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エンドロールが終わり、明るくなっても衝撃で立ち上がれない…『怒り』はそんな映画だった。

吉田修一さんの小説を原作に、李相日監督が脚本も手がけて映画化したこの作品。この2人は前作『悪人』でもタッグを組んでいる。

「怒」という血文字を残して未解決となった殺人事件。それから1年後、千葉、東京、沖縄の3カ所それぞれに疑わしい謎の男が現れる…。

直接には関係ないそれぞれの話が輻輳する。一瞬たりとも気が抜けず、観る者に緊張を強いるが、上映時間142分という長さを感じさせない。

「千葉編」では軽度発達障害、「東京編」では性的マイノリティ、「沖縄編」では米軍基地問題。差別や偏見に晒されるそうしたものを抱え、そこに“異物”が入り込んだときに生じる疑念。負の感情に囚われたとき、爆発させるか鬱屈するか、爆発させるとしたらどのように爆発させるのか。さらにそんな中で「信じること」とは何なのか、私たちに問いかけるようだ。

殊に「沖縄編」では、広瀬すずさん演じる小宮山泉が受ける非常に残酷なシーンに戦慄した。そして、彼女の慟哭。「いくら泣いたって怒ったって、誰も分かってくれないんでしょう!」

まさに本土の人間が見て見ぬふりをしている現実を叩きつけるものだった。その現実は「悲しみ」「痛み」などとはよく表現されるが、「怒り」そのものなのだ。

ドキュメンタリーや自主上映ではないメジャーの、しかも渡辺謙さんをはじめ実力派俳優陣が揃った映画で、正面切って「沖縄の今」を描いた作品は実に貴重だ。

重い内容だが、ぜひ多くの人に見てほしい。

(中津十三)

※ 『怒り』はTOHOシネマズ系で上映中(PG12)。公式サイトはこちら

 

  

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