【スタッフコラム】
福島原発さいたま訴訟報告(9)
福島原発さいたま訴訟を支援する会
北浦恵美
福島原発さいたま訴訟は、2014年6月の第1回期日から2年1ケ月が経ち、これまで11回の口頭弁論期日が行われ、次回8月10日午後3時より、第12回目の期日を迎えます。
6月の第11回口頭弁論期日は、皆様のおかげで傍聴席がほぼ満席となりました。本当にありがとうございました。
第11回の期日では、まず、原告側代理人弁護士が意見陳述をしようとしたところ、東京電力代理人が「書面が届くのが遅かったので、意見陳述が書面の範囲にとどまるのか確認できないから陳述は認められない」という主張をしてきました。
このように、東電代理人が原告側代理人の意見陳述をさまたげようとするのは2回目です。前回、裁判長から「口頭主義ですから」とたしなめられたにもかかわらず、再びの主張でした。
これについて、原告側弁護団が強く抗議し、裁判所は合議の上、当然のことですが今回も意見陳述を認めました。
傍聴人が見守る中行われた意見陳述の内容は、国及び東電の主張に対する反論でした。
国は、「全電源喪失」は通常想定する事象をはるかに超え、本件訴訟における予見可能性の対象ではなかった、その対策についても、法規制がなかったから規制できなかったなどと主張しています。そして、本件事故前の非常用ディーゼル発電機の設置状況は、電源の多重性及び独立性を求める省令62号の基準に合致しており、規制権限を行使する状況になかった、と主張しています。
しかし、この「非常用ディーゼル発電機及び配電盤」は、そのほとんどが地下1階に設置され、今回の敷地高を超える津波による浸水により、その機能を果たせなくなりました。
万が一にも事故を許さないとしてきた原発施設の非常用設備は、あまりにもお粗末でした。この設備が「多重性・独立性」を有していたといえるでしょうか。「多重性・独立性」とは、1つの原因によって同時にその機能を失うことのないようにすることを求めるもののはずです。
また、1991(平成3)年10月30日には、福島第一原発において、タービン建屋地下に埋設されている補機冷却海水系配管が腐食により穴が開き、漏えいした海水によって一帯が浸水し、非常用ディーゼル発電機のエンジンが故障する事故が起こっていました。
この事故に学び、非常用電源について、一部でも高所に設置するなり、水密化する等の措置を講じてさえいれば、全電源喪失という事態は免れることができたはずです。
これらの事実を指摘し、国の責任を厳しく追及する内容の陳述でした。
続いて東電への反論の陳述がなされました。
東電は、国の設置した「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキン ググループ」(以下WG) 報告書を根拠に、避難指示があった年間放射線量20ミリシーベルトの地域に限り、避難の相当性があると主張しています。ということは、国からの避難指示のない避難者に対して、避難の相当性がない→自らの賠償責任を否定する主張です。
まさにあきれた主張ですが、これに対して、原告側弁護団が改めて、厳しく批判する陳述を行いました。
まず、WG報告書について、グループ構成員らに偏りがあり、低線量被ばくによる健康被害について否定的な立場のものが多かったことを指摘。結果として、予防原則の観点が欠落、低線量被ばくによる健康影響を不当に過小評価し、危険性がないかのような印象づけがされました。このWG 報告書に依拠した東電の主張は、原告らの避難の相当性を否定する根拠にはなりえません。
さらに、このWGは避難指示の「区域見直しの検討」のために設けられたもので、避難・移住による経済的被害やコミュニティの崩壊、職を失う損失、生活の変化による精神的・心理的負担等の悪影響の双方を考慮に入れる、というきわめて政治的・政策的なものでした。
WG報告書発表当時、日弁連会長声明はこれを厳しく批判しています。
「避難指示の基準とされる空間線量年20ミリシーベルトは、ICRP2007年勧告において緊急時被ばく状況での下限を採ったものであり、具体的な科学的知見ではなく社会的な判断の結果でしかない。年間20ミリシーベルト未満の安全性が確認されているわけでもない」
「現行法上空間線量が3ケ月1.3ミリシーベルト(年間5.2ミリシーベルト)以上の場所は放射線管理区域とされることからしても、空間線量年間20ミリシーベルトを被ばく線量低減を目指すに当たってのスタートラインとすることは余りにも高すぎるのは明らか」
これまで、放射線管理区域とされ、厳重に被ばく管理をされた値の3~4倍の値でも安全だと突然言われて、納得することができるでしょうか。まさに、ご都合主義以外のなにものでもありません。
その報告書を、東電は避難の相当性の根拠としています。事故後の政治・政策的な判断と、個人の権利の侵害とは、次元が異なります。避難指示区域外からの避難者は、自ら、もしくは幼いこどもたち等家族の健康被害を防ぐために、より放射線量の低い地域へと逃れることを余儀なくされました。それはまさに事故による被害であることは明らかです。
弁論終了後の報告集会では、避難指示区域外からの避難の相当性について、今後、原告全ての被害が十分に認められるよう丁寧な主張をしていくと、弁護団から強い決意が示されました。
現在、20世帯68名の原告の方々が闘っていらっしゃいます。昨年度から、裁判期日前等に原告交流会を開き、昼食を共にしながらの懇親会を開いています。裁判への期待や不安、政府や東京電力への怒り、近況などをお伺いし、弁護団から裁判の進行の説明をしてもらい、交流をしています。
「もう帰れない。帰ったって、山も川も汚染されたまま。家だけ除染した、と言われても、見た目はきれいになっても、ねえ。帰ってみると、ほんと見たところは昔と変わらないんだよ、でもね…」と語られる言葉の中に、どれだけの無念で理不尽な想い・哀しみがこめられているでしょう。
被害者の言葉にこそ、真実があります。その言葉に耳を傾けることでしか、これからの未来は築けないはずです。
毎回の裁判の傍聴にぜひご参加ください。満席の傍聴席が、原告と弁護団を勇気づけます。次回期日は8月10日(水)午後3時からです。
福島原発さいたま訴訟第12回口頭弁論
及び 報告集会 及び 支援する会総会
とき:8月10日(水) 午後3時開廷 さいたま地裁101号法廷
※傍聴券が配られる予定です。午後2時20分までにさいたま地裁B棟前においでください。
※裁判終了後、弁護団主催の報告集会と2年目を迎えた「支援する会」の年次総会があります。場所:埼玉総合法律事務所3階会議室
内容:口頭弁論期日の説明、原告側の主張の概要★支援する会年次総会:支援する会を結成してから早2年。報告集会と合わせて、支援する会の年次総会を行います。1年間の経過報告、会計報告、これからの活動方針について話し合います。ぜひご参加ください。
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次回以降の期日
10月5日(水)午後3時
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〈これまでの関連コラム〉
→ 2017/03/15 福島原発さいたま訴訟報告(10)
→ 2016/08/03 福島原発さいたま訴訟報告(9)
→ 2016/04/06 福島原発さいたま訴訟報告(8)
→ 2016/04/06 福島原発さいたま訴訟報告(7)
→ 2016/01/20 福島原発さいたま訴訟報告(6)
→ 2015/11/18 福島原発さいたま訴訟報告(5)
→ 2015/06/24 福島原発さいたま訴訟報告(4)
→ 2015/06/24 福島原発さいたま訴訟報告(3)
→ 2015/04/15 福島原発さいたま訴訟報告(2)
→ 2015/02/11 福島原発さいたま訴訟報告(1)
→ 2014/11/26 福島原発さいたま訴訟に思うこと
→ 2014/05/28 福島原発さいたま訴訟、第1回期日とその支援のこと