ぼくらのリアル☆ピース


日本の若者は、政治や社会運動、平和運動には関心がない。
そう言われることが少なくないですが、本当にそうでしょうか?
各方面で活躍する若者に、かれらが取り組んでいる活動の内容や、動機について聞いてみました。

大久保美希
(おおくぼ みき) 1986年3月東京生まれ。教育学専攻の早稲田大学4年生。大学3年時の一年間のカナダ・バンクーバー留学中に出会った開発学や市民運動がきっかけで、帰国後にアフリカ平和再建委員会(ARC)でボランティア活動を行う。現在はARCのキャンペーン「ストップ子ども兵士アクション」国内活動チーフとして、子ども兵士の実態を描いたドキュメンタリー『Invisible Children(「邦題:見えない子どもたち」)』の上映運動に取り組む。

■映画『Invisible Children』
 自主上映キャンペーンの担当者として

──大久保さんはアフリカ平和再建委員会(以下、ARC)でどんな活動をしているんですか?

 ARCは1994年のルワンダ大虐殺を発端に設立されたNGOで、アフリカでの平和構築支援を行うことを目的とした色々な活動を行っています。私はARCの中にある「ストップ子ども兵士アクション」キャンペーンパートの日本周知活動として、北部ウガンダ紛争の子ども兵士の現状を知らせるために『Invisible Children』というドキュメンタリーの広報運動を担当しています。上映運動のための、ボランティア募集の運営にも関わるようになり、私が声をかけた人たちがだんだんとボランティアとして集まってきたので、今はボランティアグループの代表っぽくなっちゃってるんですけど(笑)。

──ボランティアスタッフは、何人ぐらいいるんですか?  

 今、10人になりました。4人が社会人、6人が学生です。私が入ったときは、私しかいませんでした。

──すごいですね。どうやって増やしたんですか?

 自主上映会を開いてその時に告知したり、ゼミの友達に広めたり、わりと身近な所から広めていった感じです。ブログで宣伝すると「これ見たい!」という声があったりもしました。 

 私は「こうでなきゃ(ボランティア)活動はできない」とは絶対言わないようにしています。みんなが何かしら参加できる状況を作りたかったので「ここでは、あなたのやりたいことができますよ」と言っています。実際に「ボランティアはここまで」とかではなくて、「こういう企画もつくれます」という方が、(この団体は)「ボランティアに任されている部分が大きい」と感じて入ってくることもあります。

──上映をすすめている『Invisible Children』ってどんな映画ですか?

 この映画を撮ったのは、アメリカの普通の若者3人です。彼らが、ビデオカメラを持ち旅行で訪れたウガンダで、子ども兵士に出会って衝撃を受けて、それで帰ってから作ったドキュメンタリーなんです。だから感覚も若者向けです。

 映画の最後で、観客に投げかけるメッセージがでてくるんです。子ども兵士の問題を解決するには、「あなたの時間が必要です」「アイデアが必要です」「お金が必要です」とか。だからこれを見た後は「私にできることは何だろう」って考えたり、話ができるきっかけになりやすい映画だと思います。

ARCは女性のための洋裁技術訓練の指導の手伝いも行なっています。ルワンダは、1994年の内戦後、男性の数が激減しました。急務となった女性の自立支援の一環として行なわれています。

■カナダの留学体験から見えてきたこと

──ところで、この活動を始めたきっかけは何だったんですか?

 早稲田大学3年の時にカナダに交換留学したことが、大きかったと思います。 留学先には、社会学や文化人類学に割と強い大学を選んだのですが、そこで色んな「気づき」を得られて。

──どんな「気づき」ですか?

 一つは、自分と世界とのつながりが構造的に理解できたことです。早稲田大学では教育と平和構築というテーマで教育学を勉強してきました。平和をつくるためには、人の気持ちや心を変えていくのが大事だと、自分の中で漠然と思っていたからです。でもそれだけだと、アプローチした結果、人がどう動いて、世界がどうなるのかなどの「大きな枠組み」が見えない。それでカナダの大学では、開発学を授業の中でとりました。

 以前はたとえば「土地が肥沃じゃないから、ああいう条件で生まれたからしょうがない」とか、「途上国」の貧困や紛争問題を「途上国の問題」として見ていたんです。

 ところが授業を受けてみると、いかに先進国が「途上国」と歴史的に結びついてきたか、それも「搾取の関係」を続けてきたのかがわかりました。

──搾取の関係とは?

 例えば私たちの身の回りで安売りしている商品は、中国やベトナム製のものが多いですよね。日本製より安くモノが買えるのは、「途上国」の生産者がつくったモノが、労働力に見合わない値段で買いたたかれて消費者に届いていく、というプロセスがあるからです。

 このような不平等な経済構造は、実は世界史と密接に結びついているんです。今日の先進国と「途上国」って、歴史をたどればかつての宗主国と植民地ですよね。アジアやアフリカで多くの支配された民族が独立を勝ち取った第二次大戦後の世界では、かつての宗主国と植民地は、政治的に対等な関係になったはずでした。ところが両者の不平等な関係は今日まで続いています。戦後のヨーロッパとかアメリカの対応は、たとえば「援助」すると言いながらその国を債務漬けにすることで、不平等な経済構造を再生産するものでした。また「構造調整」といった、自国の多国籍企業が有利な政策を「途上国」に押し付けたりとか…。「ああ、「途上国」で起きている紛争や貧困の問題って、先進国がつくりだしているんだ。自分たちもすごく荷担しているんだな」って思って。

──マクロの視点から、物事や事象を見る勉強をされたんですね。

 この「世の中の構造」がわかったことで、自分が行動しなきゃいけない理由みたいなものが、つかめたかなと思っています。

ルワンダ・キガリの孤児院「ギシンバ・メモリアル・センター」をARCスタッフ(当時)が訪問した時のもの

■若者が積極的に作っているカナダの市民運動

 もうひとつは、カナダで体験した市民運動です。本当に活発で裾野が広い。たとえばみんなが入っていきやすいように、デモでなくパレードにしてしまうとか。集会もすごくイベントチックなので、(一般の通行人でも)「何だろ?」と思って、飛び入りで入ってゆきやすい、そんな雰囲気や演出がすごいんです。毎週のようにダウンタウンの広場では、何かしらの市民活動をしていました。テーマとしては、あの時はチベット問題などが多かったですね。スーダンのダルフール紛争とか、他にも一杯ありました。私もカナダでフェアトレードに興味を持って、大学内の学生団体を通じてそのキャンペーン活動にちょっと関わったりしたんです。フェアトレードに関するドキュメンタリーの上映会を開いたりとか。バンクーバーにはフェアトレードショップがたくさんあって、民芸品からコーヒーまで、品数も豊富で。またあらゆる国のものを扱っていました。

──参加者には、若者も多いんですか?

 学生が多いですね。すごく積極的。あとNGOも。みんなコラボして一つのイベントを協力してつくるとかが当たり前でした。それが留学の終盤だったんです。だから日本に帰ってきても、やっぱり何かしたいと思いました。

 それで自分で調べて、国際協力やアフリカ関係の色んなイベントに顔を出すようになったんです。その一つが、スーダン人のアブディンさんが中心となって立ち上げていた、スーダンの目の不自由な障がい者を支援する会でした。

──アブディンさんは、「マガ9」でもインタビューしていますよ。スーダンのダルフール紛争について、彼の視点で語ってもらっています。

 そうなんですか! 私は、そのイベントに参加して、ARCの事務局長をしている小峯茂嗣さんと出会ったんです。実は私、カナダで移民など色んな人を見てきて、アフリカの話に特に興味を引かれました。特にルワンダでは、100日間で100万人殺されたとか、今でも和解の話が進んでいるとか…。実際に現地でどのように「平和構築」が行われ、人が和解し一緒に生きる術を模索しているのかを知りたいと思いました。ARCは、ルワンダの援助を市民レベルで行なっている団体で、現地にも出かけていくなどの活動をしている、と聞いたので、その団体の活動には興味があったんです。しかし小峯先生からは、ルワンダとは全然違うプロジェクトについて誘われたんです。「子ども兵士についてのドキュメンタリー映画を広めたいと思っているんだけど、その広報として、全国行脚してくれる人捜してるんだけどね、大久保さんはどう?」と聞かれ、ええ?!と思ったんです。

──ルワンダとウガンダとでは、同じアフリカですが、まったく違う国ですしね。

 ただ、映画の上映運動と聞いて、すぐにピンと来ました。というのも、以前は国際協力とか貧困問題にアプローチすると言ったとき、「途上国」の現場に行くことを想定していたんです。

 けれど、カナダの活発な市民運動に接して、「構造」の中では先進国の人が変わらないと問題は絶対に変わらないんだな、と思いました。「自分が現地に行ってできることはすごく限られている」という話をよく実際に行った人たちからも聞いていましたから。それに、日本国内での市民運動も全然活発じゃないじゃん、と自分では感じていたので。だから、日本国内での「映画の広報活動」は、私のモチベーションにうまく働きかけてくれた感じです。(笑)

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