鈴木邦男の愛国問答

 7月10日(金)、大阪に行ってきた。『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)の収録だ。元は『たかじんのそこまで言って委員会』だったが、たかじんさんが亡くなって、名前が取れた。久しぶりだ。政治評論家の三宅久之先生も亡くなったし、淋しい。宮崎哲弥さん、勝谷誠彦さんもこの日はいなかった。ただ、桂ざこばさん、田嶋陽子さんがいたので、ホッとした。司会は辛坊治郎さんと渡辺真理さん。
 僕は4年ぶりぐらいだ。東京の『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)と同様に、大阪の『そこまで言って委員会NP』もすぐに激しい討論になる。「バカ野郎、帰れ!」と怒鳴る人もいる。僕なんか気が弱いから、そうした激論にはなかなか入っていけない。それに怒鳴り散らし、他人を罵倒してまで喋ることもないや、と思っているので、あまりお呼びもない。また「おとなしくなった右翼」じゃ、出す意味もないと思っているのかもしれない。
 でも去年は『朝生』に一回出たし、『そこまで言って委員会NP』は4年ぶりだ。「今回は特に鈴木さんに出てもらいたいんですよ」とプロデューサーは言う。今、『そこまで言って委員会NP』は「シリーズ戦後70年企画」をやっている。今週は〈あの時、日本は熱かった! 戦後社会運動史 徹底検証スペシャル〉をやるという。それは面白いと思った。これは出てみたい。それに、一般のパネラーではなくゲストだという。元日本共産党№4の筆坂秀世さんと僕の二人がゲストだ。「左右の運動を闘ってきた二人に大いに語ってほしい」と言う。筆坂さんとなら建設的な話も出来るし、と思い承知した。
 7月10日の収録は、午後3時から2時間(放送は7月19日(日))だった。「あの時、日本は熱かった! 戦後社会運動史 徹底検証スペシャル」は、4つのコーナーに分かれていた。4つのコーナーは以下だ。

 •第1章:「学生運動とは何だったのか?」
 •第2章:「労働運動が“格差”を生んだ!?」
 •第3章:「市民運動とプロ市民」
 •第4章:「女性解放運動で男女平等は実現したのか?」

 なかなか挑戦的なテーマだ。また、映像資料を見ているだけでも勉強になった。ゲストやパネラーはあらかじめ「アンケート」に答えを出すことになっている。こうした日本の「学生運動」「労働運動」「市民運動」「女性解放運動」に共感できるか? というものだ。パネラーはほとんどが4つとも「共感できない」だ。「途中までは共感できる」という人もいた。あっ、田嶋さんだけは皆「共感できる」だった。だから他のメンバーから「馬鹿なことを言うな!」「だからダメなんだ!」と罵声を浴びせられていた。僕は4つとも「共感できる」。行き過ぎやまずい所はあったとしても、社会に対し異議申し立てをすることは、偉い。何も行動しないくせに口だけで言う人間はダメだ、と思っているからだ。立場は違っても筆坂さんも、4つとも「共感できる」だったようだ。もっとも「反日共系」の「新左翼」には共感できないという。あれは「新左翼」ではないし、「トロツキスト」は「ただの暴力分子」と共産党時代には、否定していたからだろう。
 この日、驚いたのは「行動すること」に対して否定的な人が多かったことだ。一人ひとりが立ち上がるデモや集会をやったりすると、必ず過激になり、犯罪をおかす、という人までいる。官邸前に集まったデモを“テロリスト”と呼んだ自民党の議員がいたが、それと通じる。国民の声は選挙を通して伝えればいい。そこで選ばれた議員が決めることが「民主主義」だという考え方だ。それこそ思い上がった考えだ。「国家のことは俺たち国会議員が決めるんだ。それ以外の者がデモや集会で議論するのはテロと同じだ」と自民党は言う。とんでもない話だ。

 『そこまで言って委員会NP』でも、学生運動、労働運動を一切認めず、「投票できめればいい」という人が多かった。また、集団的自衛権は「世界の平和」のためにやるのであって、反対する人はおかしいと言う。僕が「アメリカの傭兵」になってしまうと言うと、「そんなの妄想だ!」とピシャリと叩きつぶされた。政治討論番組が、どこもこんな形になっているようだ。右派、保守派が主流であり、リベラルな人は声が低い。これは国会でも同じだ。強硬なことを言う議員ばかりが目立つ。
 7月15日(水)、衆院特別委員会で安保法案が強行採決された。テレビでその瞬間を見ていたら、野党議員はプラカードや紙を持ち掲げている。明らかにカメラに向かって見せている。これじゃ、国会内もデモ現場だなと思った。こんなプラカードを国会に持ってきていいのか。厳密に言ったら違反なのだろうか。
「通ったんだし、野党のパフォーマンスくらいやらしてやろう」という安倍総理の考えだろう。そんな馬鹿なことをやったって国民は野党を支持しない。国民の多くが自民党を支持しているという傲慢な自信なのだろうか。暗澹たる気持ちになった。安保関連法案は、7月16日(木)、衆院を通過。これから闘いの場は参議院になった。国会前では法案反対のデモが連日続いている。
 60年安保反対では、30万人以上のデモが集まった。国会に突入した人間もいた。『そこまで言って委員会NP』でその映像を見て衝撃を受けたので、なおのこと今の政治状況を考えこんでしまった。

 

  

※コメントは承認制です。
第180回安保闘争のデモ映像を見て今のデモを考えた。」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    久しぶりにTV番組に出演されたという鈴木さん。労働運動や女性解放運動に「共感できない」と回答された人たちは、自分に不利な法案が通ったとしても、本当に納得できるのでしょうか。社会的弱者の声がなかなか拾われない社会。弱者の視点をもたない人には理解できないのかもしれません。県知事選を経て、沖縄・辺野古の新基地建設がどうなったのかをみれば、いまの選挙では声が届かないこと、抗議運動は市民にできる、限られた手段なのだと感じます。

  2. Shunichi Ueno より:

    SNS上でも代議制民主主義こそが民主主義で、デモなどは社会の迷惑・・・といった書き込みをよく見ます。権力の暴走を批判する人々の活動も又、民主主義を守る機能という基本的な理解が欠けていると思っていましたが、テレビで、そこまで言っていいんかいワレ!と言いたくなります。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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