マガ9レビュー

(1971年日本/岡本喜八監督)

激動の昭和史・沖縄決戦

 太平洋戦争末期、日米両軍ならびに民間人を巻き込んだ3カ月にわたる激しい戦闘の末、沖縄が米軍に制圧されたのはいまから69年前のことだ。

 私は以前からこの映画が気になっていた。しかし見るのを躊躇っていた。往年の東宝や東映の戦記物は長尺かつ演出が感情過多という先入観があったからである。ところが、岡本喜八監督のエッセイ集『マジメとフマジメの間』(ちくま文庫)の巻末に掲載された「庵野秀明が語る岡本喜八の魅力」を読むと、『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野監督は『沖縄決戦』を100回以上見たという。彼は、この作品の戦闘が始まるまでの緊張感に満ちた演出や新藤兼人の脚本を忠実に映像化した岡本監督の職人技を絶賛しており、ならばと思ってDVDを手にとった。

 冒頭、大日本帝国陸軍の第32師団が、沖縄の住民から日の丸の旗を振られて迎え入れられる。彼らにとって本土の軍隊は沖縄を守ってくれる存在であった。しかしながら、戦闘機、戦車、武器弾薬、兵力と、アメリカとの圧倒的な物量の差をどう克服するかにおいて、第32師団は大本営との間で作戦上の意思統一を図れず、最終的には本土防衛の捨て石として追いつめられていく。

 美しい島々は、爆弾と銃撃によって蹂躙され、鮮血で赤黒く染められる。兵士だけではない。米軍の攻撃から逃れきれないことを悟った村民たちは山林のなか、手りゅう弾で自決を図り、それでも死ねなかった者は互いに棍棒で頭を殴りあって息絶えた。野戦病院で看護に当たっていた女学生は互いに手を握りながら青酸カリを飲み、32師団長の牛島中将、長参謀が洞窟の司令部で割腹自殺を図った後も、鉄血勤皇隊の少年たちは米軍部隊に突撃し散っていく。米軍の戦車が迫るなか、トーチカに立てこもった父親は息子の頸動脈を切り、直後に自らの首にも刃物を突き立てた。

 私たちはこれでもかというほど繰り返し無惨な死に立ち合う。沖縄戦で忘れられてはならない事実をすべてスクリーンに焼き付けておく――岡本喜八や脚本の新藤兼人らの執念が全編を覆っているかのようだ。その根底にあるのは戦争に対する怒り、そして、それを主導した国家への不信の念である。

 はたしていまの時代、これだけ直截な映像表現は可能だろうか。ときにそんな自問をしながら私はこの映画を見続け、沖縄の浜辺に横たわる無数の屍の間をたった一人で歩く少女がラストで見せる仕草に言葉を失った。

(芳地隆之)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

最新10title : マガ9レビュー

Featuring Top 10/66 of マガ9レビュー

マガ9のコンテンツ

カテゴリー