鈴木邦男の愛国問答

 急にアカデミズムの世界に飛び込んだような気がした。3月18日(水)は韓国に行って、ソウル大学で講演した。4月11日(土)は、「日本生物地理学会」会長と対談した。1000人も入った。さらに、4月17日(金)は新潟市で、「日本平和学会」会長と対談した。ソウル大学や日本の学会で僕なんかを呼んでいいのかな、と思った。

 「日本生物地理学会」では、毎年立教大学のタッカーホールを借りてやってるが、今年だけは「大丈夫ですか?」と心配して聞きに来たそうだ。「右翼の街宣車が抗議に来たらどうしますか」「その時は中止にして下さい」と言われたようだ。それにしても、僕は左翼からは余り攻撃されない。いつも右翼ばかりだ。「大きな敵」よりも「身内の敵」「裏切り者」の方が憎いのだろう。ホーム、アウェイの区別から言ったら、最近はアウェイばかりだ。いや、もう僕にはホームなんてない。どこからも嫌われている。ソウル大学のことは前回書いたので、今回は、2つの「学会」の話だ。
 実は、勉強不足で僕はこの2つの学会のことを知らなかった。でも、ちゃんとした学会だ。「と学会」とは違う。しかし、右翼を学会の例会に呼んだり、会長が対談したりしていいのだろうか。それとも、生物学や平和学の「研究の対象」になるのだろうか。「種としての右翼」の成立と群生、生態とか。あるいは、左翼という天敵がいなくなり、生態系が崩れ、変態種(ネトウヨ)が大量発生し出したのかもしれない、ということを研究するのだろうか。

 まず、立教大学の方だ。4月11日(土)、12日(日)の2日間、日本生物地理学会は開かれた。12日(日)は専門的な研究発表やシンポジウムがある。「ショウジョウバエのオス殺しの謎に迫る」…なんていう報告もある。ともかく、チョウチョやハエなどの生態を研究している。「昆虫を操作する寄生者たち—分子メカニズムから生態系に与える影響まで—」というシンポジウムもある。まさか、「寄生虫」の一種として右翼を呼んだわけじゃないだろう。そうだ、対談のテーマだ。その前に「歴史」だ。この日本生物地理学会は、1928年(昭和3年)に設立された。そして10年前からは、「一般社会」との接点・窓口を広げるために、市民シンポジウム「次世代にどのような社会を贈るのか」を開催してきた。去年は原発だ。「人類は原発をどうするのか?」だ。原発事故が起こったら人間も住めなくなる。種としての人類が絶滅するかもしれない。だから、生物地理学会としても真剣に研究する必要のあるテーマだ。
 
 ところが、今年のテーマは「右の異端者、左の異端者」だった。えっ、こんなのが生物地理学会の研究テーマになるのだろうか。僕が「右の異端者」らしいが、「左の異端者」は誰なんだろう。打ち合わせの時、聞いたら「それは私です」と言う。日本生物地理学会会長の森中定治さんが言うのだ。会長自らが「異端」か。でも、この学会での異端ではない。学会では主流だし、代表している。そうではなく、「自分は子供の頃から左派的だと思ってきた」と言う。左派だから憲法擁護、反米、脱原発…だと思ってきた。左派は正しいんだから、これを信じていけばいい。そう思った。
 ところが、ある時からその確信が揺らいできた。右からの「脱原発デモ」があったし、左派の集会の中に右派の人がいて脱原発だという。ヘイトスピーチデモにも反対している。「へぇー、こんな右派がいたのか」と驚いた。その「変な右派」の講演会にも行ってみた。そして、面白いと思った。そんな「異端」に心引かれるのは、自分もどこか「異端」なのではないか。と思った。そして、今日のシンポジウムになったのだ。大きな団体のトップ同士が話し合っても、何も生まれない。それよりは「異端」と話し合った方が、自由になれる。よく分からないけど、左右の「異端同士」で話し合った。我々二人が話をし、あとは会場の質問を受けたり、ゲストからのコメントをもらったり…。面白い企画だった。今度はマガ9学校で、この森中会長を呼んで皆で話してみたらいい。きっと地理学と生物学と9条がミックスしたシンポジウムになるだろう。

 では、もう一つの学会の方だ。日本平和学会だ。これも知らなかった。平和を願う市民団体かと思ったら違う。「ちゃんとした学会で、大学の先生が1000人以上、入ってるんです」という。申し訳ありませんでした。会長は佐々木寛さん。新潟国際情報大学の教授でもある。4月17日(金)、午後6時半から、新潟市の「クロスパルにいがた 映像ホール」で行われた。この日本平和学会について僕も興味があったので、どんどん質問した。たしかに1000人もの学者がいて、平和を研究してるという。でも、研究するだけではダメだ。平和を実現しなくては。そうなると政治家の力が必要だ。その接点はあるんですか? と聞いたら、ないという。ウーン、困ったね。いろんな政党のシンクタンクになってるのかと思ったら、それはないという。じゃ、この学問をどう生かすのか大変だ。紛争をとめるために東京外大の伊勢崎賢治さんは紛争地に出かけて行っている。そうした活動をやるべきではないのか。あるいは「軍事研究」をやってる人もいるだろう。いわば〈戦争学〉だ。そんな人たちと「戦争と平和」シンポジウムをやってもいい。マガ9学校でやってもらってもいい。本も紹介してもらったので、これから勉強しようと思う。
 終わって、客席を見たら、何と、愚安亭遊佐さんがいた。「新潟日報」にこの対談のことが出てたので、それを見て来たという。ありがたいです。打ち上げに誘って、一緒に飲みました。愚安亭さんを知ってる人もいて、「ぜひ、日本平和学会でも演って下さい」と言っていた。いいね、お芝居をして、そのあとシンポジウムなんて。
 
 次の日、帰ろうかと思ったら、新発田の斉藤徹夫さんが市議選に立つので、その集会をやるという。それで、翌18日(土)は、いろんな集会に出た。そして19日(日)、告示になったので、選挙カーに乗って、連呼と応援演説をした。学会には出るし、選挙の応援にはかり出されるし。最近は何をやってるのか自分でも分からない。どんどん「異端」の種になってしまう。

 

  

※コメントは承認制です。
第174回「右の異端者」として学会で講演した」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    「ホームがない。あちこちから嫌われている」という鈴木さんですが、どこにも所属しない意見だからこそ、あちこちで必要とされているのではないでしょうか。それにしても、日本生物地理学会で扱うテーマの幅広さに驚きました。地理や生物や平和、いろいろな目線から「次世代」を考えるマガ9学校も面白そうですね。

  2. 多賀恭一 より:

    何をやっているか解らない時は、基本に帰ることだ。
    さて、鈴木邦夫の基本=原点は何だろうか?
    何に対する怒りが、始まりだったのだろうか?

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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