映画、テレビ、舞台と幅広く活躍してきた女優の木内みどりさん。
3・11以降は、脱原発についても積極的に活動しています。
脱原発への思いや憲法のこと、政治や社会参加についてなど、
日々の暮らしや活動のなかで感じていること、気になっていることを
「本音」で綴っていただきます。不定期連載でお届けします。
第28回
石井食品の本気
新幹線で京都まで。山陰線に乗り換えて園部まで行ってきました。「動くもの」がおもしろいから、バスの窓・電車の窓・飛行機の窓、乗るたびにいつも窓にへばりついている。幾つになっても、移り変わる様子を見ているのが好き。そう、ただ見ているだけです、ボォ〜っと。
新幹線、あれは早過ぎていけない。近くに建物のないエリアならともかく、近くにあるものの全てが恐ろしい速度で流れていくから、それはそれは危なっかしい。ボォ〜っとなんかしてはいられない。変に刺激もされてしまうから草臥れる。
今回は、特急に乗ったのですが、京都を出てからトンネルばかり続いてボォ〜っともできないし、「あぁぁぁ、なんてつまんない窓外〜〜」と思っていたら、ら、トンネル出てからすぐに広がった景色におもわず、声が出た。「うわぁぁぁ、なんて素敵!」
背筋を伸ばしてみたら、すぐにまた、トンネル。ゴォォォという電車の走行音が大袈裟に響くこと数分、また、パッと景色になった。右も左も緑濃い山で真ん中に川が流れている。濃い緑の山が右にも左にも、手前から奥に奥に繋がっていき、真ん中の低い低い位置には雨煙りではっきりしない輪郭の川が流れている…あたり一面鈍い灰色、霧に霞む山も鈍い色。人工物、なにも、なし。
きっと、100年前も200年前も300年前だって同じだったんだろうと思える、この景色。
来てよかった。山陰線の京都~園部間、たのしめるよ。
ボォ〜と見ている内に次第に変わった次の、景色。
畑の中にこちら向きの看板があり、「日本の宝、憲法9条」と書いてあった。音の出ない拍手を送りました。
*
さて、園部で降りた目的は「石井食品株式会社 」工場見学。
工場見学好きなのです。
ワイン、お箸、江戸小紋、ウィスキー、お茶、輪島塗り、堆肥作り、旧車の修理、いろんな工場を見学してきました。前にもこのコラムで、産業廃棄物を処理する「石坂産業」の工場見学のことを書きました。
あぁ、あの、「うちの工場にもおいで」って方がいらしたら、ぜひ、誘ってください、教えてください。行きますので。
石井食品は、国内に3つ工場を持っていますが、今回は「食物アレルギー配慮食品」を扱っているセクションを特別に見せてくださるということで、喜んで「京丹波工場」に来たのです。食物アレルギーをお持ちの方は多様で、なにに対しての食物アレルギーなのかは人それぞれ、千差万別。
わたしは食物アレルギーがないからなにも分かっちゃいないのですが、どんなアレルギーの人も食べられる食品を作る大変さを聞いて知っていたので、その「現場」を見たかったのです。一般に工場見学できるのは「見学コース」だけなのですが、今回は中の中まで入れていただけました。
まず、建物に入ってすぐの玄関。
靴を脱いでスリッパに履き替えるその前に、白い不織布でできた「サニーキャップ」を被らなければいけません。食品工場においては、「毛髪」は危険物なのです。ゆっくり時間をかけて髪の毛全部を不織布の中に押し込めます。
会議室で概要レクチャーを受けて、そして、着替え。不織布キャップをとって違う種類のキャップで髪を被います。耳の部分に特殊な施しがあって襟首全体を被うキャップを着け、白衣を来て、マスク、長靴。
石川慎之工場長さん、長島雅社長さん(右)と
工場ゾーンに入る前に、まずは、毛髪・ホコリ除去のためのローラー掛け。頭部全体、肩から体の前面・背面、脇の下、両足、両膝後ろまで、丁寧に2分間のタイマーをかけて終了するまでクルクルクルクル、ローラー掛け。
そして、手洗い。これが細かい。
手を濡らし、手洗い石鹸噴出ノズルの下に手を置くとピューっと噴射され、これで丁寧に丁寧に手を洗う。2分経つと温水が出ます、2分後に止まるまで、よくよくすすぎます。温風乾燥器に手を入れ、2分手を動かして乾燥。アルコール消毒の器械で両手を消毒。
そして、エアシャワー(半畳くらいの透明ブース)に入ります。ここの床部分はネチャネチャ状態で、長靴の底のホコリやチリなどを取ってくれます。強烈エアシャワーが終了して初めて、工場内へのドアが開きます。
ここから「石井のミートボール」ができるまでの全行程を見せていただきました。おもしろかった~~(が、長くなるのでここは割愛)。
さてさて「食物アレルギー配慮食品」の別ゾーンへ。
ここまででも、その徹底した衛生管理ぶりに驚いていたのですが、ここから先はまた、別世界。
なんと、また、着替えます。
それまで着ていたものの下着以外は脱いで、用意されてるユニフォームを着ます。これはここの社員さんも同じです。ここで着るユニフォームはこのゾーンだけのもの。洗濯もこのゾーンに設置されてる洗濯室で洗濯・乾燥させるそうで、このゾーンから外に持ち出すことはない。水も排水も空気も、ここだけ独立した体制となっていて、空気圧、水、排水、電気、全てがデジタル数字で管理されています。
ミートボールができるまでの流れ作業を見学したからこそ分かる、その工程の全部を一人でこなすセル生産の設備が、ここにはありました。ミニチュアのよう、精密なおもちゃのよう。
工場長さんが打ち明けてくれました。まだまだ生産性が良くなく、検査費用も高くて採算は合ってなく苦労をしています。でもね、アレルギーのお子さんを持つお母さんたちの苦労を思うと…って。
あぁ、まるで手術室と気がつきました。
音のない空気も動かないような管理された空間で黙々と働く人々。石井食品の「本気」に胸が熱くなりました。
帰ってから石井食品のホームページを見ていたら、オンラインショップがあることがわかり、注文しようとして驚きました。
なにって、値段にです。安いのです。
ミートボール10個入り冷蔵(冷凍ではなく冷蔵)で¥109。だって、国産鶏肉(見学した日は宮崎県産鶏肉だった)に、国産玉ねぎ、国産パン粉、生姜だって大抵は「生姜エキス」を使うのですがここでは、生の生姜をすりおろしている……。材料の出どころが全て表示されていて添加物なし。あの衛生管理下で生産してその値段?! と。
だって、一つひとつの商品に「品質保証番号」が付いていて、石井食品ホームページ上の「OPEN ISHII」というページで買った商品の「品質保証番号」を入れて検索すれば、内容物の全ての履歴がわかるのです。工場内でそれを徹底させることの手間を見てきたので、その値打ちがわかります。だから、安いことに驚きました。
石井食品のホームページを見てみてください。
http://shop.directishii.net
「非常食セット」もよくできています。
http://shop.directishii.net/cate.php?ctg=12001
アレルギーを抱えてるお知り合いがいらしたら「食物アレルギー配慮食品」を教えてあげてください。
帰りに気がつきました。
あの車窓から見た景色は、保津川下りで有名な渓谷なのでした。桜の季節・紅葉の季節、春休み・夏休み、トロッコ電車に乗って行く保津川下りが人気のようです。人混みが苦手なので、2月の厳寒の中、行ってみようかしらと調べたら、ちゃんと「お座敷暖房船」がありました。
寒い寒い毎日です。
風邪などひかれませんように。
前回の産業廃棄物処理のこともそうでしたが、日常生活の中で、どこで・どんな材料で・どのように作られているのか、どんな作業が行われているのか、意外と知らないものばかりです。そうした背景を知るひとつのきっかけとして、工場見学に出かけてみるのも面白そうですね。
今年のお正月に義母が用意してくれたおせちがこちらでした。食物性マルチアレルギー(卵、乳、ごま、そば、くるみ、アーモンド)を持つ息子がおりますが、皆で一緒に舌鼓を打つことができ、とてもありがたく、たいへん嬉しく思いました。
木内さんレポートありがとうございます。
石井食品さんが出展してくださいます。
「アレルギーっ子のはっぴいらいふフェスタ」です。
(3月6日(日)、7日(月)JR大宮駅東口 ギャラリーで開催)
主催:子どものアレルギーから食と環境を考えるNPOみれっと 20周年事業実行委員会
http://www.npo-millet.org/
このフェスタでは石井食品さん以外にも、ホワイトソルガム(小麦、米にアレルギーがある方が利用できる穀物)を扱っている中野産業さんも出展してくださいます。