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2010-07-14up
アメリカで同性愛者であることを公表し、初めて政治家となったハーヴェイ・ミルク(1930~1978年)を描いた映画である。
冒頭、ミルクは1人、テープレコーダーを前に自分のこれまでの人生を振り返る。遺言だ。同性愛者への偏見に満ちた世界を変えるために立ち上がった彼は、自らの運命を予測していた。
とても印象的なシーンがある。ミルクがゲイであることをカミングアウトし、サンフランシスコ市議会スーパーバイザー(市政執行委員)の選挙に何度目かの挑戦をしているときだ。選挙事務所を兼ねているカストロ地区のカメラ店の電話が鳴った。
かけてきたのはミネソタ州に住む少年だった。いまから自殺を図るという。ミルクの行動に感銘を受け、両親に自分がゲイであることを告白した彼は、同性愛を「治療する」ため、両親に病院へ連れていかれるというのである。
「君は病気じゃない。早く家を出ろ」
ミルクは受話器を握りしめ、少年を説得するが、少年は「できない」と答える。彼は車椅子の生活をしていた。
選挙戦をどう戦うか。ミルクを支えるボランティアの運動員たちは、広く支持を得るため、「ゲイ」の存在を前面に押し出さず、マイノリティの権利を訴える手法をとるべきだと主張する。しかし、ミルクは争点をぼかすことに反対だった。自分たちが誰の自由を守ろうとしているのか。それを訴えない限り、有権者の心は動かないと確信していたからである。ミルクは運動員たちにも家族へのカミングアウトを求めた。
そしてミルクは当選を果たす。それと時を同じくして、ミネソタ州の少年から電話があった。彼はあのとき家を出て、いまはロサンゼルスでよきパートナーと巡り会ったという。あのとき決断できてよかったと少年はミルクに感謝する。
ミルクは巧みな交渉を通して、サンフランシスコ市議会でマイノリティ保護の法案を通し、政治家としての頭角を現していくのだが、彼の卓越した能力は他の議員からの逆恨みの的となり、銃弾の犠牲に――。
ニューヨークの金融マンからウェストコーストでのヒッピー生活を経て、政治家に――実在の人物を演じるショーン・ペンがとてもいい。脇を固めるミルクの仲間たちの描き方も丁寧だ。オーソドックスな演出が好ましい作品である。
(芳地隆之)
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