マガ9備忘録

最近、河出書房新社の本が面白い。いとうせいこう著『想像ラジオ』、ティムール・ベルムシュ著『帰ってきたヒトラー』や、文学者から芸能人まで多様な人物を取り上げる「文藝別冊」など。その中で、石田昌隆著『ソウル・フラワー・ユニオン 解き放つ唄の轍』(2400円+税)を興味深く読んだ。

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石田昌隆さんは写真家。レゲエ、ヒップホップ、R&B、ロック、アフリカ音楽、中南米音楽、アラブやアジアの音楽のミュージシャンなどを被写体としているだけに、音楽への造詣も深く、音楽評論の著書も多数ある。

この本は、2011年4月、東日本大震災に見舞われた東北の被災地をソウル・フラワー・ユニオン(以下SFU)のメンバーらが訪れるところから始まる。未曾有の被害を目の当たりにして茫然とする彼ら。複雑な思いを抱えての、その翌月の慰問ライヴに、被災者は心を癒されたようだった。

SFUのメンバーである中川敬さんと伊丹英子さんは、1995年の阪神・淡路大震災の直後に被災地に入って慰問ライヴを行なっている。最初は、ここで演奏をしていいのかと戸惑いながらも、被災者が喜び、涙を流す姿を見て、活動を続けようと思ったという。名曲『満月の夕』はこうした経験を経て、生まれた。

それ以前からSFUのメンバーは、日本三大寄せ場の1つである横浜・寿町のフリーコンサートで民謡を歌ったりしていたので、被災者のお年寄りらにも親しみやすい懐メロや民謡、壮士演歌を歌えたのだろう、と石田さんは分析する。

さらに、沖縄、朝鮮・韓国、アイルランド、東ティモール、パレスチナへ出掛け、その地のミュージシャンや人々と交流し、その結果得た音楽的カオスが、他のバンドにはないSFUの持ち味となっていく。その土地土地の民謡や、チリの『不屈の民』や『平和に生きる権利』といったレパートリーの数々。

そして、音楽が社会に向き合うということを体現していく。これは言葉で言うのは容易だが、実際には難しいものだ。分断された地域で外部の人間が意見を表明することは、その地域社会を壊してしまいかねない危険性をはらんでいる。デリケートな問題をいかに自らのものにしていくか、がこの本には描かれている。

何より、結成から現在に至るまでのSFUの評伝として楽しく、読みやすい文章であっという間に読了してしまった。また石田さんの貴重な写真も多く掲載され、それを見ていると、この20年のいろいろな感慨が湧く。

3・11以降の「ショックドクトリン」ともいうべきさまざまな動きにも、SFUのメンバーは積極的に関わっている。脱原発、反レイシズム、秘密保護法反対…。石田さんがあとがきでも書いているように、SFUは現在進行形のバンド。これらの問題に対応することと、彼らの音楽活動は等価値なのだ。(中津十三)

※ マガジン9では、2010年に「この人に聞きたい」で伊丹英子さんに、2011年に「マガ9対談」で中川敬さんに(対談相手は雨宮処凛さん)登場していただいています。

 

  

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