マガ9備忘録

小欄その23)で「最近、河出書房新社の本が面白い」と書いたが、先日書店向けに送られた同社が主催する選書フェアのチラシを見て驚いた。曰く、「今、この国を考える ―『嫌』でもなく『呆』でもなく―」。

kawadefair

チラシにはこうある。2月11日付朝日新聞の「売れるから『嫌中憎韓』」という記事を小さくあしらい、「こんな記事が話題になったこと、ご存知でしょうか?」。さらに「ヘイトスピーチの常態化」「『愛国』の氾濫」「国内にはびこる諸問題…」「想像力不足の現代日本。こんなときだからこそ『嫌』『呆』ではない視点が必要ではないでしょうか?」と続いている。

フェアは今月下旬から。対象書籍は小熊英二編著『平成史【増補新版】』、野間易通『「在日特権」の虚構』、北原みのり/朴順梨『奥さまは愛国』、雨宮処凛『14歳からわかる生活保護』、斎藤貴男『ちゃんとわかる消費税』、小林美希『ルポ 産ませない社会』の6冊(すべて河出書房新社)。

さらにこのフェアに賛同した、いとうせいこう、内田樹、岡田利規、斎藤美奈子、白井聡、想田和弘、中島京子、平野啓一郎、星野智幸、宮沢章夫、森達也、安田浩一といった方々に、「今読むべき本」を寄稿してもらったフリーペーパーを配るという。こちらは河出以外の、いろいろな出版社の本が集まるようだ。

出版界だけでなく、近隣諸国をあげつらうばかりで自国の問題点をスルーする大新聞もある。この国で生きることの心配や不安を、「嫌」や「呆」は一瞬忘れさせるかもしれないが、根本的な解決にはならない。むしろその意識はヘイト感情に昂進しかねないものだ。

だからこそ、いまある問題点を正面から見据えていかなくてならない。先の6点のほか、錚々たる面々による紹介は、そのための一助になることだろう。

先述の記事には「売れるから『嫌中憎韓』」とあったが、ならばそうでない本を売ってやろうという河出書房新社販売担当のなみなみならぬ意気込みが感じられる。

Facebookでは「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会(仮)」が立ち上がるなど、出版界内部からも新しい動きが始まっているようだ。

出版不況といわれて久しいが、売れるからと言って近隣諸国への憎悪をいたずらに煽る本ばかりでは、出版界自体の品性が問われる。そうした傾向に対してのアンチテーゼとして、高く評価したい。(中津十三)

 

  

※コメントは承認制です。
その34)出版界のヘイト傾向に抗する
河出書房新社の選書フェア
」 に2件のコメント

  1. ピースメーカー より:

    日本政府を「嫌」い、その様な国家体制に同調的、あるいは黙認している日本国民に「呆」れる態度を示しているような人では、「近隣諸国への憎悪をいたずらに煽る本」に対するアンチテーゼを提示できないと思います。
    むしろ、「ベクトルが違うだけで根底は同じ」人間同士、憎悪に憎悪で迎え撃ち、憎悪の連鎖の主役や演出者となるでしょう。
    私は小熊英二氏、野間易通氏、北原みのり氏、朴順梨氏、雨宮処凛氏、斎藤貴男氏、小林美希氏についてはあまりよく存じ上げておりませんが、彼らがベクトルの向きが中国(人)や韓国(人)や北朝鮮(人)ではなく日本や日本国民になった人々ではなければ、河出書房新社の選書フェアは成功するだろうと私は思います。

  2. hiroshi より:

    小熊英二編著『平成史【増補新版】』、野間易通『「在日特権」の虚構』、北原みのり/朴順梨『奥さまは愛国』、雨宮処凛『14歳からわかる生活保護』、斎藤貴男『ちゃんとわかる消費税』、小林美希『ルポ 産ませない社会』の中のどの部分に、憎悪に憎悪で迎え撃つ表現(言説)があるのでしょうか?
    あまりよく存じ上げずに批評するのは、フェアでないと思います。
    http://www.magazine9.jp/article/other/11455/

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : マガ9備忘録

Featuring Top 10/166 of マガ9備忘録

マガ9のコンテンツ

カテゴリー