マガ9備忘録

東京の下町、浅草から隅田川沿いに整備されている隅田公園を歩く。川からの心地よい風に吹かれながら、10分ほども歩くと台東区リバーサイドスポーツセンターだ。さらに足を進めたところに、東京都人権プラザがある。ここで現在、企画展「いま読みたい じんけんマンガ50」が開催されている。

この展覧会は、2008年から始まった「読む人権 じんけんのほん」シリーズの第5弾。これまで、視覚障害者の「読む権利」を実現する取り組みや、人権を考えるきっかけとなる絵本などを紹介してきた。

「じんけんマンガ」に選ばれた50作品を厳密にジャンル分けすることは難しいだろうが、「当事者としてのエッセイマンガ」「社会問題がテーマ」「さまざまな障害、あるいは障害がある人々がテーマ」「啓発を目的とした作品」などのパネルとともに、それぞれにマンガ作品の単行本が掲げられ、自由に読むことができる。

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本稿ではこのうち数作品を、順不同で紹介したい。

『学校に行かなくなった日』(琴葉とこ)。小学4年から中学3年まで不登校だった著者。自分の心理や家族や友人との関係、そして再び学校へ行くまでの軌跡を当事者として活写している。

『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ)。生活保護の前線に立つ新人ケースワーカーを描き、かつてマガ9で雨宮処凛さんが紹介したこともあるが、これも言わば「当事者」を描いた作品だ。

『ゴールデンカムイ』(野田サトシ)。日露戦争帰りの兵士とアイヌの少女がタッグを組んで参入する、アイヌの埋蔵金塊争奪戦。作中のアイヌの信仰や文化の描写には、畏敬すら感じられる。

『聲の形』(大今良時)。聴覚障害者に対するいじめを扱っていることで、最初の掲載時には編集部内で議論百出だったと聞くが、その後連載は全7巻にまとめられ、編集者が選ぶコミックナタリー大賞2014第1位にも選ばれた。

『ニューヨーク・ニューヨーク』(羅川真里茂)。主人公はゲイであることを隠している警察官。偏見に対する苦しみやジレンマなど、現実に生活しているゲイが直面するさまざまな問題を多岐にわたって扱っている。

さらに、人権をテーマとしなくても、それに関わる要素を含んだ作品も紹介されている。人権とは「人間らしく生きる権利」なのだから、そう考えると領域は相当広い。『あしたのジョー』(高森朝雄原作/ちばてつや画)、『ベルサイユのばら』(池田理代子)などの古典といわれる作品も50冊の中に入っている。

会場の周辺は、江戸時代に被差別民とされた人々を束ねる弾左衛門の役所があったという歴史がある。都が同和行政の一環としてこの地に設けた東京都産業労働会館を改修したのが、人権プラザだ。

企画展以外にも常設で、部落、アイヌ、外国人、障害者などさまざまな人権問題の展示がある。こちらもじっくり見たが、ともに「人としての尊厳をもって生きること/生きられないこと」を改めて考えさせられた。(中津十三)

企画展「いま読みたい じんけんマンガ50」は、7月26日まで(7月4日は閉館)の午前9時~午後5時、東京都台東区橋場の「東京都人権プラザ」で。入場無料。アクセスはこちら

 

  

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