マガ9レビュー

(適菜収 著/KKベストセラーズ)

 タイトルの「安倍」とは安倍晋三首相のことである。
 一昨年の党首討論での安保関連法案を巡る論戦の場で、「米国の戦争に巻き込まれることは絶対ありえない」との発言が、当時の民主党の岡田党首によって問題視された際、「安倍」はこう語った。
 「法案についての説明は全く正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」
 この「イカレポンチ」の発言を「イカレポンチ」と思わない人が増えているから、「私は立法府の長」と繰り返し語ってしまっても、政権がひっくり返ることなく、安泰でいられるのだろう。
 本書は、保守を自認しながら、日本の歴史や伝統を軽視している「安倍」の分裂的な政策についても批判をしている。なかでも印象的なのは、彼の発言ではなく、ある所作だ。
 和食・日本の食文化が2013年、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのを機につくられた内閣広報室の動画で「安倍」は、「『それではいただきます』と言うと同時に、目の前にあるご飯茶碗を左手で、箸を右手で同時に持ち上げ、さらに箸を宙で回転させ、最後は口からはみ出たご飯を箸で押し込んだ」のである。
 己の政治信条について多くの美辞麗句を弄しても、ほんの小さなしぐさがその人の本性を表してしまうことがある。
 本書はそのようなエピソードに事欠かない、全編どのページを開いても「安倍」に対するツッコミ満載だが、それらを読んで溜飲を下げる類のものではない。著者はその理由を「はじめに 政治家の条件」で次のように記している。
 「本書は安倍個人をバカにしたり揶揄するものではありません。(中略)病んでいるのは、ああいうものを増長させたわれわれの社会です」
 私たちの病んだ精神にも自然治癒力が備わっていることを信じたいが、はたして世界を眺めていると、各国で『〇○でもわかる政治思想入門』が出版できそうな気配の年の始まりだ。
 帯には「総理と学ぶ66の基礎知識」とある。いまいちど、本書で紹介される政治思想のイロハだけは押さえておこう。

(芳地隆之)

 

  

※コメントは承認制です。
vol.277安倍でもわかる政治思想入門」 に1件のコメント

  1. より:

    あの宰相を選んだのは私達日本人。共に崩壊するのは誰のせいでも有りません、自分達です。

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