マガ9対談

その1その2その3


お待たせしました! 前回掲載からずいぶんと時間が経ってしまいましたが・・・いよいよお二人の話は最終回。私たちが「世界の平和と人々の幸せ」を考える上での、大切な概念について話し合います。

伊勢崎賢治●いせざき・けんじ1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある。

土井香苗●どい・かなえ弁護士、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 
東大在学中に司法試験合格。2000年に弁護士登録。ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了後、ニューヨーク州弁護士資格取得。2006年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウオッチに参加し、2007年より現職。著書に『“ようこそ”といえる日本へ』(岩波書店)。

●拉致という人権侵害

編集部 
ブッシュ政権からオバマ政権になり、北朝鮮への対応も変わってくるのでは、と言われています。国際問題や国際紛争について考え、また議論をする時、伊勢崎さんは、日本にとっては、やはり北朝鮮問題を考えないわけにはいかない、と以前おっしゃっていました。それについて、伊勢崎さんから土井さんにお聞きになりたいことがあるそうですが、ちょっとその問題についてお話しいただけますでしょうか?

伊勢崎
 これ、気をつけて発言しないといけませんね・・・。恐れるつもりはないですけど。だけど拉致事件というのは、本当に我々当事者の問題で、もし自分の身にそれが起こったら、自分の家族に起こったらと考えるだけで、身を切られるような思いです。その前提で話したいと思います。
 まず、北朝鮮による拉致は国家による個人に対する犯罪ですよね。それも自国の国家ではなくて、他国の国家なわけです。こんなものが許されていいわけはない。
 国家というのは主権が認められるわけですが、その国の中で個人への暴力が大規模に行われているところに関しては、国際社会による「保護する責任」という概念ができつつあります。しかしこれは、「人権」とは、対立する概念ですよね。

土井 
「保護する責任」と「人権」の2つの概念が対立ですか? 両立しているんじゃないですか?

伊勢崎 
「保護する責任」=「内政干渉」の場合、僕は両立しないものであると考えています。それはなぜかというと、それのジレンマが、スーダンのダルフールの問題でしょう。

土井 
それはどういうことでしょうか?

伊勢崎 
つまり、スーダンには国家主権がある。だから国家が崩壊したときじゃないと、国連はあまり介入できませんよね。

土井 
限定的な形でしか介入できない。

伊勢崎 
そしてルワンダの経験というのは、あの時、国連が武力を含めて介入するべきだったというのに、全面的にはできなかった。ミャンマーもそうですよね。安保理の常任理事国に中国がいるということで、介入は今のところできていませんよね。

 中国にもそれなりに言いわけがあって、スーダンなんかで言われるのは、内政不干渉。主権が強くないと国が分裂し、内戦がひどくなり、犠牲者もより多く出る。だから、現政権を支持し強化することこそ、スーダンの安定につながる。こういう理屈です。僕は、別にこれは支持しているわけじゃないけど、強い政権にすることは当然じゃないか、という考え方は、中国にありますよね。

 それに対して、人権上の問題から、国家が国民を保護するという責任としての主権を行使しないときには、国際社会は、必ずしも武力ではないかもしれないけれども、いろいろな圧力も含めて、内政干渉のようなことをやらなければならないというのが、保護する責任。そういう意味で、対立する概念になっていると思うのです。

●「保護する責任」を人権から考える

土井 
人権侵害というのは、基本的に、国家によって、かけがえのない、本来は不可侵のはずの個人の人権を侵害されること。例えば拉致でもそうですし、軍に殺されるでもそうですし、差別されるでもそうですし、警察に拘束されるとか、いろいろありますね。国家に、権力を濫用させない、国家権力を制限するルールを定めるのが人権の考え方です。人権を認めていない国はなくて、ほぼ世界じゅうの国家が、細かな人権の内容に合意する様々な条約の当事国となっています。
 加えて、これは法的な考え方ですけど、国際慣習法といって、別に合意していなくても拘束される、自然法的な法律もあります。人権が普遍的な価値観であることは世界中で認められていて、国連などの場では、各国の共通の認識になって動いています。

 まさに国家主権はもちろんあります。ただ、「保護する責任」の問題意識は、世界中の人々すべてに人権があると言っても、どこかの国で深刻な人権侵害が起こっているときに、見捨てるしかないのか、という問題意識です。ルワンダでは、ヒューマン・ライツ・ウォッチの警告は無視され、事実上、国際社会は人々を見捨てた。その問題を、国連も各国の政府も、それぞれに反省したわけです。
 本来、自分の国民を守るのはその国の政府ですが、そういう政府が全く国民を保護しないどころか、まさに国民の人権侵害を続けるような場合に、 国際社会は見捨ててはならないという考えが、保護する責任です。

 私から見ると、人権は紙の上では、保護すると書いてあるが、実際に人々を人権侵害からを保護するためのツールが足りていない。紙の上の定義だけじゃだめでしょう。手段が限られている中で、より実効的に国家からの人権侵害を解決する方法が、保護する責任であって、それはまさに、人権保護と補完関係というか、まさに車の両輪です。だから、伊勢崎さんが今、「対立している」とおっしゃっている意味が、よくわからないのですが。

伊勢崎 
言っていることは一緒で、多分、僕も土井さんもそれを補完するべきだと思っている。保護する責任も国家主権も、どっちも大切なわけですからね。それはそうなんだけど・・・。

土井 
国家主権という名で、人権の保護を国家が阻んでいるということがおっしゃりたいのでしょうか。確かにそうした問題がありますが、それを解決するための論理のひとつが保護する責任なんです。しかし国家主権を楯に、人権の侵害に対する保護を拒否する政府がある、という話ですね。まさにスーダンとか。

伊勢崎 
そうです。

土井 
そういう意味で「対立する」とおっしゃっている。ならば了解です。

伊勢崎 
だからあくまでも理想としては、補完関係になることです。どっちも大切なわけですから。

●「国家主権」と「人権」の関係

伊勢崎 
話は戻りますけど、北朝鮮問題において国家主権と人権というと、前者が後者を利用するという構図がありますよね。今政権与党が拉致問題を、これは北朝鮮による国家主権の侵害だと言っています。拉致問題は人権の問題なのに、国家主権の侵害ということで、いわゆる愛国的なコンテクストで語られている。そのようなコンテクストで、人権問題を語っている。これには、反論するのは勇気がいるのですけれども、国家主権対人権というコンテクストから言うと、スーダンやミャンマーといった国の状況と比べても、北朝鮮はかなり特異なものでしょう?

土井 
スーダンの状況というのは、まさに、スーダン政府が国家主権を楯にして、自分の国の国民を虐殺していることに関して、国際社会に手出しをさせないという議論ですよね。それには反論があります。まさにさっき申し上げたとおり、国際慣習法だったり、スーダンも合意している国際条約がありまして、スーダンは、人権を保護するという責任を負っている。ただし、もちろん武力介入をしていいということはいっていませんが。
 国際社会がこれに関心を払って、まずは、平和的な手段でプレッシャーをかけていく。例えば、国連の人権理事会だとか、国連安保理、二国間の交渉の際に、あなたの国の人権はどうなってるのか、と問題点を指摘することは、国家主権違反には全然ならないと思うんです。

 ただ、武力で介入していいかといったら、それはまた全然別次元の話です。武力の行使は、安保理で認められるか、自衛権の発動しか、もちろんないわけです。PKOを送るというのも、今、スーダンの問題は国連の決議があり、スーダン国家がそれに合意をしているからこそ展開できている問題です。

 一方、北朝鮮による拉致、強制失踪が多数おきています。殺害や強制的な追放、レイプ、拘束、拷問などは、典型的な人権の侵害です。

 北朝鮮は、日本の領土に進入して拉致をやったという意味では、やっぱり主権の侵害には該当すると思うんですけど、それは本来は許可を得ずに入国したところから始まって、日本国民を許可なく拘束し、しかも出国させるという行為です。北朝鮮がやっていることも、主権の侵害ではあると思うんです。

 でも、武力による国家主権の侵害とは、もちろんレベルは違う。「国家主権の侵害だ」と言う人がいるのは、それはそうなんだと思うんですけど、それは事件の一面であり、もっと重大な、その人権の問題を語らないところに不満があります。

●人権侵害被害が国家主義を高めるために使われる

伊勢崎 
そこなんですよね。その不満をうまく説明したくて、「保護する責任」、「人権」、「国家主権」についての、今あるほかのコンテクストにおける対立構造みたいな部分を、無理やりこの「北朝鮮の拉致問題」の議論に持ってきたんです。つまり人権というのはユニバーサルなものでしょう。国家主権を超えるものですね、考え方としては。
 しかし、その人権問題が国家主義を強めるほうに使われるということは、僕は嫌なんです。僕は、これは絶対に嫌だと断言します。

土井 
それは本当にそうですね。それは賛成ですね。ヒューマン・ライツ・ウォッチ自身も、かつてその問題については、安倍政権の時代に一度、意見表明をし、少し物議を醸しました。拉致は重大な人権侵害なんですけど、本当に日本でなかなか言えない雰囲気であったのは、なぜ日本は「日本人の拉致問題しか言わないのか」ということですね。“日本の外交のおかしな沈黙”というような内容で、新聞に意見投稿をしたことがあります。
 それは、多分日本特有の現象ではなく、まさにブッシュさんがイラクに行くときに「民主主義と自由」とかいって標榜したのと同様に、悪事を働く際には愛国主義が、いろいろなところで使われちゃうんですね。
 やっぱり人権というのは被害者の視点なんです。本当は、被害者が、国家に抵抗するためにできた考え方です。

伊勢崎 
今、我々としては、大手を振って言ってもいいわけでしょう。つまり、人権問題を、国家主権意識を強めるために使うのは間違いであると言っても構わないわけでしょう。

土井 
ええ、そうですね。

伊勢崎 
それが今日、一番言いたかったことなんですよ。

●人権はユニバーサルなもの

土井 
それについては、私もそう思います。私たちがその時行った新聞の寄稿では、二つのことを書きました。まず、北朝鮮が様々な人権侵害を行っているというのは確かなことで、拉致被害者もそのうちの一つなんですが、北朝鮮の人権状況が悪いことは明らかであるのに、何で北朝鮮人の人権の問題について誰も何も言わないのか、というのが1点。
 あと、拉致は典型的な人権侵害なんですけど、国連の場などで、日本人の拉致だけ言ってもオーディエンスはあまりいない。しかし世界では、今、拉致は、ものすごい数が現在進行形で行われているんです。例えば、スリランカでは、年間1000人ぐらい拉致されているんです。
 そうすると、ユニバーサルな人権の問題として国連で訴え出ているのであれば、そこで「拉致の被害者が日本人だから」、「邦人保護だから」、とだけ言うのではなく、世界の拉致被害者のことを考えよう、救済しようというふうに言っていかなければ、各国から言えばちょっと拍子抜けですよね。あなたの国の国民だけ守るのね、と感じられてしまいますね。日本の戦略的にも、もっとよりよい戦略があると思うんですが。

伊勢崎 
メッセージの投げ方として、今、いろいろ他人のことも考えようというコンテクストでやると、日本人って多分だめなんですね。

土井 
そんなの関係ないって、ことでしょうか?

伊勢崎 
法学的にも、モラルの問題としても、やはり人権問題を、個人に対する暴力の問題を、国家主権の意識を高めるために利用することは、これは絶対許せないことなんだと言い切りたいんですよね。

土井 
そう思います。方向性が逆ですよね。「人権」というのは、国家に対する個人の抵抗の権利として生まれたものですから。

伊勢崎 
でしょう?

土井 
愛国主義そのものは全部悪いわけじゃないんですけど、愛国主義が自国の民族至上主義などを生んで、他民族の人権を侵害する口実になってきた例がたくさんありますので、やっぱりいつも警戒をしなくちゃいけないですね。

伊勢崎 
これが、きょうのメッセージとしての核ですね。

●ビルマ(ミャンマー)の軍事政権について

編集部 
人権侵害についての話が出ましたので、最後にビルマ(ミャンマー)の問題についてもお聞きしたいと思います。これは意外に知られていないと思いますけど、日本がかなり下支えというか、ビルマを軍事政権にしてきたということもありますよね。

土井 
ビルマ(ミャンマー)は、軍事政権が40年ぐらい続いていますけれども、日本は最大の援助国だったんです。ものすごく近い関係にあったんですよ。でも、最近は少し、二国の関係も、かつての恋人たちも“冷えた”状態です。
 冷えたのには、いろいろな理由があります。1つは、ビルマ国内のトップで日本にとても近かった人物が政権を追い出されたこともありますが、日本の国内の観点から言うと、日本の中の人権意識の高まりというのもあるでしょうね。まさに今の中国みたいに、どんな政権であっても仲よくするということは、日本国民が許さなくなった。このぐらいの民度の高さは、出てきたんだと思います。これは、喜ばしいことだと思います。日本がビルマの軍事政権についての安保理での立場を変えたこともあります。

 ビルマ軍事政権に今現在では、一番近いのは中国やインド、それを囲むタイもすごく強力なサポーターです。近隣ASEAN諸国もビルマ軍事政権の保護者ですよね。日本はそことはちょっと離れたところでビルマ軍事政権を口では批判をすることもありますが、西欧、特にアメリカは、ビルマの軍事政権の問題をしっかり批判するという立場に立っています。
 おそらく日本に求められていることは・・・昔、恋人同士みたいな関係でしたから、それだけのパイプがまだあるわけですね。なので、アジアの一員として、昔の恋人として持てるパイプを使って、ビルマに対してプレッシャーをかけると。アメリカとかヨーロッパがかけているようなプレッシャーとは、若干違ったプレッシャーもかけられるんだと思うんですね。

 しかし、このビルマの軍事政権は本当に残虐な政権です。北朝鮮も同じですが、はっきり言って両方とも生半可なワルじゃないですよ。こうした残虐な政権の行動を変えさせるには、相当のプレッシャーが必要だと思います。そこで軍事政権の幹部たちが本当にいやだと思うプレッシャーとは何か?を考える必要があります。それは、もちろん、軍事侵攻を言っているわけじゃないですよ。
そして、一方で、人権被害を受けているその国の国民には助けの手をさしのべる必要があります。特にビルマの国境地域の少数民族へは、援助の手はほぼ届いていませんので、人道的な支援と軍事政権高官への真の打撃、これを両方セットにして、国際社会が一丸となってビルマ問題に取り組む必要があると思います。特に、オバマ政権がビルマ政策を再度検討している今、そして、2010年の総選挙を控えた今、日本を含む世界がどのような政策をとるのかが、非常に重要な時期です。

編集部 
それは、どうやってやるのでしょうか?

土井 
ミャンマー政府のバックにいるのは中国であり、ASEANであり、インド。日本も含め、悪い政権であっても、アジアの同胞政権を見捨てない(ただ、国民は見捨てる)という感じの感覚もありますから、そこのパラダイムを変えていかないとダメなんですよね。アジアという地域においては、リーダーはというと、やはり日本しかないわけなんですよ。人権の意味でも。アジアは、人権侵害がとても多い地域でもあり、日本のリーダーシップは必要です。ですから、人々の人権は普遍的なもので、守っていかなくちゃいけない、アジアをそういう地域にしよう、という働きかけを日本がリードしてやっていくしかありません。でも全く不十分ですね。
 ビルマ軍事政権幹部に打撃を与えるプレッシャーの方法については、もっとも効果的だと考えているのは「対象限定制裁」という制裁です。個人の国際金融取引を止めるという制裁です。要は、軍事政権の幹部個人には痛みが出るけれども、国民には痛みが出ない。このようなターゲット制裁は最近よく利用されていますが、これを全世界でかけていくべきだと思っています。現状はアメリカやカナダ、オーストラリアしかやっていません。しかし、アメリカがやることはすごく意味があって、アメリカの銀行を経由するドル取引ができなくなる。しかし、ドルだけじゃなく世界の通貨にはユーロもあれば、円もあるし、いろいろあるので、本当は全世界でかけていかないと、抜け穴がいっぱいあるというのが、現状だと思います。

 あと中国、インド、韓国、タイ、こういった国々が、ビルマの天然ガスの利権を持っていて、輸入もしています。ビルマは天然ガスが豊富にある国で、天然ガスや宝石、あとは木材とか、こういう資源を軍事政権が基本的には独占をして、それを取引することで非常に肥えているわけです。国民生活と貿易を中心とした国民ビジネスとは、完全に分離していますね。ですからこの経済に対して制裁をかけていく必要があります。最近は、制裁もスマートになってきているので、被害者である国民と加害者である、この場合は政府である軍事政権とをかっちり分けてプレッシャーをかけることができるのは先ほど申し上げたとおり。軍事政権への制裁と被害者の救済を同時進行でやっていく必要があります。

●ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの役割

編集部 
その制裁は、具体的にどこがやっているんですか。そういうリサーチをヒューマン・ライツ・ウォッチもやって、それを例えばアメリカ政府とかに働きかけていくということですか。

土井 
おっしゃるとおりですね。どんな人権侵害があるかということを調べるリサーチが基本にあって、それをどうやって解決すべきかという政策提言をしています。私たちの提案のひとつは、対象限定の金融制裁なので、それを世界各国に説得して回るという役割を担っています。

編集部 
そういう意味では、日本はかなり大きな任務を期待されている?

土井 
そうですね。アジアでは、日本政府は基本的には影響力が大きい。北朝鮮には援助はしていませんけれども、ほとんど多くの国にとっては第一の援助国ですから、すごく発言力が強いですよね。アフガニスタンだって、米国と英国に次いで3番目の援助国です。日本が、今後、「政治力、ソフトパワー、発言力」でやるべきことは多いと思います。なのに、いつも、自衛隊を送るか、送らないかというところで思考が停止しているので、不満に思います。

伊勢崎 
対象限定制裁は、北朝鮮にはやっていないでしょう。

土井 
日本がかけている制裁は対象限定ではない制裁です。米国は、バンコデルタというマカオの銀行のある口座に対象限定制裁を一方的にかけましたが、大きな影響があったのはみなさんも覚えているかと思います。あれで北朝鮮は対話のテーブルに嫌々ながら戻ってきたんですよ。ビルマにもそうですね。独自に一国でかけているのですが、それでもすごい影響力があります。
 政権幹部と直結している口座を、お金の動きをモニターしながら「正確に」止めると、相手は痛いんですよ。でも、結構これはインテリジェンスを要する、情報が要る制裁です。お金ですから、じゃあ別の口座にとか、別の名前にとかいろいろできるので、そういうのをずっと監視している必要がありますし、正しい情報力が要るものです。日本はビルマと仲がよかったので、いろいろな情報があります。直接円の制裁をかけてほしいのですが、仮に、かけなかったとしても、銀行口座の特定に至る情報の共有などのレベルではできることがいろいろあるはずですが。

編集部 
日本政府が言っている北朝鮮への「経済制裁」というのは、そういうことも含めてなんでしょうか?

土井 
本当に何が彼らに一番の資金供給源になっているのかとかいうのを見定めた上で、そこをとめないといけないと思うのですが、人の流れなども止めてしまう制裁では社会をさらに閉鎖してしまうことにもなりかねません。
 一方で、日本が人道支援をとめていることは問題です。食料や医療品の支援をとめましたね。あれは、国民にはまさに必要なんです。加害者と被害者をごっちゃにしてはだめで、WFPの支援にしっかり国際的に認められたモニターをつけた上で受け取るように、各国とともに要求をしていくことが必要です。

 でも、少なくとも日本政府は、国際的にすごく頑張って北朝鮮の拉致をアピールして回っています。国連でも、北朝鮮の人権決議をスポンサーしたり、改善の余地はあるとはいえ、いいことだと思います。もっとほかの国についてもやってほしいし、拉致された日本人のみならず、北朝鮮で苦しむ多くの人たちの人権侵害の状況にも光をあててほしい。

編集部 
ヒューマン・ライツ・ウォッチが東京にオフィスを置いたということは、こんなに人権が後退しているアジアの国々をどうにかしなくては、ということでしょうか。

土井 
そうです。ある国家が、他国で人権の侵害に苦しむ人々を保護するという行動をとることは、自然にはあまりおこりません。なので、ヒューマン・ライツ・ウォッチを含め、自国の政府に対して、人権も大事だから、外交力を人権保護のためにも使うべき、とプレッシャーをかけなければ何も変わらない。政治家も、アフガニスタンの人を守ったら票が入ってきた、というふうにならなければ動かないですよね。人権を守るような国会議員のサポーターというか、あるいは人権を守ろうという外務省員のサポーターというか、そういう人たちが日本にも必要ですね。欧米では、外交に働きかける団体は、それなりにできてきています。そういうふうに日本もだんだんなっていけば、変わるのではないでしょうか。ということで、がんばっていきたいと考えています。

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伊勢崎賢治さん×土井香苗さん オバマ政権誕生!で「国際貢献」はどう変わる?(その3)
国家主権と人権について考える
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    人権=ひとり一人が大切で尊重されるべき存在であるというその概念は、
    ユニバーサルなものであり、国家主権を超えた存在です。
    決して、為政者によって国家主義や愛国心を高めるために、利用されることがあってはならないもの。
    私たちはそのことを、しっかりと理解しておきましょう。
    伊勢崎さん、土井さん、ありがとうございました!

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