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2011-11-02up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.183

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成熟ニッポン、もう経済成長はいらない
それでも豊かになれる新しい生き方

(橘木俊詔 浜矩子/朝日新書)

 日本は経済規模では十分に大きくなった。いまさら新興国と張り合って経済成長を目指すのではなく、うまく齢を重ねて大人の国になろう――これが本書を貫くテーマである。橘木教授が個別の事象について問題提起を行い、浜教授がそれを受けて深掘りしつつ、両者がともに日本の将来像を描いていく。そんな構成になっている。 たとえばTPP(環太平洋経済連携協定)について橘木氏に問われた浜氏は、

 「反対です。とにかくグローバル時代なのですから、本来はWTO(世界貿易機関)主義で『自由』『無差別』『互恵』でいくのがいちばんいい。ところが一方で、地域限定の囲み込みをするというのは、明らかに本音と建前が著しく乖離した現象です」

 彼女の言葉はいつも明晰だ。TPPは、アメリカが地域を囲い込んで市場を確保し、ドル安に依存した輸出立国を目指すものであると喝破する。

 彼女の物事をとらえる表現は、並みの文学者を遥かに凌ぐ。政治とは国民が求めていることを提供する正真正銘のサービス業であるとし、それを実現する政治家についてこう語る。

 「優れたリーダーがいれば皆がついてくるということですが、優れたリーダーというのはけっして怒鳴ったりしません。国民に向かって怒るのではなく、国民の要望をくみ取って後ろからついていく、優れたフォロワーであるべきというのが私の意見です」

 浜教授は、欧州でユーロが導入された頃から、「犬(ユーロ加盟国)が尻尾(ユーロ)を振るのではなく、尻尾が犬を振っている」といった比喩を使って、欧州の金融政策の問題点を指摘していた。現在の欧州危機をみると、彼女の懸念が当たったことがわかる。EUという国家の連合体も、そこで使われている共通通貨も20世紀の産物であり、世界は今後、国の数より通貨の数の方が多くなるだろうという本書での浜教授の「予言」も的中するのではないか。

 2人のエコノミストが語るのは、具体的な経済政策よりも、世界に先駆けて少子高齢化社会へ入っていく、新しい時代を迎えた私たちの意識の在りようである。浜教授の言説ばかりを引用したが、日本はアメリカよりもヨーロッパ型を目指すべきだという信念をもつ橘木教授がその都度、浜教授の思考を刺激することによって、未来に開かれた対談が成り立った点も強調しておきたい。

(芳地隆之)

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