マガ9対談

「国会の議論はめちゃくちゃ」
引用された判決の矛盾

鈴木 277の対象犯罪をよく見ていくと、テロ等準備罪といってもテロとは無関係としか思えない犯罪もたくさん入っています。

保坂 さっき言ったように、「テロ等準備罪」という罪名はないんです。政府が当初用意した法文のなかには、「テロ」とどこにも書いていかなった。そこで、組織的犯罪集団の前に「テロリズム集団その他の」とちょっと挿入した。それは気休めみたいなもの。これが入ったからといって条文構成は変わらないと政府は言っている。
 もうひとつ面白いのは、誰がこの「テロ等準備罪」という名前をつけたのかと民進党の法務部会のヒアリングで聞いたら、法務省の幹部が「私たちも分からない」と言っていました。いつの間にか決まっていた。つまり、法務省以外のところで決まったということですよね。

鈴木 想像で物を言ってはいけませんが、官邸筋からかな……と考えてしまいます。

保坂 「277にまで減らした」といいますが、私の手元には、平成19年の自由民主党政務調査会の条約刑法に関する小委員会第2回会合の資料があります。ここでは、123~155程度にまで減らしているんです。それより現在のほうが多いわけです。当時、野党側の言い分も聞きながら決めたこういう案を全部捨てて、元の共謀罪に戻しているのが今回の内容です。

鈴木 そういう意味では、非常に復古的な内容になっているわけですよね。そこが現代の治安維持法になりかねないと批判されるひとつの大きな要因だと思います。

保坂 国会の議論は大変めちゃくちゃです。この議論のなかで、いまこの法律がないとダメな理由、現行法では対応できない例として法務省が出したうちのひとつが、テロ組織が複数の飛行機を乗っ取って高層ビルに突撃する計画で航空券を予約した場合でした。これを取り締まるためには、共謀罪が必要なんだと説明しました。
 でも実は、ハイジャック防止法というのがあり、この中に予備罪があって、チケットを予約・購入する場合には適用できるんです。1970年5月の参院法務委員会での法務省刑事局長答弁や、刑法のコンメンタール(逐条解説書)でもそうなっています。ところが、そういったことにまったく触れないで、金田法務大臣は、「昭和42年東京高裁判決」(1967年)というのを出してきて、「予備罪というのは相当慎重に定義をしなければ使えない」というところを引用して読みました。これは安倍総理も引用しています。予備罪は簡単に適用できないから、共謀罪が必要なんだと。
 ところが調べてみると、これは「三無事件」という、クーデター未遂事件の判決なんです。この事件では22名が一網打尽に逮捕されました。その主たる被告は、実は陰謀罪(=共謀罪)で有罪になっているんですよ。

鈴木 予備罪が使えないから共謀罪をつくらないと大変だという説明で出した判例なのに……。

保坂 実際には、その昭和42年判決は共謀罪で有罪になっている。このクーデターは、非常に計画がずさんだったために、実際に実行できたかどうかは疑わしいとされた。クーデターをやろうとしていたことは事実なので陰謀罪だけれども、予備罪というには計画がずさんすぎる。だから、そう簡単に予備罪をあてはめるべきではないという判決なんです。この中身を報道機関がちゃんと解説すれば、「一体、政府は何を言っているんだ?」となりますよね。

「一般人は関係ない」は本当か?

鈴木 あと心配されるのは、ある組織が普通に平和的にやってきたのに、突然「その性格が一変」した場合に、テロリズム集団になるんだという説明があります。この「性格が一変」ということが非常にわかりにくい。

保坂 これも金田法務大臣の滑舌がよくなる部分ですね。普通の会社であっても、団体であっても、その性質が犯罪の実現にすり替わったときには組織的犯罪集団ということになるわけでございます、とこう言っている。
 「一般の人には関係ありませんよ」も印象操作のひとつです。組織的犯罪集団と聞くと、たとえば振り込め詐欺グループなどを想定していると思いがちですよね。悪いことをしてやろう、お金をとってやろうと集まった組織みたいなイメージですが、そうではない。
 実は、2015年の最高裁に、この「組織が一変する」ことを、よく示している判例があります。ある会社の経営者が、経営が傾いていずれは破たんすることを認識しているのに、会員制リゾート権を売り続け、これが組織的犯罪として問われました。単純な詐欺よりも、組織的詐欺のほうが罪は重い。罪を問われたほうは、これは単純な詐欺だとして争いました。
 しかし、その部下たちが事情を知らずに、これまでと同じように電話営業をしていただけだとしても、それは組織的詐欺と言えると最高裁は書いています。経営者がもうこれは破たん必至だと分かっていながら売る段階で、それまでの「経済行為」が「詐欺」に転換する。そう考えると、どんな会社や団体、市民グループも含めて「うちは対象外です」とはならない。

沖縄で起きていることは、
「共謀罪」の先取りでは……

鈴木 テロ等準備罪、共謀罪のこわさ、ずさんさがよくわかります。最近僕がいちばん心配だと思っているのは、たとえば沖縄の辺野古の基地建設反対運動とかでリーダーの山城博治さんが、辺野古のゲート前でブロックを積んだなどの微罪で逮捕されて、約5カ月におよぶ長期勾留をされたことです。
 東京新聞(2017年4月16日付)に載っていた山城さんのインタビューによれば、警察は山城さんの共犯者の立証で、山城さんの演説に拍手をしたことや座り込みが続く辺野古のゲート前に来ていたことを根拠に共謀を認定したとありました。山城さんが「共謀罪が発動した時の準備がされたのだと感じた」という内容です。僕は、これはまさに共謀罪の先取りじゃないかという感じがするんです。

保坂 いま言われているのは、共謀共同正犯の共謀だと思いますが、これは法律にあるわけでなく、判例が重ねられてきたものです。最初は「黙って示す」なんてものは共謀じゃなかったのですが、段々と解釈が広がってきています。
 ブロックを積み上げるような行為が、これだけの長期勾留になるのは世界的にも非常におかしいし、人権侵害も甚だしいと思います。共謀罪がなくても微罪あるいは意外な容疑で長期にわたって運動の中心人物が勾留されるということがこれまでも起こっているわけです。
 しかし、共謀罪が成立した場合には、ブロックを積んでいなくても「ブロックを積もうか」という話から問題になる。これははるかに幅が広い。ブロックを積もうかという話を、実際どこでどう決めるのか、証拠としてとらえようがないわけです。とすれば、なるべく監視していこう、証拠を集めていこうとなる。いわば「監視社会」につながるの恐れがたぶんにあるのではないでしょうか。

鈴木 先ほどのインタビューでは、警察は、山城さんの演説への拍手が「賛同」、説明を受けたことが「協議」であると……。

保坂 それは、限りなく治安維持法に近づいていきますね。

鈴木 近いですよね。

保坂 日本の法律は、内心の自由を侵さないのが原則です。かつての「治安維持法」は国体の変革という危険思想をもった人物、ないしそれに賛同する人間に対して容赦なく襲い掛かっていき、キリスト教も創価学会も市民サークルに至るまで、「あまり戦争は好きじゃない」とか「平和がいいよね」という人たちも含めて適用されていきましたよね。それに対する反省があって、考え方・思想の部分に対して国家権力は踏み込まないんだという原則にしてきたわけです。
 誰かの演説に拍手するのは、「心」ですよね。それが今回の共謀罪で処罰の対象になるとすれば、心の中しか調べようがない。実際、犯罪計画書を細かく書き残すなんてあり得ないわけですから。そうすると、そのときに誰が賛同していたのか、リードしていたのか、早く自首すれば減免されるわけですから、お互いが相手に罪をなすりつけるようなことになりかねない。

鈴木 いわゆる司法取引ですよね。実際にやられると、密告社会になる。

保坂 「これは、テロ対策なんだ」と聞かされているけれども、金田法務大臣が言い切っているのは、「幅広にやりますよ」ということ。テロ等準備罪の「等」の部分です。彼が言い切るところがいちばん本質で大事なところ。金田法務大臣は何もわからずに答弁しているようにも見えるけれど、意外と自分の役割をわかっているんじゃないかというようにも思います。

共謀罪があれば、テロは起きないか?

鈴木 ずっと聞いてきましたが、共謀罪、テロ等準備罪の成立というものが、戦前の治安維持法の再来、二の舞になるんじゃないかという恐れがどうしても消えません。これは廃案に追い込むべきではないでしょうか。

保坂 考えたこと、話し合ったこと、あるいはLINEでまわし合ったことが、対象犯罪として摘発される「かもしれない」。この共謀罪が成立すると、「我々は共謀罪にならないかな?」ということを冗談であれ、少し意識して話すようになったりするわけですね。そういう意味では、言論・表現の自由にもかかわってきます。また、山城さんの話も出ましたが、今でさえ力ずくで辺野古や高江の工事が進められている状況で、そこにこの法律が加わるわけです。
 話を戻しますと、やはり国際組織犯罪防止条約には早く入って、多くの人が心配しているテロについては、もしいまの法律に穴があるならふさげばいいと思います。でも実は、穴はほぼないんです。今回の共謀罪は、「やっていないことが処罰される」のがポイントですが、重大犯罪においては、いま日本にもすでにあるんです。これを忘れないでください。
 この法律がなければ、テロが起きるのでしょうか? ヨーロッパでテロが起きている国のほとんどに、共謀罪や参加罪(※)があります。つまり、この共謀罪があるからテロが起きないという構図にはなっていないということです。

(※)組織的犯罪集団への参加を罰する罪

鈴木 「私には関係ない」と言っている一般の人が、実はどこでひっかかるかわからない恐ろしさをもった法律でもあります。これからも共謀罪については、我々もしっかりウォッチしていきたいと思っています。保坂さんもどうぞ頑張ってください。ありがとうございました。

保坂 ありがとうございます。

(写真・構成/マガジン9編集部)

※この記事は、市民ネットTV「デモクラシータイムス」のインタビュー動画から、一部編集をしてお届けしています。インタビュー動画も、あわせてご覧ください。

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※コメントは承認制です。
矛盾だらけの国会議論と、「テロ等準備罪」という印象操作│保坂展人さん(世田谷区長)×鈴木耕さん(編集者・ライター)」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    表現や言論の自由を奪いかねない「共謀罪」。「テロ等準備罪」という誤解をまねく名称をつけて、その恐ろしさを隠そうする姿勢がそもそも信用できません。またしても強行採決…という噂も聞こえていますが、しっかりと審議に時間をかけ、その本質を国民がきちんと理解することが必要です。
    今週のコラム「立憲政治の道しるべ」では、共謀罪の審議が進められている衆議院法務委員会運営の「異常なやり方」についても指摘しています。あわせてご覧ください。

  2. うまれつきおうな より:

    籠池氏を呼ぶときの理由は、国民の財産を守るためではなく
    総理が侮辱されたから、だったくせに、同じ口でよく「国民の生命財産を守るため必要だ」などと言えたものだと思う。善良な一般人には関係ない、とうそぶいているが日本人ならほぼ誰でも担任に嫌われた子供が「終わりの会」でクラス全員から集中攻撃をされる光景を見たことがあるはずだ。子供は大人社会の縮図である。それとも自民党を支持する人たちは赤坂の芸者衆のようにどんな権力者の機嫌もとれる自信があるのだろうか。

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