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2011-12-16up

おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」

第36回

衝撃の安定ヨウ素剤の服用基準について@被ばく医療分科会の件。

 12月7日は安全委員会の原子力施設等防災専門部会の1つ、第28回被ばく医療分科会の傍聴に走って行ってきましたよ! そのあと、浅草の東洋館のお出番を頂いてたので、後半は傍聴できなかったんだけど、ものすごい、興味深い議論でした。最後まで傍聴したかったなぁ!

 この会は、安全委員会・加藤審議官、被災者生活支援チームの医療班・福島班長、そして安全委員会・橋本安全調査副管理官(あだ名「専門家」のあの方ですよ!)という、お三方が揃い踏みでメインなのでした。ということは、他の被曝について話し合う会議(福島県の検討委員会や、細野大臣の低線量被ばくWG、文科省の放射線審議会などなど)より、ずっと実のある話し合いに違いないよ、とそこはかとなく期待しながら。そして分科会にご出席している委員の先生方のラインナップを拝見して、また期待。他の会議では同じ先生方があちこちの会議にご出席されており、…つまり、どこも同じような議論で同じ結果に落ち着いちゃう、ということ。被曝について、案外、大丈夫ですよね的な結果に落ち着いちゃうことが多いのです。

 前置き長し! さて、この分科会は私にとって知らないことが多く、衝撃的なものでした。

 まず安定ヨウ素剤についての課題がたくさん挙げられていました。備蓄について。配布について。それぞれかなりの課題がありましたが、服用についての課題に注目しました。

 現状は

国(原子力災害対策本部長等)判断
↓↓↓
国現地対策本部長指示
↓↓↓
県現地本部指示
↓↓↓
関係自治体
↓↓↓
住民
副作用に備えた医療関係者の派遣

 と、なっています。

 そして今回の事故対応の反省点として「事故事象の早い進展に対して、服用指示、実施が遅れた。服用状況が把握されていない」というものが挙げられています。
 そこを踏まえた安定ヨウ素剤の服用に関する課題として

服用指示責任
  • 事故時の実効的な服用指示はどうあるべきか?
  • 服用のための判断基準(EAL〈緊急時活動レベル〉、OIL〈実用上の介入レベル〉)をあらかじめ決めておき、それに基づく意思決定フローを定めておくべきではないか?
  • 指示責任は誰が負うべきか?
  • 医師や医療関係者の関与はどうあるべきか?
  • 「各戸事前配備」への服用指示の伝え方は?
  • 医薬品としての位置付けを整備すべき課題はないか?
服用時の対応
  • 医療関係者の立ち会いが困難な場合に、それがなくても服用できるような体制、制度を整備しておくべきではないか?
  • 服用指示と服用指導はどのように行うか?
  • 副作用のリスクをどのように伝えるか?
  • あらかじめヨウ素剤禁忌の有無を確認できないか?
  • 安定ヨウ素剤禁忌の場合の代替薬は必要ないか?
副作用発症時の対応
  • 副作用が発症した場合、医療関係者を派遣できる体制が必要ではないか?
  • フランスのように副作用発症時の国による補償制度を整備すべきではないか?
実効的な服用方法
  • 調剤のしやすい剤形を用意できないか?
  • 水溶性錠剤を用意する等で小児・乳幼児の服用方法を簡易にできないか?
  • 副作用が発生した場合にはどのような対応をとるのか?
  • 複数日にわたる服用が必要な場合の処方は?

 などなどが挙がっています。この量くらいの課題が、備蓄について、配布についてもそれぞれ挙げられているの。いやーこれ絶対2時間の議論では終わらないでしょうよ! けど、他の会議と比べて、意気込みは買うよ!

 そして、次の安定ヨウ素剤に関する課題「投与指標について」で、目が点になるのです。

現状: 小児甲状腺等価線量で100mSv
課題: IAEAのGSG-2(安全基準ガイドライン)やBSS(国際基本安全基準)で示された、「小児甲状腺等価線量で最初の7日間で50mSv」の参考レベルを適用すべきではないか?

 え!? そこからしくじってたのね!?

 今回の福島原発事故での安定ヨウ素剤の投与指標は1歳児の甲状腺等価線量で100mSv、というものでした。それに基づき、文科省のSPEEDIなどの試算結果も「1歳児、甲状腺等価線量、100mSv」というものが基準となっていました。うぅ、そこからか…。

***

 これについて、12月7日被ばく医療分科会での、鈴木元先生(国際医療福祉大学教授)のご発言。

※分科会内の発言は原子力安全委員会ホームページ記載の速記録を元にしています。こちらから読めます。

鈴木先生「 前回、安定ヨウ素剤の服用基準を決めたときの委員でありましたので、最初に発言させていただきます。
 もともと100mSvに決めていった背景ですが、IAEAがGeneric Intervention Level(一般的介入レベル)ということで、回避線量を100mSvというものを当時国際社会で出しておりました。
 一方、同じころ、例えばアメリカはチェルノブイリ事故のときのヤコブ先生の『nature』の報告とか、症例対象研究での線量の分布等の検討から、当時から介入開始線量を50mSvというふうに決めておりました。
 またWHOが――これは完全にリスクベネフィットの計算から、小児に関しては小児甲状腺10mSvでいいというようなガイドラインを出していました。前回、安定ヨウ素剤の検討をしたとき、そういう三つのことが大きな科学的な背景としてあったということでした。

(えええ!? WHOでは10mSvなの?)

 その中で日本の場合は予測に基づいて動き出すので、実際は回避線量ではなくて予測で始める、100mSvが予測された段階で動き出すので、現実的な対応としてはかなり低い線量で実際は動くことになるだろうという形で決めたと私は記憶しております。
 今回、50mSvに下がってきたというのは、先ほど言ったIAEAのGeneric Intervention LevelとWHOの10mSvというものの矛盾を国際社会が解消してきたということが一つありますし、何で50になったかというのは、先ほどアメリカの例で申しましたけれども、今の疫学データで50mSvがある意味で科学的な一定の根拠を持っているというところにベースを持っているかと思います。そういう意味で私は、今回、最初の7日で50mSvという参考レベルをとるというのは賛成であります」

***

 つまり、世界では50mSvが安定ヨウ素剤の投与指標になっているところが多い、と。そしてWHOは小児に関しては10mSv。日本は回避線量ではなく、100mSvに予測ということで動くことになるだろう、という判断をしていたのですね。
 しかし、実際は予測のSPEEDIは公開されず、生かされなかったわけです。

 資料に「各国の安定ヨウ素剤服用状況」というものがありました。

(クリックで拡大します)

 なるほど、50mSvとなっている国が多いうえ、子供と大人の介入レベルを変えている国は多いですね。そして、配布時期も事前に「実施する」国ばかり。事前に「実施しない」とはっきりしているのは日本だけですよ!
 つまり、事故が起こったときに、安定ヨウ素剤が必要な地域には予め配布してある国がほとんど、ということなのです。

***

 WHOの安定ヨウ素剤の投与基準に関する資料についても後ほど調べてみました。恐らくこの資料。

 この中の表に

(クリックで拡大します)

 Neonates, infants, children, adolescents to 18 years and pregnant and lactating women(新生児、乳児、子供、18歳までの青年、妊娠と授乳中の女性)は甲状腺の回避線量が10mGyという表記があります。
 しかもこのグループにだけ、Inhalation(吸入)だけでなく and ingestion(経口も)という記述を付け加えてあります。
 とにかく最も甲状腺被曝について注意しないといけないグループということですね…

 (ちなみに、グレイとシーベルトについて。

グレイ: 放射線が「もの」に当たった時にどのくらいのエネルギーを与えたのかを表す単位。
シーベルト: 放射線が「人間」にどのような影響を与えるのかを評価するための単位。

シーベルトの値=グレイの値×放射線荷重係数(放射線の種類による影響の違い)

となり、β線・γ線などは1、中性子線で5〜20、α線は20となっています。ヨウ素はβ線を放出するので荷重係数は1、つまりグレイ=シーベルトと考えていいのです)
 
 わーWHOの安定ヨウ素剤の服用指標は、小児などはやはり10mSvなのか… 

***

 そして、50mSvが預託なのか7日間なのか、7日間としたらどの7日間か(事故発生後か、最も放射性ヨウ素の量の多い7日間か)、などなどご議論が続きます。

 安定ヨウ素剤の副作用についても話が及びました。また鈴木先生のご発言を抜粋します。

***

鈴木先生「副作用の件で、ポーランドの事例が報告されています。小児1050万人、それから大人700万人にヨウ素剤が投与されております。子どもに関しては薬液を作ってスポイトでピュッピュッと飲ませるというような非常に苦いものになりますが、副作用として重篤なものが起きたのは大人の700万人中2、3名というような書き方になっていたかと思います。もともとヨウ素アレルギーがあって喘息がある人が呼吸困難になって救急搬送されたというのが重篤な副作用の全てであったように思います。
 その他、一時的な紅斑が、これは10%ぐらい出ているという形になっているのですが、皮膚科の医者が診ていないのでどういう性状のものか分からない。すぐ消退したというような書き方になっているかと思います。その他は苦かったせいか少し胃がおかしくなるとかそういうふうな副作用だけで、あまり重篤なものはなかった。
 WHOはそういうものを踏まえて、小児に関しては副作用は考えられないので、10mSvで投与してもリスクベネフィットはバランスがとれるということを言っておりました」

***

 鈴木先生は「小児に関しては安定ヨウ素剤の副作用は聞いたことがない、なので、副作用を恐れて事前に飲ませないのはおかしい」といったことを度々おっしゃっておられました。
 そして副作用についても、

鈴木先生「重篤なものは喘息のような口腔内の粘膜腫脹に伴う喘息発作、アナフィラキシー、これにほとんど限られてくると思います。それは現場に医療者がいるかどうかというよりは、後方搬送の手段をとるか、あるはエピペンのようなある程度非医療者でも使えるようなボスミン皮下注(射)、鎮痛薬か、そういうものを同時に配備するかとか、何かそういうふうなもっと具体的な考え方をとっていく必要があるのかと思います」
 
とのこと。
 つまり副作用を恐れて投与しないのは本末転倒で、服用指標は50mSvに下げて、アレルギー対応をきちんとすればアグレッシブな投与もありでは? というように受け取れました。

***

 その他、実際に事故直後の福島で活動されていた細井義夫委員(広島大原爆放射線医科学研究所)のお話も注目すべきものでした。

(ちなみにお話に出てくるOILとはOperational Intervention Levels、実用上の介入レベルと訳され、防護対策を実施するための測定可能な指標で表された判断基準のことです)

細井委員「今回のことで議論すべき最も重要なことは、投与指示がうまく出せなかった、あるいは出せなかった可能性が高いということですので、服用の指示をどのように出していくかというところが最も重要なのではないかと思います。私は現場におりました。

(む、現場の方の、服用指示が出せてない、という意見はぜひ伺わなくては)

 それで、原子力安全委員会からの、以前の衣笠(善博)先生が多分2010年でしたか、提案をしていらっしゃいますが、1つは体表面汚染の基準でということもあると思います。あと外国、他国では空間線量率でOILを決めて、それで投与するというところもあると思います。
 私が実際にやった経験からすると体表面汚染はかなり部位によって違う。頭とか手のところは非常に高かったということがございますので、なかなか使いにくいのではないか。個人的には空間線量率でやるのがいいのかなと。

(実質的なご感想ですね!)

 もし本当に飲ませる指示を出さなければいけないということ(であれば)、しかも自治体単位でそれを出さなければいけないということになるのではないかと思います。ヨウ素剤を投与すると(すれば)、プルームが来てから6時間以内ぐらいには少なくとも投与しなければいけない。

(6時間! そんなに早く!)

 実際、患者様が服用しなければならないということですので、その時間を考えると極めて短時間に判断して、投与指示を出して、実際それが実行されなければいけないというのは非常に難しいことなのですが、それに近づくためには(基準の数値などが)非常に簡単なものでないとなかなか難しいと思います。

(ややこしい測定、数値で、肝心の投与が遅れたらしょうがないですもんね)

 個人的には、たたき台として提案しますが、空間線量率で出す。他国にも確かそういう例があるということですので、それがいいのではないかと思います。
 もう1点、(原子力災害対策本部の)松岡(建志)様が先ほどおっしゃっていましたけれども、線量のことですが、私自身は13日から17日まで福島と一部南相馬、それから一部原子力発電所の近くまで行って、その時ヨウ素剤を1錠服用したのですが、それで計算すると私の甲状腺の被ばく線量は約20mSvでした。これはゲルマニウムの検出器で、広島大学にある精密型で測定しております。一番多い摂取はテルル132、次いでI-132が測定されて、I-131がその次。ただ、線量で見るとI-131が最も多くて、ということでした。
 それからすると、その当時の空気がどれぐらいだったのかが分かって、それから計算すると1歳児だったら線量はどれぐらいか計算できると。(もし1歳児が)私と同じ行動をとったとすると100mSvでした。

(ここで、会議室がシンとなりました。私もメモの手が止まり、細井委員のお顔を見ました。)

 ただ、私は原子力発電所の比較的近くまでトリアージに行ったりしていますし、ヨウ素剤を1錠服用しているので何とも言えないですけれども、参考程度ということでございます。以上です」

***

 この分科会は意見を出し合い、提言にまとめる、といったものなのです。その後の鈴木先生の意見もピックアップします。

鈴木先生「…(投与基準が)空間線量率だけでは難しいのは今回プルームが1回来た後、ずっとバックグラウンドが高くなってしまっているので2回目のものをうまく今度は検出できなくなるという別の問題が出てきます。

(あぁ、何回も何回もプルームがきた、ということですね…。NNSAの生データでもそういう結果は読み取れましたよ…「脱ってみる?」第33回参照

 ですから、私はOILを複数やはり準備しておく必要があって(と思う)。最初(プルームが)飛んできた時には確かに空間線量率である程度シミュレーションができるだろう。それ以降になるとやはり違うものにならざるを得ないのか。それが例えば鼻腔スミアであったり、

(鼻スミア試料については「脱ってみる?」第23回の後半参照

あるいは顔面の皮膚の汚染密度であったり、そういうものになるのかなと思っています。これはまた後で具体的な議論になるかと思います。」

***

 かなり活発に意見が出たところで藤元憲三技術参与がこんなことをおっしゃり、まとめに入りました。

藤元技術参与「まず、ヨウ素剤の服用に関するOILにつきましては、防災指針検討ワーキンググループの方で今後議論いたします。ただし、それは大変難しい議論になるかと思います。
 それから、ヨウ素剤の服用は他の防護措置と併用して考えていただかなければいけない。避難をする時に被曝しない状態で避難できればヨウ素剤の服用は必要ありません。ですからプルームが飛んでくる前に逃げれば、避難場所でヨウ素剤を服用する必要がないかもしれない。あるいはヨウ素剤の服用よりも、もっと実効性を考えれば屋内待避の方がいいかもしれない。

(ん? 各国はもっと積極的に服用してますよ? 副作用も少ないしわりと難しくない対処で対応できる、と鈴木先生おっしゃってたし)

 ですから、そういういろいろな防護措置と総合して、どういったヨウ素剤の服用を考えていかなければいけないかと考えます。
 ただ単にヨウ素剤の服用だけ、ですからヨウ素に対する甲状腺の被曝を低減するための手段としてヨウ素剤だけを考えるというのはちょっと片手落ちだと思います」

 なんか感じ悪いな、なんだこのまとめ方!!と思った瞬間、細井委員の手が挙がる!

細井委員「OILはここでは決めないという事務局の方針ということでよろしいのでしょうか」

都筑秀明管理環境課長「もし具体的な提案があれば提言いただければと思いますが、最終的には先ほど藤元が言ったようにOILについては防災指針検討ワーキンググループで全体一括して議論はいたします。
 そこに何らかのご提案があれば入れ込んでいくということになろうかと思います。だから議論してはいけないということではなくて、もしあればご提言いただければと思っております」

細井委員「OILはいろいろありますね。避難のOILとか。ヨウ素剤の投与に関するOILは、ここでは原則議論しないということですか」

都筑管理環境課長「議論しないということではないと考えています。結論が難しいのではないかと思っています。ただし、具体的な提言があれば、それは反映させていきたいと思います。
 先ほど座長からも話がありましたように防災指針検討ワーキンググループに対してここでの検討結果を反映させていくことが目的でございますので、全然議論してはいけないということではないです」

宮川清主査「ですので、ここで提言をまとめますので、今まで通り議論をまとめるという方向で。他によろしいでしょうか」

細井委員「もう1点。
(いいね、細井委員! がっつり言って!)
 先ほど立崎(英夫)先生の方からご指摘があったと思いますが、今まで1回だけの投与、あとは避難を優先ということでございましたし、確か原子力安全委員会からも今回の指示としては投与よりも避難を優先という指示が出ていた時期もあったと思います。
 それも含めまして連続投与をどうするのかということもやはり投与の指示に関していうと重要なポイントだと思いますので、これもまとめる必要があると思います」

宮川主査「その通りでございます。これにつきましては鈴木先生、もしご意見がありましたら」

鈴木先生「先ほどIAEAの50mSv――最初の7日のところで連用する時の条件としてIAEAが3つ挙げています。それはきっちり討論していくべきだろうと思います。
 それから、安定ヨウ素剤の予防服用の考え方をまとめた時に、原則1回にするけれども連用も可能な形では書かれています。決して2回目は投与してはいけないというようなことは書かれていません。もし避難が可能であれば避難を優先させるというような形でしたので誤解のないようにお願いします」

宮川主査「他にいかがでしょうか。今まで出ていない項目で議論のたたき台としてすべきこと、既に課題は抽出していただいておりますけれども、いかがでしょうか。
 それでは、ご検討ありがとうございました。いくつかの問題点が挙がりました。それも含めまして事務局の方で整理をお願いしたいと思います」

 そうして第28回被ばく医療分科会の安定ヨウ素剤に関する議論はここでいったん終わりました。

***

 そうしてスクリーニングレベルに関する議論が始まりました。ここでも細井委員の実際に現場に行ってのご発言は、机上の空論ではなく、混乱の最中に対する的確な指摘そのもの。

 スクリーニングレベルは内部被曝のスクリーニングか、外部被曝か、除染レベルか、測定器ごとの違いはどうか、安定ヨウ素剤の服用基準か、などなどの意見が出るなか、

細井委員「現場で半ば指揮していたという者からすると避難所で受け入れてくれる、あるいは転院先で受け入れるためのお墨付きを与えるというのが緊急時では主要な目的でした。それがなかったら一切受け入れてもらえませんでした。住民が避難してバスで行っても、降りることは罷りならんと言われたことがあるぐらい、これは当時としては極めて重要な問題でした。ちょっと考えにくいことかもしれないですが、これは避難を円滑にして、避難先に受け入れてもらう。あるいは病院の転院先に受けてもらう。それが現実でございました。以上です」

そして、それに付け加えて、

細井委員「現場でやっておりますと、服にいっぱい付いているとか、足にいっぱい付いているという事例がいっぱいありました。では靴はどうするのか、これは脱がせて、それは除くのか、あるいは服は体表面汚染にはもちろん入れないということでいいと思いますが、それも含めてもうちょっと具体的なマニュアルがあったのですかね。どこかにあるのですか。分からないですが、指針で、どうするかというのはあったほうが良かったのかなというのをちょっと反省しております。以上です」

 それからスクリーニングの目的、除染の目的についての話のとき。

細井委員「先ほどの除染、それから除染というか汚染されていないことを確認するために現地でどうなっていたかというと、避難先の方でちゃんとした書類がほしい、だから除染した証明書がほしいとか、汚染していないという証明書がほしいということを言われました。
 我々としては曖昧な証明書を作って実際には発行しておりました。曖昧というのは県の名前でも書けない。では、誰の名前で書くのだということになって、それはたしか何となく書いてなくて、ただ100,000cpm以下ですということの証明書みたいなもの、汚染検査証明書みたいなものを発行していました。
 そういう状態でもあったということも考えて、除染のレベルとしてのスクリーニングをどうするのか。その時には服はどうするのか。その辺も含めて、もう少し細かいやり方を決めた方がより現実的だと思います。以上です」

***

 こういう審議会、分科会で、実際に現場に立たれた方からの指摘が出ることは普段無く、他の会で傍聴していても「会議室の中の議論なんて、机上の空論でしょうよー」と思うことが多かったので、細井委員のご発言は本当に貴重なものだと思いました。そして、その先生を議論のメンバーに入れている、安全委員会のセレクトも素敵☆ 

 そして、分科会の一番最後に、またもや細井委員の手が。

細井委員「ちょっと戻ってしまって、ヨウ素に関係して、よろしいでしょうか。ヨウ素に関してですが、配布資料で配っていただきました諸外国のヨウ素(服用)の基準というのが、ページ数はすぐ言えないのですがございます。

(先ほど、私が貼り付けといた資料ですよ)

 それを見ますと、諸外国ではヨウ素の服用状況を見てみますと40歳未満に限っているということはないようでございます。
 疫学専門の方、久住(静代)先生も専門の方でいらっしゃると思いますが、チェルノブイリはまだ事故発生後25年ということですので、甲状腺の40歳、50歳、60歳の人に与える影響というのはまだ分かっていないところだと思います。
 そうしますと、一番は広島、長崎での事例でどうだったかということになると思います。それに関しまして最近、多少新しい疫学調査の結果の見直しもされています。一部では放射線によって40歳以上の方の被曝でも(甲状腺がんの発症率が)上がっているのではないかというような報告がなされていると思います。あるいはオートプシー(死亡時画像病理診断)した時、腫瘍を調べてみるとやはり上がっているということのデータも出ていると思います。
 基本的には40歳以上に投与するかどうかは副作用と、リスクとベネフィットの関係だとは思いますが、新しい情報も出てきましたのでもう1回検討してみることが必要ではないかと思います。これは提案でございます。以上でございます」

 わー!! 大人は安定ヨウ素剤いらないよ、という話でも無かったとのこと。

***

 安全委員会は助言機関なので、これからの防災指針への盛り込み、という形でしか議論を反映できません。今回の事故の失敗の反省はどこがするのかしら?

 過去の「脱ってみる?」にもたびたび、事故直後の内部被曝の評価、小児甲状腺サーベイの結果、NNSAの生データによるいわき・北茨城へのヨウ素濃度の高いプルームについて書いています。

 ここまでで調べた結果の簡単なまとめ。

(1)3月末に、いわき市、川俣町、飯舘村で行なわれた小児甲状腺のサーベイは、バックグラウンドがかなり高く、あまり正確な検査ではない。
(「脱ってみる?」第8回10回14回16回などなど)

(2)いわき、北茨城の方向へ、ヨウ素濃度の高いプルームが流れたため、小児甲状腺サーベイの順番をいわき市、川俣町、飯舘村の順番で行なった。いわき市の4歳児が等価線量の最高値35mSvであった。
(「脱ってみる?」第16回33回

(3)事故直後の内部被曝の評価(ヨウ素含め)は現在、どこも行なっていない。
(「脱ってみる?」第4回34回、しょっちゅう)

(4)安定ヨウ素剤の服用基準は予測で動くため「1歳児の小児甲状腺等価線量100mSv」という高いものだった(実際の線量は予測値以下の線量で投与指示が出るはずだった)。しかしSPEEDIが活用されず、予測がきちんとできなかったため、投与指示が出せなかった。
(諸外国の基準は50mSv、WHOは小児は10mSv!!)

 調べれば調べるほど、ショックなことが分かってきましたが、この内容を飯舘の仲良しに電話で話すと、予想外な答えが返ってきましたよ。

――いつも悪い報告ばかりでごめんよ! 今日、被ばく医療分科会に行ったらさ……(以下、怒濤のように話す)

飯舘の仲良し「マコさんは悪い知らせと言ったけど、俺は案外そう受け取らなかったね。今の段階で、こういう議論が国で行なわれているのに驚いたよ。ヒドイやつばっかり見てきたからね。やっぱりまだあきらめず、どこでどういう議論が行なわれているか、きちんと見なくちゃなぁ」

 そう言う彼でしたが、安定ヨウ素剤の小児への投与基準が甲状腺等価線量が日本は100mSv、諸外国は50mSv、そしてWHOが「10mSv」というのを伝えると、

飯舘の仲良し「……わ、言葉を無くした!」

 とはっきり大声で言いましたよ! 言葉無くしてないやんはっきり言うてるやん、とつっ込みながらも、これからのことを話し合う私たち、やはり、事故直後の対応が不適切だった、との議論が出た国の会議が1つでもあったことは、今回、本当に珍しく思います。

飯舘の仲良し「うん、まだあきらめちゃいけないね、マコさんはとりあえず、細野委員や橋本安全調査副管理官と仲良くなっておいてよ!」

というハニートラップの指示を受けつつ、電話を切りました。

***

 原発事故が実際に起こった際の防災指針が不十分であったこと、そして原発事故に対する法律が甘々であること(この関連の記事はまた書きます)などなど、原発安全神話というものは恐ろしいですね、事故が起こる、なんてそもそも想像させなかったんだろうな。

 しかし、実際に起こってしまったのですから、すっかり改めてください。
 事故前と、事故後と、学者さまがた総入れ替えするくらいでちょうどいいよ、ほんと。とりあえず、福島県の県民健康管理調査検討委員会と、細野大臣の低線量被ばくに関するワーキンググループは先生がたを再考したほうが本当にいいと思います。もともと原子力推進の先生がたばかりで、原発安全神話にのっとって活躍されていた先生がたばかりで、話し合うべき問題ではないと思います。もし話し合うにしても、反省してからにしなよ? 事故直後の内部被曝を評価してからにしなよ? 

 反省と、事故直後の内部被曝について、分かっていて目をそらしている先生がたの議論など、何の役に立つのでしょう!?

【今週の針金】
放射性ヨウ素は甲状腺に集まりますねん、前もって安定ヨウ素剤で甲状腺をいっぱいにしておけば、放射性ヨウ素は甲状腺に取り込まず排出されますねん!

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ヨウ素剤服用についての問題一つとっても、
事故が「起こる」ことそのものがそもそも想定されていなかった、
「原発安全神話」の根深さをまざまざと感じさせられます。
そこへの振り返りや反省が十分になされないままでは、
この後もさらに同じようなことが繰り返されてしまうのでは?


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おしどりプロフィール

マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。
ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。
マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。

ブログ:
 http://oshidori.laff.jp/
twitter:
 マコ:@makomelo
 ケン:@oshidori_ken
その他、news logでもコラムを連載中。

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