木内みどりの「発熱中!」

映画、テレビ、舞台と幅広く活躍してきた女優の木内みどりさん。
3・11以降は、脱原発についても積極的に活動しています。
脱原発への思いや憲法のこと、政治や社会参加についてなど、
日々の暮らしや活動のなかで感じていること、気になっていることを
「本音」で綴っていただきます。不定期連載でお届けします。

第18回

引きこもりながらも発熱中!

 お元気でしょうか? 

 このところ、引きこもり気味の暮らしをしています。
 って、毎日お仕事で忙しい方から「そんな暮らしができてよかったこと」と嫌われそうですが、でもね、わたしの場合、学校に行くことを辞めて劇団に通いだした16歳からずぅぅっと働いてきたのです。特にテレビの仕事で大忙しだった時期、週に8本のレギュラー番組を抱えていた時期などは、誰よりも誰よりも働いたと思っています。
 会社員や公務員の方には「定年」という「決まり」があって、人生設計のタイミングが自動的に決まります。が、わたしのようにどこにも属さない者にはそれがありません。

 このコラムで何回か書きましたように、2011年3月11日以降、わたしの人生はガラリと変わりました。世界は、社会は、悪に満ちているし、理不尽なこと不条理なことの前では、自分なんて居ないも同然。
 けれど、こうも言える。世界は、社会は、自分なんだって。
 だってわたしが死んでしまえば、わたしの「世界」もそれでお終い。わたしが死んでしまえば、わたしの「社会」もそれでお終い。だから、生きてる間は「世界は、社会は、こうあって欲しい…」ということに向かっていたいと実感したのです。
 「大袈裟ね」と笑っていますか? そう、大袈裟なんでしょうけれど、実感なのです。3月11日以降、自分の芯が地球に向かって真っ直ぐに立ってるって。
 あはは、ほんとに、大袈裟ですね。

 原発は要らない、戦争しない、力の弱い人を支え寄り添う社会になるため自分のできることをしたいと、誘われるまま流れに身を任せ、役立つと思えたことをやってきました。「怖がらず恥ずかしがらず」と自分を励まし続けてきました。
 が、事態は日々、時々刻々、深刻になっていきます。
 取り返しのつかない方向へ、次から次へと。あまりにも愚かな決定がされ、怖ろしい展開があり、あちこちで火の手が上がっているのに、殆どの人は相変わらず無知・無関心。

 そう言うわたしだって、朝から晩まで「脱原発」に身を捧げてる訳ではなく、ダラダラ呑んだくれてる役立たずのバカでもあります。この時代を生きているどなたさまも、きっと引き裂かれて生きているのでしょうね。ほんとに、おつかれさまです。

 さて、「定年」がないので、自分で自分を解放してやることにしました。どこか生真面目でいつも何かに一心不乱。「なんでそんなに頑張るの?」と言われてきました。
 確かにいつも何かに熱中しているのですが、それは自分が何かの役に立つことを前提条件にしていたように思うのです。誰にも強制されていないのに、歯を食い縛ってでも頑張る自分は、もう、やめることにしました。定年して人生の速度を落としていくように、わたしも速度を落としていこうと思いました。

 で、役に立たない自分が、この頃、引きこもり、何をしているか。

 あはは、お見せしちゃいます。
 世界地図を貼りました。
 世界文化史年表を貼りました。
 人体骨格詳細図を貼りました。
 まるで、中学生の勉強部屋のようでしょう。この世界地図、日本が地図の真ん中にあるから、いまひとつ気に入っていません。この世界文化史年表はかなり気に入っています。これまで持っていた世界文化史年表よりサイズが大きい分、詳しく書かれています。この2枚を並べて貼ると、あらあら、何て素敵!

 わたしが生きてきた64年間、ひとり気ままに歩いたあちこち、世界57カ国のあちこちで見たり聴いたりしたこと、観てきた映画のあれこれ、楽しんできた音楽、読んできた本の内容など、わたしの記憶の倉庫にバラバラにあるものを、この地図と年表上で確認していくと、それぞれの位置関係が教えてくれることがイキイキと出てきたのです。

 どこの誰だってひとりで生きているわけじゃないように、国と国だってお互いの関係の微妙なバランスの上で揺れている訳です。
 この年表上では、日本は飛鳥時代から2000年までが45㎝、中国は前漢の時代から65.5㎝、アメリカは建国から2000年まででたったの7㎝。たったの7㎝が地球を壊そうとしている。我が日本はその国にへつらっている。長い歴史の誇りを捨てている。

 わたしがこれまで心惹かれて読んだ本や観た映画は、大抵が「抵抗する人」「自分を生ききった人」のお話だったのだと気がつきました。マーケティングではじき出されたデータをベースに製作配給される人気映画、メジャーな映画には興味がなく、観たいのはいつも「抵抗する人」「反逆する人」の物語。その生涯で賞賛され愛された人も、非難され続けて死んでいった人もいて、実に様々です。この2枚を前に立ち尽くしていると、記憶の底にある、実在した人、架空の人、それぞれのいろんな言葉や行いが現れてきます。

 わたしの精神の拠り所になっている映画を再確認して観直しています。
 『波止場』『第三の男』『市民ケーン』『アラビアのロレンス』『何がジェーンに起ったか?』『マンディンゴ』『ジョニーは戦場へ行った』『真昼の決闘』『卒業』『イージー・ライダー』『カッコーの巣の上で』『グリニッジ・ビレッジの青春』『大人は判ってくれない』
 ああ、キリがないほど、宝物がたっくさんある! 
 古い映画を観ては、この2枚の前に立つと、あらあら、違うことが見えてくる。若い時に観た時には気がつかなかったことがわかってくる。
 『ローマの休日』がどれほど政治的なことを描いていたことか、わかってくる。実に深く深く描写されていることに気がついていく。それは、もう、スリリングなほど。五十数年前にこの脚本を書いたダルトン・トランボが描きこんだことが時間や世界を超えてこのわたしの心を揺さぶる。

 人生の終盤に向かって、また、ひとつ、楽しみな鉱脈を探り当てました。

 もうひとつ。6月30日発売の本をパイロット版で読ませていただきました。ベストセラーになった『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル)の著者、矢部宏治さんの最新刊『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』(小学館)。天皇であることの孤独を引き受けた方の自己犠牲の歴史や今まで出されてきた数々のメッセージを纏めて読むことでわかってくる、明仁天皇の深い思索と行動力。「戦争をしない国」であることを願う強いご意志を知って、改めてこの国の天皇陛下が明仁天皇であることを幸運に思いました。ネットに繋がっていない、新聞・テレビの情報だけで暮らしている知り合いにこの本を届けて、新聞・テレビが報道しない明仁天皇陛下のメッセージを知ってもらいたいと思います。これだって「脱原発」「戦争をしない国」のためのアクションのひとつではないでしょうか。

 わたし「引きこもり中」ではありますが、しっかり「発熱中!」です。
 お元気でいらしてください。読んでくださってありがとうございました。

 

  

※コメントは承認制です。
第18回 引きこもりながらも発熱中!」 に10件のコメント

  1. magazine9 より:

    ひきこもっていても、やっぱり一生懸命なエネルギーがあふれるような木内さん。震災以降、生き方が変わったという言葉に共感する人は多いのではないでしょうか。「引き裂かれる」という気持ちも、なんだか胸にしみます。
    さて、当初、友人の名前を使って『ローマの休日』の脚本を書いたダルトン・トランボは、第二次世界大戦後の「赤狩り」にあって、ハリウッド界を追放された人物。赤狩りに反対していた俳優を起用したといわれています。そういう視点でもう一度、この映画を観てみたくなりました。ひきこもって再発見した「発熱の素」を、これからもこのコラムでどんどん共有してほしいと思います。

  2. とろ より:

    珍しい方ですね。自分の国が真ん中にあるのが気に食わないって。
    他所の国で買えば,御希望の国が真ん中にくるはずですよ。
    どこがお好きなんですかね?

  3. 五郎 より:

    今年の新年の感想の中での発言。
    「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えて行くことが、いま、極めて大切なことだと思っています」
    これは、とても重要な意味を持つ。日本が中国へ侵略したことを忘れるなということだ。

    さきごろ小澤征爾氏が共同通信のインタビューに答えた。
    「日本は戦争で間違いをして、戦争の一番いやな体験をした。戦争を歴史(として過去のこと)にしてしまうことは相当危険だ」
    小沢氏は1935年生まれ、明仁天皇は1933年生まれ。
    ともに1931年に勃発した満洲事変のあとに生まれ、育った世代だ。
    戦争を知らない世代の我々は肝に銘じていかなければいけない。

  4. 松宮 光興 より:

    私が死んだら「私の世界」も「私の社会」もおしまい。
    確かに、その通りです。
    でも、だからこそ、このままでは死んでも死にきれない思いです。
    平和憲法を壊し、危険な原発を動かし、農薬だらけの農作物の輸入を自由にして国産の安全な農業を破壊する。外国との融和をやめて武力行使。
    まるで、「国民を不幸にすることが生きがいなのでは」と思う政府が続いています。
    しかも、その実体は、70年前に反省をしたはずのマスコミが隠蔽しているので、多くの国民は知ることもできない。
    かわいい子や孫が、どこかの荒野で、何の恨みもない相手に殺される。
    だから発言し、何度も国会前に行かなくてはなりません。

  5. 木内みどり より:

    「とろ」さま

    コメント、ありがとうございます。

    世界地図では北が上で南が下、になっています。
    なぜか?
    初めて世界地図を作ったのが北半球に住んでいる人だったからです。
    日本が真ん中に位置する地図はまるで世界の中心が日本のような錯覚を育ててしまうので、今ひとつに気に入らないと書きました。
    ヨーロッパやアメリカの人たちの地図では日本はいちばん右端、だから「Far East」「極東」となる訳です。
    そもそも宇宙に出れば北も南も、右も左も、上も下もありません。
    すべては人間が創った相対的な関係です。

    LONDONに「Stanfords」という最古の地図屋さんがあります。
    そこで買った世界地図では日本は右端です。
    白地図というのもありますね。
    地図が大好きです。

  6. 木内みどり より:

    「magazine 9」さま
    いつも、ありがとうございます。
    反応をいただくとホッとします。うれしい、です。
    「発熱の素」いい言葉をいただきました。

  7. 木内みどり より:

    五郎さま

    コメント、ありがとうございます。

  8. 木内みどり より:

    松宮 光興さま

    コメント、ありがとうございます。

    「だから発言し、何度も国会前に行かなくてはなりません」
    ほんとにそうですね。
    わたしもわたしの持ち場でできることを続けていきます。
    お元気でいらしてください。

  9. 風の三郎 より:

    木内様
    私もこの本を予約しました。
    今一番読んでみたい一冊です。
    ものを見るとき、いつもと違う角度からとか、反対側からとか、変えて見ることで新たな発見やわからなかったことがわかったりということがあるのですね。大事なことだと思います。

  10. 木内みどり より:

    風の又三郎さま

    こんにちは。
    2度目ですよね。
    うれしいです。
    お読みになったら感想を聞かせてください。

    お元気でいてくださいね。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

木内みどり

木内みどり(きうち みどり): 女優。’65年劇団四季に入団。初主演ドラマ「日本の幸福」(’67/NTV)、「安ベエの海」(’69/TBS)、「いちばん星」(’77/NHK)、「看護婦日記」(’83/TBS)など多数出演。映画は、三島由紀夫原作『潮騒』(’71/森谷司郎)、『死の棘』(’90/小栗康平)、『大病人』(’93/伊丹十三)、『陽だまりの彼女』(’14/三木孝浩)、『0.5ミリ』(’14/安藤桃子)など話題作に出演。コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。3・11以降、脱原発集会の司会などを引き受け積極的に活動。twitterでも発信中→水野木内みどり@kiuchi_midori

最新10title : 木内みどりの「発熱中!」

Featuring Top 10/40 of 木内みどりの「発熱中!」

マガ9のコンテンツ

カテゴリー