鈴木邦男の愛国問答

 「民主主義は、いつも遅れて反撃する」と書かれていた。なるほど。そうか。でも、果たしてそうなのだろうか。2014年はダメだったけど、でも2015年は「反撃」してくるだろう。うん、きっとそうなるよ。と言っているようだ。でも、「いつも」って何だろう。歴史的にそんなことが証明されているのか。それに、反撃する「民主主義」がまだあるのだろうか。そんなことを、いろいろ考えた。
 
 12月21日(日)、品川インターシティホールに行った。岩上安身さんのIWJのシンポジウムが行われていた。巨大な会場で多くの人が参加していた。「饗宴ⅴ SYMPOSION」だ。そこに、こう書かれていた。
〈ぎりぎりからのターンオーバー 〜民主主義は、いつも遅れて反撃する〜〉
 会場も大きいし、人も多いし、時間も長い。午前11時半から午後6時だ。それも、延びて7時までやっていた。8時間だ。これだけ長いシンポジウムは、ちょっとない。1部から5部まであって、パネラーは16人だ。シンポジウムが終わった後は「第2部パーティ」だ。ここでスピーチする人も決まっていて、小出裕章さん、植村秀樹さん、山田正彦さん…などの写真がパンフレットに載っている。
 
 実は僕もパーティに呼ばれて行ったのだ。「忘年会をやるけど、来ませんか」と岩上さんに言われたのだ。どこかの居酒屋で10人ほどで飲むのかと思っていったら、ものすごい人だった。それに、忘年会の前にシンポジウムをやるなんて知らなかった。「5時50分にシンポジウムが終わり。6時からパーティ」と書かれていたが、終わらない。「今、テーマ4が終わり、これからテーマ5です。よかったら聞きますか」と言われたので、聞いた。パーティに参加する小出さん、山田さんも一緒だった。
 でも、おかげで孫崎享さんの話も聞けた。テーマ5は、〈パレスチナ、ウクライナ、イスラム国〜世界における「文明の衝突」の虚実〉だ。パネラーは、板垣雄三さん、上村静さん、孫崎享さん。司会は岩上さん。3人が話し、そのあとディスカッション。とても勉強になった。ノートをとりながら聞いた。ここで孫崎さん、岩上さんは、一冊の本の話をする。孫崎さんと僕の対談『いま語らねばならない戦前史の真相』(現代書館)だ。結構、話題になっているようだ。
 それに、1週間前の12月14日(日)に、紀伊國屋ホールで出版記念トークをやったばかりだ。孫崎さんと僕が対談し、岩上さんが司会をしてくれた。450人も入る会場だ。果たして人が来てくれるのかと心配だったが、満員だった。この時のテーマは、「ニッポンの分かれ道」だった。ちょうど衆院選の投票日だった。自民の圧勝は予想できていたし、ますます安倍政権の暴走が続く。民主主義はどうなるのだ、と不安の中の「分かれ道」だった。そんな不安と怒りを抱えて参加した人が多かったようだ。本の中でも、そうした問題を取り上げて話し合っている。

 対談は盛り上がったし、スリリングだった。さらに、その後のサイン会には驚いた。長蛇の列が出来て、いくらサインをしても終わらない。会場は450人入る。現代書館では100冊を用意した。まあ、そんなには売れないと思ったが、余分に用意したのだ。ところが100冊はアッと言う間に売れた。あわてて紀伊國屋に並べている本をかき集めてきた。だから150冊以上サインした。「読んだけど、もう1冊買う」という人もいた。たぶん、戦前と今の時代的雰囲気が似ていると思ったのだろう。安倍政権は、次は憲法改正だと言っている。「普通の国」を目指し、強固な国防軍を作るという。又、集団的自衛権を認め、アメリカと共に戦争することになる。「日本を取り戻す」「戦後レジームからの脱却」「もはや戦後ではない」と言う。本当だ。「戦後」ではない「戦前」だ。アメリカと一緒になって、戦争をやろうとしている。だから孫崎さんと僕の対談本を読んで、「戦前史の真相」を考えようとしているのだろう。

 12月21日のIWJのシンポジウムの後でも、この本は売れていた。孫崎さんと並んでサインをした。現代書館も、こんなに人が来るとは思わなかったのだろう。50冊、持ってきた。ところが、アッという間に売り切れた。「本はもうないのか」と聞いている人もいた。書店じゃないから、持ってくるわけにもいかない。しかし、驚いた。2日間で200冊以上が売れたのだ。こんなことは初めてだ。長年、外交官をやってきた孫崎さんの分析、解説に説得力があり、読ませたのだ。僕は一人の生徒として、先生に聞くように「素人の質問」をしただけだ。それが良かったのかもしれない。岩上さんの仕切りも良かった。IWJの「饗宴」のパンフは紀伊國屋ホールの対談が終わってから、急遽作られている。紀伊國屋ホールの時のテーマは、現代書館が考えたもので、「ニッポンの分かれ道」だった。1週間後、それに答えるように岩上さんが考えたテーマは、「ぎりぎりのターンオーバー 〜民主主義はいつも遅れて反撃する〜」だ。うまい。負けても負けても、コーナーに追い詰められても、ギリギリで反撃する。プロレスのようだ。
  
 そうだ、パーティの時は指名され、僕はそんな話をした。岩上さんとは実は古く30年ほど前からの知り合いだ。二人ともプロレス好きで、プロレスのことをよく書いていた。岩上さんは突出していたし、もう後輩を指導していた。その後、IWJを立ち上げた。時には正規軍として、時にはゲリラとして闘っている。また、皆はあきらめているのかもしれないが、必ず反撃はある。俺がやってやる。という気概があるのだ。IWJでは、いろんな人を呼んで話を聞き、討論してもらう。「それで、勝負がつかなかったら、リングの上で闘ってもらいましょう」と僕は言った。岩上さんは体がいいし、きっと鍛えているはずだ。「俺と闘え!」と安倍政権に挑戦したらいい。「別に鍛えてませんよ。ただのデブですよ」と謙遜していたが、本当は強いはずだ。プロレスラーの友人も多いし、必殺技だって習っているはずだ。

 「プロレスは出来なくても、いろんなことをやってみましょう。よろしくお願いしますよ」と言っていた。民主主義の反撃を信じて、頑張りましょう。ではいいお年を。元気で「反撃の年・2015年を迎えましょう」。

 

  

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第166回 2015年は、反撃の年になるのか!?」 に1件のコメント

  1. 多賀恭一 より:

    ドローン兵器が世界の主流に踊り出てきている。
    国力=人口の時代が完全に終焉しようとしているのだ。
    人口を重視する国家体制の終焉と言うことだ。
    次の第三次世界大戦では、民主主義の終焉となる可能性が高い。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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