鈴木邦男の愛国問答

 8月26日(金)、テレビ朝日の「朝まで生テレビ!」を見た。普段は、録画しておいて後でゆっくり見るのだが、この日は深夜ずっと起きていて、見た。「象徴天皇制」をテーマにした討論会だった。天皇陛下が「生前退位」のご意向をテレビを通して発表された。それを受けて「象徴天皇」はどうあるべきかを討論したものだ。かつてのような天皇制打倒論者、否定論者はいない。皆、認めている。そのうえで、どうやったら安定できるのか、生前退位をどう思うのか、といった討論が中心だった。朝日新聞の世論調査でも、84%もの人が「天皇陛下のお気持ちにこたえるべきだ」と言っている。つまり、生前退位を認める。いま、法律的にできないのなら、その皇室典範を改正すべきだ、という意見が多いのだ。国民の圧倒的多数が、そう思っている。政府もそれはやらざるを得ないだろう。

 この朝生が始まる時に、司会の田原総一朗さんが、こんなことを言っていた。「天皇制の問題はずっとタブーだった。テレビで討論するなんてできなかった。初めてやったのは28年前の朝生だった」と言う。正確には1990年(平成2年)の11月23日だ。「象徴天皇制と日本」だった。確か、僕も出ている。民族派からは、野村秋介さん、大原康男さんも出ていた。「この時は大変だったんです。天皇制をテーマにして朝生をやるなんてダメだと上から言われた」。だから、テーマを変えてやった。ただ、深夜に5時間もいろんな方向に飛ぶ。だから「天皇制の問題にも触れるかもしれません」と田原さんは上の人たちを説得した。「それもダメだ」と上の人は言う。しかし、5時間討論の司会をするのは田原さんだ。結果的には「約束を破って」天皇問題を中心に議論した。そういえば、当時は始まる前から、かなり緊張していたと思う。ピリピリとした雰囲気を感じた。

 この頃の朝生はタブーに挑戦し、無謀ともいえる闘いをやっていた。この「象徴天皇制と日本」を放映した同じ年、90年の2月23日には「徹底討論‟日本の右翼“」をやっていた。これは凄かった。”左右激突”だった。この一カ月前の事件を受けて、急きょ、実現した企画だ。1月18日、本島等・長崎市長が右翼団体員に襲撃されて、ピストルを撃たれ重傷を負った。「天皇に戦争責任はあると思う」という本島発言に怒っての襲撃だった。「言論への挑戦だ」「右翼テロを許すな」とマスコミは連日大キャンペーンだった。「じゃ、なぜ右翼テロは起きるのか。右翼を呼んで、話を聞こう。それで討論しよう」と朝生が考えたのだ。こんなことを考えるのは朝生しかない。それにいまなら、右翼に反対する人も、こわがって出ないだろう。でも、この時はいたんだ。右翼テロを堂々と批判できる、命知らずの評論家、左翼がいたのだ。小田実、大島渚、野坂昭如らだ。右翼側は7人。浅沼美智雄、岸本力男、箱崎一像、松本効三、四宮正貴、木村三浩、そして僕だ。

 僕は「朝生」には初めて出た。視聴率もそれまでで最高だった。右翼がテレビに出て、生で喋るというので、見たいと思った人が多かった。民族派の7人もかなり緊張していた。1週間前に民族派だけで集まり、「考えの違う点もあるだろうが、内ゲバはやめよう。敵は左翼なんだから、そこへの闘いに集中しよう」と先輩から言われ、我々も納得した。又、全体の打ち合わせはない。事前に集まると喧嘩になると思ったのか、右翼側と左翼側は控室もかなり遠い所だった。本番直前になって、スタジオで会議し、「さあ、闘え!」という感じだった。

 右翼側はかなり年輩の人もいるし、若い「新右翼」もいる。考えはかなり違う。年輩の人は「女に参政権はいらない」などと言うし、「右翼テロ」も肯定する。いくら何でもそれはひどいと思ったが、「仲間うちの批判はしない」という約束があるので、じっと我慢した。

 これは昨日のことのように覚えている。だから、90年は「日本の右翼」に出た年だという印象が強い。でも、同じ年の11月にやった「象徴天皇制と日本」の方が、局にとっては大きかったのだ。政治的にも、こっちのほうがテーマは大きいし、本当のタイトルも出せないので、局の上層部をだまして強行した企画だった。凄い番組だった。僕にとっては、そんな歴史的な番組に出られたのだ。光栄だった。いわば、歴史の現場、変わり目に立ち会ったという感じだった。

 実をいうと、もう一つある。翌年、91年の4月23日に行われた朝生だ。憲法をテーマにやった。西部邁、小林節らが出て、僕も出た。それまでは、僕は「右翼側の一人」として出ていた。「日本の右翼」にしろ、「象徴天皇制」にしろ、そうだった。「右翼の中では、ちょっと変わったことを言う」と思われたかもしれないが、あくまでも「右翼の一員」だ。本番中に左翼に攻撃されても、他の右翼の人が守ってくれる。不確かなことを言っても、他の人たちがカバーしてくれるという甘えがあった。ところが、「憲法」の時は、右翼は僕一人だ。これには、まいった。不確かなことを言っても、カバーしてくれる仲間はいない。左翼と闘っている時に、援護してくれる人はいない。たった一人で闘わなくてはダメだ。やれるのか。いっそ断ろうかと悩んだ。そして結論を出した。自分で考えて、納得したことだけを喋ろう、と。「右翼だから」「右翼としてこう教えられたから」ということは言わない。自分で考え、悩み、納得したことだけを喋る。そう決意した。

 9条だって、右翼なら文句なしに「許せない」と言う。でも、個人で考えると「戦争をなくす」という理想は悪くはない。そのために何ができるか考えよう。そう思うと、左翼の理屈もある程度はわかる。そんな話をした。その時だった。右翼の先輩の野村秋介さんがギャラリー席から発言した。「皆、きれいごとばかり言って、聞いていられない」と。激怒して言っている。「皆」と言ってるが、実は、僕に対して激怒していたのだ。この日、野村さんは川崎のすし屋でテレビを見ていた。朝生が始まった。でも、後輩の鈴木はどうもおかしなことを言う。まるで左翼じゃないか。それで、タクシーを飛ばして、朝生のスタジオに来た。当時、朝生は5時間だったから間に合う。それに野村さんはパネラーとして何回も出ている。だから、ギャラリー席にも入れたのだ。あれは凄い番外戦だったと思う。だから、「日本の右翼」と「憲法」の印象が余りに強く、「象徴天皇制」の回は、どうしても印象が薄いのだ。ただ、何度も言うように、日本の政治・社会にとっては、この「象徴天皇制」の方が大きなテーマだったと思う。

 8月26日の朝生は、高森明勅、小林よしのり、小林節…という人たちが頑張っていた。特に小林よしのりさんの発言は激しく、そして納得した。天皇陛下はあらゆる自由がない。「国民」ではないのだろう。小林さんの怒りは、『週刊ポスト』(8月19・26日合併号)「ゴーマニズム宣言スペシャル」でも爆発している。
 天皇陛下のご意向に対して、圧倒的に多くの国民は、ご意向の通りにしてさしあげたいと思っている。そころが、一部の自称保守派は反対している。異を唱え、妨害している。「天皇はこうすべきだ」「ああすべきだ」と言い、文句をつける。「女性天皇ではダメだ」「男の子をうめ」と言う。表現の自由も、転居の自由もない。基本的人権もない天皇に、さらに文句を言っている。自称保守派は自分たちが天皇を守っていると思い上がっている。〈「国民主権」の名のもとに、完全に天皇を奴隷化している!〉とまで小林さんは言う。表現はキツイが、その通りだろう。そこまで言い切る。小林さんは蛮勇がある。だから、朝生でも一番、発言が光っていた。

 朝生の少し前に田原総一朗さんと対談した。天皇のご意向がなぜこの時期に出されたのか。そのことを言っていた。安倍政権は参院選で圧勝し、改憲派は国会で3分の2をとり、いつでも「憲法改正の発議」ができる状況になった。それを止めるものはない。党内はもちろん、野党もこわくない。マスコミも、国民世論もこわくない。それは意のままになる。こわいのはただ一人、天皇ではないか。そう言っていた。天皇は昭和天皇からも戦争のことを聞いている。だから、どんなことがあっても戦争だけはしてはいけないと思っている。いま、「生前退位」のご意向を示された。その為には皇室典範を改正するしかない。それには1年か2年はかかる。この間、憲法改正はできない、と言う。護憲派、リベラルは、いま日本では全く力がない。唯一、天皇だけが憲法を護る強い存在になっている。今回のご意向は、護憲派にとっての〈神風〉かもしれない。それにしても、国民の側からもっともっと議論がなされなくてはならない。

 

  

※コメントは承認制です。
第205回朝生と「象徴天皇制」のこと」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    自分たちが納得できる国のあり方を自分たちでつくっていくためには、これまでタブー視されてきたテーマにも向き合っていかなくてはいけないのでしょう。そのときに大事なのは、鈴木さんが決意されたように、自分でしっかりと考えたことだけを持ち寄り、きちんと対話や議論を深めること。TVや国会の場でなく、私たち自身が、もっと話し合うことが必要だと感じます。

  2. toshi_tomie より:

    面白いですね。

  3. 多賀恭一 より:

    民主主義は衆愚政治に堕落するものなのだろう。
    堕落しない政治体制は存在しないのだろう。
    つまり、宇宙に永遠は無い。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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