時々お散歩日記

 風邪をひいていたせいか、なんだかウツっぽくなってしまった。新聞を広げても、テレビニュースを観ても、どうも気分が沈んでいく。
 
 僕は前回のこのコラムで、安倍首相本人を含め安倍内閣周辺の人たちの言動を、できるだけチェックしてみた。それはまさに、百鬼夜行というか魑魅魍魎というか……。
 その安倍首相の国会での代表質問への答弁をテレビニュースで観ていて、僕は本気で気持ちが悪くなった。
 ペラペラペラペラペラと猛烈なスピードで(多分、誰かに用意してもらった)原稿を棒読みするだけ。多分、あのシーンをテレビで観ていた人は、思わず我が目、我が耳を疑ったに違いない。マイクを通した音声ですら、ほとんど何を言っているのか聞き取れない。誰に聞かせようともしていない、悪意に満ちた異様なパフォーマンス。
 むろん、本人だって何を読んでいるのか理解していないだろう。ひたすら下をむいてペラペラペラ。国会の、それも本会議の場で、議論も討論もあったもんじゃない。まるで他人をバカにした所業である。「何を言ってるか分からないぞっ!」とのヤジに、初めて少しだけ顔を上げて、「静かにしていれば聞こえます!」と開き直った。
 数を頼んで、最初からまともな議論をする気などない。

 同じ国会で、志位和夫共産党委員長の代表質問の際、自民党席から凄まじい(というより、口汚くて聞くに堪えない)罵声が浴びせられたことは、自身の念頭にはなかったらしい。「日本から出て行けぇー」だの「お前は日本人かあーっ」だのという、ヘイトスピーチ並みの醜悪さ。騒ぎまくっていたのは自民党の若手(?)議員たち。そして、それを片頬に笑みを浮かべながら聞いていたのが首相本人だったではないか。
 なぜ彼ら若手議員たちに「静かにして聞きましょう」と言わなかったのか。数で押し切れるとなれば、まったく他人の言うことなど聞かなくてもいい。まさに、学級崩壊、それ以下のていたらく。これが、現在の国会のありようだ。今さら「民主主義」などというのもバカらしいが、それにしても、このありさまでは“自由民主”党の名が泣く…。
 少数意見を切り捨てるというのでは、独裁国家に近い。何かといえば北朝鮮を批判し呆れ返ってみせるマスメディアが、自国の国会のこの醜態を、なぜかきちんと批判しない。

 その安倍首相、ついに街宣車に乗り、舛添候補の応援演説をし始めた。ネット右翼の人たちはそれに反発。なぜ田母神氏ではなく舛添氏の応援をするのか、というわけだ。つまり、安倍支持者たちのかなりの部分は、田母神氏と安倍首相の考えはほとんど同じ、と見抜いているわけだ。
 だって、あの安倍首相と相思相愛の百田尚樹氏も、舛添氏ではなく田母神氏の応援を広言しているくらいだし。極右と右翼の間で、安倍支持者たちは引き裂かれているということになる。
 NHK経営委員に任命されたばかりの百田氏の特定候補応援は、NHK支配をもくろむ安倍首相の思惑が、そのまま露骨に表れてしまったということだ。NHKの公平中立な報道、などというお題目が、結局、絵に描いた餅ほどの意味も持たなくなった。

 安倍首相だって、考え方としては舛添氏よりも田母神氏に親近感を覚えているはずだ。それが舛添応援に自ら乗り出したのは、動向を見ていたからだ。さまざまなマスメディアでの調査は、舛添有利と出た。そこで、ようやく腰を上げた。名護市長選の二の舞は避けられると踏んだからだ。
 舛添氏が、自民党に後足で砂をひっかけ「自民党の歴史的役割は終わった」などと大見得を切って脱党し、それに対し自民党が除名処分にしたことなど、まるで両者とも忘れたようなすっとぼけぶり。それが政治というものかと、情けなくなる。
 舛添氏が「いずれ原発は少なくしていく、脱原発依存が私の持論だ」などと討論会などでは発言している。しかし、これは黒を白と言いくるめる詐術でしかない。
 「フォーラム・エネルギーを考える」(代表・神津カンナ)という組織がある。これは「日本生産性本部」内の部門で、その設立趣意・理念は、ここのHPによれば以下のとおりである。 

 社会の健全な発展(経済)と地球の未来(環境)の両立に向けて、暮らしに欠かせないエネルギーについて、多様な個性を生かして知識とアイデアを共有し、生活者としてあらゆる視点から考え、判断できるよう「みんなでエネルギーについて考え、話し合う」活動、情報発信をしています

 原子力ムラ関係のさまざまな組織が身にまとう“社会の発展と環境の両立”という建前がここでも述べられているが、ここのホームページで紹介されている資料『暮らしの中のエネルギー』を読んでみると一目瞭然。何のことはない、原発の安全性と原発電力の安価論、自然エネルギーの不安定さ、ベストミックス、さらにはまだ確立された技術もない放射性廃棄物の処分方法、その最終処分地の選定プロセスなど、原発推進の理屈を羅列しているだけだ。
 要するに、この組織は原発の広告塔であり、さまざまなメディアへの広告提供を行い、地方への原発推進啓蒙のための講師派遣の講演会などに力を入れている“原子力ムラ”の出先機関なのだ。
 そのHPに「メンバーリスト」が掲載されており、なんと、その中に舛添要一氏の名前も堂々と掲載されている。つまり、舛添氏が何と言い逃れようと、彼は「脱原発依存」などではなく、紛れもない「原発容認・推進派」なのである。これでは、彼が演説や討論会で言っていることは“ウソ”だといわれても仕方がない。そんな人物に都政を委ねるわけにはいかない。
 
 確かに、どの調査でも舛添氏有利。それを細川氏、宇都宮氏が追う展開、という報道だ。
 逆転には最後の手しか残っていない。そう考える人たちが、2月3日、記者会見を開いた。「脱原発都知事選候補に統一を呼びかける会」というグループだ。鎌田慧さん、佐高信さんが世話人になっている。
 色川大吉(歴史学者)、小山内美江子(脚本家)、落合恵子、むのたけじ(99歳のジャーナリスト)、武者小路公秀(前国連大学副学長)、桜井勝延(南相馬市長)、竹内修司(元文藝春秋常務)、広河隆一、三上元(静岡県湖西市長)、村上達也(前東海村村長)、吉原毅(城南信金理事長)さんなど、多岐にわたる19名の方々だった。
 その呼びかけ文は、きわめて厳しく切ないものだった。

(略)本会に集う私たちは、脱原発、東京オリンピック猪瀬路線の見直しを通じ合う考えをお持ちの(おふたりの)候補が、ともに都民の大きな支持を得ながらも、票を二分する状況にあり、舛添要一候補に屈するおそれがあることを、憂慮しております。それは、両候補どちらの支持者のあいだでも、さらに広い都民をはじめ、東北の震災被災者、福島の原発事故被害者や、米軍基地に悩まされる沖縄県民のあいだでも、共有されている思いです。両候補の敗北によって失うものの大きさを、痛切に理解しているのです。(略)

 呼びかけ文はこうして、宇都宮、細川両候補へ最後まで統一を模索するように、辛い願いを訴えている。その上で、2月6日までに、回答を世話人まで寄せてくれるようにと要請していた。
 会見場には、「この1月3日から100年目を生きています」と語る、反骨の老ジャーナリストむのたけじさんの、痛切な言葉が響いた。僕と同じ秋田出身のむのさんは、朝日新聞記者として敗戦を迎え、新聞が戦争に果たした役割の重さと責任を痛苦に引き受け、朝日新聞を辞し秋田へ帰郷。その地で「たいまつ」という小さな新聞を独力で発行し続けたという、伝説のジャーナリストである。
 そのむのさんが、99歳という超高齢にもかかわらず会見場へ姿を現し、安倍政権の進み行きへの危惧と、それを阻止するための都知事選での両候補の統一、この国の未来への希望を語ったのだ。

 僕は、これまでこのコラムで「脱原発候補一本化」を唱え続けてきた。それに対し「どちらを支持するのか態度を示せ」というメールやツイートもたくさんいただいた。それでも僕は、やっぱり最後まで一本化を願っている。むろん、それが困難であることは承知しているけれど…。

 しかし、2位になって何になるか。
 知事の座はひとつしかない。

 安倍支援の候補を勝たせるわけにはいかない。もしそうなれば、戦前回帰・戦争準備路線が勢いを増してしまう。キナ臭い世の中が、もっとキナ臭くなっていくだろう。
 安倍首相はついに、このところ封印していた「憲法96条の改定」を、またもや広言し始めた。96条=改憲の発議に両院議員の3分の2の賛成が必要、というものだ。一気に9条改定は無理だと考え、まず外堀を埋めようという汚い策を弄する。

 都政にはたくさんの課題が山積している。両候補が、これらの課題でどう協力できるか。どちらかが都知事になった場合、どのように都政の運営にもうおひとりが関わっていけるか。そこへ向けて、ほんとうに最後の、ギリギリの話し合いができないものか…。
 安倍路線をいっときでも頓挫させるためには、そのギリギリの詰めがどうしても必要だと思うのだ。

 

  

※コメントは承認制です。
168 都知事選、最後の願いを」 に4件のコメント

  1. 「少数意見を切り捨てるというのでは、独裁国家に近い」←これが反原発の票がいま1つ伸びない最大の理由の気がするな。1本化って英訳すれば「ファシズム」じゃないですか〜!お年寄りなんか真面目な話、反原発争点化に疎外感感じちゃってるもん。「

  2. akimoto hiroe より:

    こんばんは。初見です。どちらかの候補一本で、は難しいんでしょうね。お互い(H&U)協力し合っていきます、くらい演説で言ってくださればと思います。票割れは避けられないでしょうが、舛添氏に流れる票が一票でも多く脱原発候補者に廻ればと福岡県民ですが祈ってます。

  3. うどんの国から より:

    これまで幾度もとなく繰り返された、左派陣営の永遠の課題ですね。むのたけじさんの言葉が胸に響きます。

  4. bb より:

    ウヨクは内ゲバをしない。サヨクは大きな敵が見えない。いま、安倍首相は核本位制社会の強化に向けて暴走している。これをストップさせる絶好のチャンスを失わないでください。都民のみなさんへのお願いです。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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