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