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特定秘密保護法や集団的自衛権に反対するデモでは、参加者のなかに若い学生たちの姿が目立っていました。しかも、声をあげているのは、おしゃれなイマドキの若者。「若者は政治に無関心」と決まり文句のように言われてきましたが、いま、どんな変化が起きているのでしょうか? デモに参加したことがあるという大学生3人に、社会や政治に対する率直な思いを聞きました。
伊勢桃李(いせ・とうり)1996年生まれ。武蔵野美術大学・造形学部1年生。美術大学在学中。AO入試をきっかけに社会問題に興味を持つようになった。「SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)」に参加するほか、横浜市寿町での生活困窮者支援にも関わっている。
小山森生(こやま・もりお)1992年生まれ。東京外国語大学・外国語学部4年生。平和構築を学ぶ伊勢崎賢治ゼミ生のひとりとして、第31回マガ9学校では、各国の「特定秘密保護法」にあたる法律について発表を行った。卒論テーマは集団的自衛権。
服部裕紀子(はっとり・ゆきこ)1990年生まれ。中央大学・法学部4年生。初めて参加したデモは、沖縄・辺野古の基地問題。3・11の後、若者会議やSASPLなど若者中心の集まりやイベントに積極的に参加してきた。卒論テーマは非暴力。

特定秘密保護法に反対する学生デモ「SASPL」

──まずは、服部さんと伊勢さんの二人が参加する「SASPL」について教えてください。

服部 「SASPL」は「特定秘密保護法に反対する学生有志の会」です。2013年末から関東圏の学生たちが集会や勉強会を開催していて、2014年2月と5月には「特定秘密保護法に反対する学生デモ」を行い、SNSで呼びかけて集まった400~500人の学生が参加しました。8月には「安倍内閣に退陣を要求する渋谷デモ」も実施。私自身、SASPLのことは前から知っていたのですが、参加したのは5月のデモからです。

伊勢 私もちょうど大学受験と重なるなど、なかなかデモに参加できず、5月頃からSASPLに関わり始めました。SASPLの運営メンバーは大学もさまざまで、LINEやサイボウズで情報を共有したり、シェアハウスや居酒屋で集まって話したりしています。

──3人はそれぞれ別の大学ですが、小山さんはSASPLのことは知っていましたか?

小山 正直言って、こんなに熱心な学生の集まりがあるなんて知りませんでした。所属している大学のゼミの中でも、デモに行っているのは多分僕くらい。まわりでデモに行く学生はほとんどいないです。

(写真右から)小山森生さん、伊勢桃李さん、服部裕紀子さん

──服部さんと伊勢さんが、SASPLを知ったきっかけは?

服部 3・11のあと原発がヤバイことになっていても、若者の間では社会的な話はタブーだったんです。そこで、なんでも話せる場所をつくろうと考えた人たちがいて、「若者会議」というイベントが開催されていました。大学の構内やカフェに、学生や同世代の若者が集まって、原発からケニアのスラム問題まで自由に話していました。私もそこに参加していました。同じ頃、金曜デモ(※)のあとに日比谷公園でデモの感想などをシェアする学生の集まりにも参加していて、そうした中でSASPLの運営メンバーと知り合いになったのです。

※金曜デモ…毎週金曜日に官邸前で行われている、「脱原発」などを掲げた抗議行動のこと。

伊勢 私はいま大学1年生なのですが、AO入試がきっかけで社会問題に興味をもつようになりました。その頃、特定秘密保護法に反対する10代の集まりで「デモクラシーU_20」(※)というのもあって、そのデモに参加したこともあります。SASPLのことはTwitterで知って、ずっと参加してみたいと思っていました。

※現在は「デモクラシーU_20」は解散し、U20デモとTAFLEDというグループに分かれて活動している。

──原発や集団的自衛権など、特定秘密保護法以外のイシューについては?

伊勢 福島の原発事故が起きたときは、まだ中学3年生でした。高校の入学説明会に向かう途中、駅のTVで知ったんです。でも、結局説明会はそのまま開催されたし、高校生活とか目の前のことでいっぱいで、あまり自分と関係があるように思えませんでした。ニュースにも全然興味がなかった。高校3年生になって入試を控えていろいろな人に話を聞くようになり、社会や政治などさまざまなイシューに興味をもつようになりました。ちょうどそのタイミングで問題になっていたのが、特定秘密保護法でした。でも、SASPLの活動もそうですが、特定秘密保護法から始まって、集団的自衛権や安倍政権への抗議など対象は広がっています。

小山 僕は特定秘密保護法は、前段階に過ぎないと思っていたので、その先に何があるのだろうという危機感がずっとありました。集団的自衛権の先には、やはり憲法改正があると思う。このままだと本当にヤバイんじゃないかと思っています。

服部 無理してまで法案を通すには、何か理由があるのかなと。その奥にある政権のビジョンやこの国をどうしていきたいのかが分からないのが不安です。

影響を与えてくれる大人がいたから

──そもそも社会問題や政治に興味をもった理由は?

小山 僕は、中学生のときに戦争体験を紹介するドキュメンタリー番組をたまたま見たのがきっかけで「軍隊を無くすためには、どうしたらいいのか?」を考えるようになりました。中学校で卒業研究レポートを出す課題があったのですが、普通は10ページくらいしか書かないところ、「軍隊はなくなるのか?」をテーマに60ページも書きました。本当はもっと受験勉強をしなくちゃいけない時期だったのですが(笑)。

服部 私は初めてデモに参加したのは3・11よりも前で、辺野古基地反対の新宿デモだったんです。なんで興味をもったかというと通っていた予備校に、面白い世界史の先生がいたから。時事問題と結びつけながら世界史を教えてくれる人で、辺野古の問題も初めて知ったし、そのときから政治のことに興味をもつようになって、若者会議や金曜デモにも参加しました。デモへのハードルはそんなに感じていませんでした。興味の方が大きかった。

伊勢 デモに行く同世代の人を見ていると、親とか先生とか、まわりの大人から影響を受けている人が多い気がします。私もAO入試の担当が、かつて学生運動をやっていた画家の先生だった。秘密保護法のことやヘイトスピーチのことも先生から教えてもらいました。いまの大学ではそういう話をしてくれる先生はいない。歴史もレジュメに沿ってひと通り話したら終わりだし…。

──例えば芸能人やスポーツ選手などで、「もっと政治について発言したら若者への影響力があるのに」という人を挙げるとしたら?

小山 うーん、金メダリストとか?

伊勢 芸能人とかよりも、親や学校の先生など、身近な大人の発言のほうが若者にはずっと影響力があるんじゃないでしょうか。

学校では「デモ女」って言われる!?

──学校では、社会問題やデモに興味ない人が多いの?

伊勢 興味がない人のほうが大多数です。

小山 表面上はそうだけど、実際はどうなのかな…。関心があっても、体面を気にして出せないだけかもしれない。もし、社会的危機感がいまよりも強まったら、ほかの学生も動き出すんじゃないかな。

服部 SASPLはこれまでのデモのイメージとは違うのだけど、そもそもデモに対するハードルが高い人が多いからそういう話はしにくい。

伊勢 私はあえて、そういう話をしていこうと思っているんです。Twitterのアカウントもひとつしか作っていないので、政治のことも、学校のことも、友達のことも、恋の話も全部そこでしています。でも、この頃は政治の話ばかりしているから、学校の友達からは「デモ女」って言われてる(笑)。

服部 わたしも「原発キャラ」とか言われるよ(笑)

──ということは、アカウントを複数つくる人がいるということ?

伊勢 私のまわりはアカウントいっぱいつくって、政治のことは政治のアカウント、大学のことは大学のアカウントと使い分けていますね。デモのことを書くと、「そういうのイヤなんだよね」という人もいます。

小山 デモに行ったことをFacebookに書くかどうかは悩みますね。バイト先で「デモに行った」と話したときに、相手が明らかに“引いている”感じだった。日本では社会運動を白眼視してきたし、若者もその影響を受けているんだと思う。でも、いまは少し変わりつつある。集団的自衛権のことが問題になってから、だいぶん話しやすくなった。「もっと詳しく教えて」と聞いてくれる人もいる。集団的自衛権に反対するデモでも、学生とか20~30代の社会人とかの若者が圧倒的に増えた。変わってきたなと思います。

伊勢 これまで「デモに行っているんだ」と話しても、あんまりいい反応がなかったんですが、最近は「あとで詳しく知りたい!」と声をかけられることが増えましたね。

広めるためには「カッコよさ」も大事

──いろいろ団体がある中で、なぜSASPLに参加したの?

服部 SASPLはデモで歩いていても、すごく楽しいんです。コールがヒップホップみたいで、カッコいいから一緒に言うのも楽しい。音楽もよくて、移動するクラブみたいな感じ。センスがいい。また参加したいと思えたデモは、初めてだった。

伊勢 SASPLの映像とか写真を見たとき「超カッコいい」って思った。言葉の選び方や広め方にも「モテるかどうか、カッコいいかどうか」みたいな視点って大事だと思う。

──デモ参加を呼びかけるSASPLの映像はかなり話題になっていましたね。

三鷹・武蔵野市エリアのネットワーク「CIVITAS」と開催した「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定緊急抗議行動」への参加を呼びかける映像。

服部 自分の思いをアピールするのも大事だけれど、それだけで留まってしまうと広がっていかない。デモをやることで、周りで見ている人に関心をもってもらうことも必要。そうしないと若者の参加が広がらない。そのためには、カッコいいことや楽しめる要素も大事だと思います。

伊勢 年配の人たちがやっているような、これまでのデモのやり方を否定するんじゃなくて、それぞれのやり方でやればいいと思う。「過激そう」とか「近寄りにくい」とか、イメージで若者に敬遠されちゃうのはもったいない。若者には若者のやり方があるし、お互いに尊重し合って協力できればいい。でも個人ベースでは、若者と大人がもっとつながる場があってもいいのかなと思います。

8月2日のデモで、サウンドカーに乗ってスピーチする伊勢さん(一番右)。
代々木公園から渋谷・表参道などを巡った。

──自分より年上の人たちと社会や政治について話す機会はある?

服部 あまりないですね。こちらの話を聞いてもらえなさそうだし、一方的に話されそうで…(笑)。

伊勢 私は年配の人と話すのは面白いから好きです。自分からはあまり話さないけれど、いろんなことを教えてくれるから。

服部 自分と意見や思想が違う人、世代が違う人とどうやって話せばいいのか、正直わからないんです。日本では、議論の仕方を勉強する機会がないので、それが壁になっている気がします。でも、意見の違う人同士が話すから社会が進歩するのだと思うし、そういう場も作っていかないとダメですよね。

小山 感覚が違っていても、違う世代の人と話すことで視野を広くもつのは大事だと思います。

──今後はどんな活動をしていきたいですか?

小山 まずは、卒業論文ですね。テーマは集団的自衛権です。僕は、現在の行使をめぐる一連の動きに反対なのですが、賛成派の人にも届くような意見をつくりたいと思っています。デモについてもそうですが、自分と意見が違う人とどうやって話し合って、広げていけるのかが課題です。そのために、いろいろな人の意見も聞きながら勉強中です。

伊勢 いま、SASPLのメンバー内では、2年後の選挙を見越して活動をしていこうという話がでています。集団的自衛権や立憲主義のことも、ちゃんと選挙までに伝えていきたい。地方でも信頼できる仲間を見つけて、全国的に活動を広げていければと思っています。

服部 SASPLのような活動が増えていくことで、若者も声をあげやすくなっていくんじゃないかと思います。でも、いま私たちが何もしなければ、状況は変わらない。デモ以外の活動方法についても、考えていかないといけない。卒業後は広告や映像制作に関わる仕事がしたいと思っているのですが、社会に出て技術を身につけて、こういう活動にも生かしていけたらいいなと思っています。

(構成・中村未絵 写真・マガジン9)

 

  

※コメントは承認制です。
「僕たちだって、デモに行く!」大学生3人に聞いた、イマドキのデモ事情」 に6件のコメント

  1. magazine9 より:

    映像や音楽など、若者なりの表現方法で、学生たちも声をあげ始めています。座談会にも出た「相手によっては、政治の話を控えてしまう」という状況は、大人の社会も同じ。でも、周囲の大人がしっかり発信していく姿勢を見せることは、若者にとっても大事なんだなと思いました。

  2. 今村 登 より:

    おお、彼らに会ってみたい!
    尊厳死や出生前診断なんかについても、意見交換してみたいなぁ

  3. そう言えば、三人中二人は文系で、少なくとも三人とも理系ではない

    理系の学生はどうしているのだろうか?

  4. 宇野 より:

    若者もしっかりと認識していて発信していることを頼もしく思います。
    でも、我が街、埼玉県にありながら東京のベッドタウンには若者の動きがほとんど見られません。
    活動拠点を学校や職場の所在地にしているから?

  5. 島 憲治 より:

     「自分と意見や思想が違う人、世代が違う人とどうやって話せばいいのかが、正直分からないんです。日本では、議論の仕方を勉強する機会がないので、それが壁になっている気がします。」これは全ての国民に言えることである。私たちは、書く、読むに比べ話す、聴く教育を受けていないのだ。 文科省が未だに話す、聴くの重要性に気づていないのだ。気づかない理由は簡単。為政者がその必要性を感じていないからである。国民がこの弱さを肌で感じるのは、個人主義が徹底、「個」の確立がなされている外国人と交わる時である。                                                               自分と意見や思想が違う人との対話では「多様性を認める精神」が大事だと思う。「和して同ぜず」で良いのではないでしょうか。「『花は一輪でも美しい。でも、花束は、形や色の違った花々がお互いを引き立ているからもっと美しい』と異文化教育の授業でこんな言葉を教師が言っていた。」(堀内都喜子著「フィンランド豊かさのメソッド」)。                                                                   世代の違う人との対話では想像力を駆使し「聴く」ことを全回転させることが大事かなと思っている。想像力を鍛えるには日々の学習は欠かせない。 とかく高齢の世代が若い世代に対し体験談を話したがるのは聞いてくれる人がいない寂しさか、体験の少ない若い世代に対し自分の優越感を維持したい為と考えて間違いないだろう。但し、自分の間違いや逆境を乗り越えてきた人の話は金を出しても聴く価値がある。ところがそういう人達は聴くもされないのに自ら語ろうとしないものだ。それは相手を慮ってのことなのだ。         

  6. 関口 暁子 より:

    SASPLのようなセンスのいい若者たちが行動に立ちあがっていることに心強い思いがします。私は48年前に東京外語大を卒業したのですが、その頃の学生のデモはかなり過激な暴力的なデモに変わって行ってしまい、学生運動も分裂してお互いに暴力で対抗したりして学生運動に対する嫌悪感が広がってしまった様に思います。
    これからは完全に非暴力で楽しく自己表現するような形のパレードをするといいですね。

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