「鈴木邦男さんにはご遠慮願いたい」と言われた。またか、と思った。言葉は丁寧だが、内容は残酷だ。対談や座談会が決まって、公表され、その後に言われる。今回もそうだ。「はい、分かりました」と言うしかない。反論したり抗議したりすると、「ほら見ろ、右翼だから難癖をつけてくる。嫌がらせだ」と言われる。いや、言われるのではないか…と思って、何も出来ない。
こんなことは今まで何十回とあった。百回以上あったかもしれない。これだけで一冊の本が書けるだろう。右派系のシンポジウム、左派系のシンポジウム、両方からある。どっちからも僕は嫌われているようだ。発表した後で、「なんでこんな奴を入れるんだ」と（仲間うちから）批判され、慌てて「鈴木さんにはご遠慮願いたい」となり、降ろされるわけだ。そうだ、こんなこともあった。法律や法案に反対して「賛同人」になってくれ、と言われることは多い。承諾して送る。ところが、「申し訳ないが鈴木さんにはご遠慮願いたい」と言ってくる。右でも左でも、いろんな人が賛同人になった方がいいだろう。そう思うが、どうも違うようだ。「鈴木なんかが入ると、運動が汚れる。誤解される」。そう思うようだ。賛同人を降ろされるなんて僕くらいだろう。それだけイメージが悪いし、嫌われている。自分の責任だ。
大学のサークルから呼ばれても、実現したケースよりは中止になった方が多い。仲間や、あるいは学内の左翼、右翼。あるいは教授から言われる。「何で、こんなのを呼ぶんだ」と。きれいな大学のイメージが汚されると思うのか。
ある時、辛口評論家で有名な呉智英さんと僕が早大で呼ばれた。２人で大隈講堂で対談してくれと言う。快諾した。ところが、学内の左翼に脅された。「右翼はテロリストだ。そんな人間を早大に入れたら許さない」「その時はお前たちを襲撃する」と。どちらがテロリストか分からない。主催のサークルに僕は言った。「僕は降ります。呉さんだけでやって下さい」と。ところが呉さんが激怒した。
「なぜ俺は攻撃されないのか！」と。「鈴木は危険思想だし、学生に悪影響を与えるからと拒否した。じゃ、俺は安全なのか！」と。「安全・無害」と思われて俺は攻撃されない。おかしい。「俺の方が鈴木よりも危険なんだ。鈴木は、せいぜい反自民・反米国だ。ところが俺は、今の日本の全てを否定している。天皇制も民主主義も否定している。政権を徳川さんに返せ。封建主義の時代に戻せ、と言っているのだ。そんな危険な俺は放っておいて、なぜ鈴木だけを攻撃するんだ」と。凄い人だと思った。でも呉さんの講演会は実現した。
中には、断乎として守ってくれた人もいた。新左翼過激派の戦旗派代表だった荒岱介さんはシンポジウムに僕を呼んでくれた。ところが、皆、反対した。大学で左翼運動をやり、右翼学生とは日々闘い、恨みがある。それなのに何故、右翼を呼ぶんだ。そんなことをしたら、ここを辞める。そう言って荒氏につめ寄った。荒さんは、何と、「じゃ、辞めていいよ」と言って、僕を呼んでくれた。実際、辞めた人が何人かいた。「仲間」を捨てて、「敵」である僕をとった。ありがたいし、申し訳ない。
辛淑玉さんも覚悟のある人だ。昔、２人で対談する企画があった。札幌だ。ところが、主催者から「鈴木さんにはご遠慮願いたい」と言ってきた。「分かりました」と僕は言った。辛さんだけの方が人が集まる。僕が主催者でも、そうする。しかし、辛さんは激怒した。「鈴木さんを降ろすのなら私も行かない！」と言った。「僕が降りれば済む話ですから」と、辛さんに言ったが、絶対、聞かない。主催者は根負けして２人を呼んでくれた。それ以来、辛さんには感謝・感謝で、頭が上がらない。
「のりこえねっとの共同代表になって」と電話があった時も、「よく分からないけど辛さんの言うことは何でも賛成です」と、即答した。後で聞いたが、在特会などのヘイトスピーチに反対する集まりだった。だから、今年の９月２５日、その「のりこえねっと」設立記者会見に僕も行った。打ち合わせの時、「鈴木さんは内容も聞かずに賛同してくれたのよ」と辛さんが言ってた。「それは言わないで下さい。何も考えないで賛同した人がいると思われたくないので」と他の人たちに言われていた。会見直前だからよかった。何日か前なら、又、「ご遠慮願いたい」と言われただろう。
今、「のりこえねっとＴＶ」は週１回、ニコ生の中で放送している。１２月４日、辛さんに呼ばれて、そこに出た。「辛さんには本当にお世話になってます。札幌での講演会の時は、涙が出ました」と言った。こんな右翼なんてご遠慮願って当然なのに。「だったら私も行かない」と言ってくれた。こんな人は他にいません、と言った。「そんなことあったかしら」と辛さんは言う。気を使ってくれてるのだ。
「それより、私は“鈴木語録”をスクラップしてるのよ」と言う。驚いた。新聞や週刊誌で喋ったことを切り抜いてるという。ヘイトスピーチする人たちは、自分たちが気にくわない人たちに「お前は朝鮮人だろう！」と言って批判する。批判された人間は「いや朝鮮人じゃない。れっきとした日本人だ！」と言って反論する。弁解する。「でも私たち在日は、そんな反論の仕方にカチンとくるのよ」と言う。直接に「朝鮮人が！」と言われるよりも、「いや朝鮮人でない！」と弁解する日本人に違和感を持ち、反撥すると言う。
「その点、鈴木さんは凄いよね。“朝鮮人”と批判された時に、“僕のルーツを教えてくれてありがとう”と言ってたのよね。これは、なかなか言えないよ」。
あ、そんなこともあったな、と思い出した。「朝鮮人」と批判された時、「いや違う！」と必死に弁解するのも何か嫌だった。それに昔から中国、朝鮮、又、南からも多くの人たちがこの日本にやってきて、そして日本人が出来た。僕のルーツだって分からない。そのことを言ったんだ。辛さんのようなキチンとした問題意識があって言ったわけじゃない。でも、多くのことを学んだ。「弁解」の言葉一つにしても、かえって人を傷つけることがある。「民族派」だなんて自称しながら、民族、民族意識についてもロクに勉強してこなかったと反省した。このことについては又、ゆっくりと辛さんに教えてもらいたいと思った。
憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン
※コメントは承認制です。
「第140回 僕を守ってくれた人たち」 に12件のコメント
※記事を引用する場合は出典の明記「マガジン９：http://www.magazine9.jp/」をお願いします
すずき くにお：１９４３年福島県に生まれる。１９６７年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。１９７２年に「一水会」を結成。１９９９年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』（講談社現代新書）、『公安警察の手口』（ちくま新書）、『言論の覚悟』（創出版）、『失敗の愛国心』（理論社）など多数。近著に『右翼は言論の敵か』（ちくま新書）がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ！」
早い時期から、ヘイトスピーチ抗議集会などにもたびたび足を運ばれていた鈴木さんなので、「のりこえねっと」の共同代表にお名前を見つけたときも、「やっぱり」という感じだったのですが、背景には辛淑玉さんとのそんな逸話もあったんですね。それにしても、辛さんの「私も行かない」も鈴木さんの「ありがとう」も、どっちもかっこいい！
右翼は嫌われて、いや恐がられてなんぼじゃないんですかね。協調すべきことは協調しても、譲れない一線、たとえば天皇とかに関しては、きちんと一線を画さないと。そも曲げてまで好かれるのも考えものだと思いますけどね。
私は護憲派で反戦反核反原発の社会民主主義者・・・つまり左寄りの人間だが、
今回の鈴木さんの記事ほど悲しかったものはない。鈴木さんの愛読者としてこんな気持ちは初めてだ。
もう2013年も終わるというのに・・・この期に及んで、まだ、鈴木さんに「右翼の原罪」を負わそうとするのか。
どんな人たちがそんな失礼な「お願い」をしたのか知らないが、
弱い者、虐げられた者の視点から長きに渡って命がけの運動をされてきた鈴木さんのことを
本当に理解したうえでの「お願い」だったのか。
そんな「お願い」をすることと、悪法を強行採決した政治家共との違いが、正直、私には見えない。
こんな優しい目をした右翼も珍しいけど、右でも左でも、大切なのは前を向いていることですよね。私は「天皇制は人を幸せにはしない」「国家の歴史的使命はすでに終わっている」と考える方ですが、鈴木さんとなら一緒にお酒飲みたいなあ。
鈴木氏はもう右翼ではないです。昔はどうあれ、今や立派なサヨクです。
だからこそ右翼から嫌われるのでしょう。
とはいえ同じ思想のサヨクからも嫌われているのはさすがに可哀想だとは思います。
まあ、サヨクは内ゲバがお家芸なので仕方がないですね。
「朝鮮人」と言われていることですが、世界中で日本人が韓国、朝鮮人からヘイトスピーチどころかヘイトクライムをも受けているにも関わらず、それは無視し、韓国、朝鮮人に対するヘイトスピーチのみを問題としていれば「あんた日本人じゃないだろう」と言われても当然ではないのですか？
「朝鮮人！」という人はルーツの事を言っているのではありません。そんな事を言ってもきりがないですから。
ただ単に人種として違うだけです。それを一緒に考える方がおかしいでしょう。
鈴木邦男さん、応援しています！
柔軟なものの考え方と他を受け止める包容力がこんなに大きい人は他にはないと思います。
記事を楽しみにしています。
はじめまして、こんにちは。
質問なのですが、
①鈴木氏が、ヘイトスピーチや原発に反対しているから、左翼なのでしょうか？
私には、何が右翼で、何が左翼かよく判りません。
鈴木氏は、人種差別は、恥ずかしい。故郷が、放射能で汚されるのは嫌だ。との思いで、反対しているのではないかと、私には思えるのですが。
②世界中で、韓国人から、ヘイトスピーチを受けている。とのことですが、どういったものを指して、ヘイトスピーチと言っているのでしょうか？慰安婦問題で、デモをしている方などを指しているのでしょうか？どういったものが、ヘイトスピーチに当たるとお考えですか？
因みに、在特会に関しては、裁判で、人種差別と認定されたようですが（控訴中）
http://blogos.com/article/72360/
私も、鈴木氏のように、真摯に、柔軟に、ものを考えていけたら、と思います。
hiroshiさんへ
①左翼ではありませんサヨクです。私は左翼とサヨクはを別物だと思っています。
まず、日本には本当の意味での左翼はいません。右翼であれ左翼であれ方法は異なれど自国を愛し、優先することに関しては等しいのですが、サヨクは他国の立場に立ち、理由もなく自国を否定するのです。
このようなサヨクが蔓延しているのは世界中で日本ぐらいでしょう。
また、区別と差別をいっしょにしないでください。日本において日本人と外国人とでは得られる権利は異なるのです。なのに日本人並みの権利を特権として要求し、暴力的に特権を得てきた歴史があるからこそ非難されているのです。
放射能に関しては冷静な科学的な議論を行わず、過剰に「放射能怖い」と言っている人々のせいで何が正しいのか分からず、検査を行い、放射能が見つからない福島県産の商品ですら排斥されてしまっているのが現状です。
そんな人々と同じ発言を行っている鈴木氏がサヨクでないのなら何と呼べばいいのでしょうか？
hiroshiさんへの続きのコメントとなります。
②アメリカでは韓国系団体による日本人学校への脅迫行為、日系人に対するいじめ等、いろいろ発生しています。大問題であるにも関わらず、TVメディア等はまったく報道しないこと自体があからさまにおかしいです。
在特会に関して彼らがそのような行動を行った原因について全く触れられていません。
在日特権というものは明らかに存在し、在日が過去暴力にて自治体へ強制していた事実もあるのです。
(長田事件で検索してみてください)
なお、hiroshiさんが引用されたURLですが、執筆者の神原弁護士自体が在特会を非難する人なので中立的とはとても言えない一方的な内容ですね。同記事のコメントを見れば反対意見ばかりなのが真実を表しているのではないですか。
ちなみに地裁レベルではトンデモ判決が出ることは多々あります。判決が確定するまでは「認定された」というべきではないでしょう。
質問への返答、有難うございます。
よく判りました。
鈴木氏はサヨクで、他国の立場に立ち、理由もなく自国を否定していると言う事ですね。その理由が、TVメディア等はまったく報道しない、アメリカでの韓国系団体による日本人学校への脅迫行為などに反対せずに、日本での在特会の行為に反対しているから。と、脱原発デモ？運動？が、風評被害を招いていて、その運動に賛同しているから。と言う事ですね。すなわち、在特会の主張に反対している人はサヨクで、他国の立場に立ち、理由もなく自国を否定している人と言う事ですね。そのような人が蔓延しているのは世界中で日本ぐらいと言う事ですね。
又、在日特権が存在している理由として、長田事件がある。と言う事ですね。
裁判については、引き続き注視していきたいと思います。
他国の立場に立って、物を考えるのは大事な視点だと思いますが、如何でしょうか？
大変勉強になりました。有難うございました。
長くなってしまったコメントですが読んで頂き、ありがとうございます。
しかし、若干の誤解があるようですので補足をさせて頂きます。
在特会に関しては彼らの行動の理由を考えてほしいという事です。彼らの行動については少々まずい点があることは認めますし、言っていることが100%正しいかはわかりません。ただし、彼らの主張もなにも考慮せず、頭から否定するのは間違いではないのではないかと思っているだけなのです。
風評被害に関しては脱原発を唱える人たちが科学的なデータ等を全く無視し、感情的に「放射能怖い」「放射能危ない」と唱え続けることで放射能等が検出されていなくても福島産の物すべて危険という風潮を助長しているのではないかという危惧があるのです。
なお、他国の立場に立って物を考えること自体が悪いとは思いませんが、利害が対立する問題について一方的に他国の立場に立つ事が正しいとは思えませんし、他国の言いがかりを鵜呑みにして、日本を非難するのは明らかに間違いです。
上記、くろとりさんのコメント返信できないので、こちらから返信したいと思います。
なるほどですね。
問題を分けて考えたほうが、良さそうですね。
在特会に関しては、果たして在日特権が、あるのか？ないのか？と言う問題。長田事件（1949年から始まったドッジ・ラインにより、デフレーションが進行し失業や倒産が相次いだ。在日朝鮮人も例外でなく、失業者が激増した。こうした状況の下で、朝鮮人は「朝鮮人生活擁護闘争」を展開、地方税の減免や生活保護の適用を求めるために、各地の役所に押しかけるようになった。ウィキペディアより）だけでは、現在、生活保護が優先的に受けられるとは言えず、在日特権があるとは言い難いと思いましたが、誰であれ、暴力ではなく言論で主張すべきだと思いました。で、その言論の表現の問題、在特会のデモなどでの表現は、人種差別（ヘイトスピーチ）に当たるのか？と言う問題。ヘイトスピーチの定義、法規制すべきかどうか？他国での対応の比較、等。 そして、日本でのヘイトスピーチに反対なら、他国でのヘイトスピーチにも反対すべきかどうか？と言う問題。この３点かなと思います。
同じように、原発問題でも、（人体に）放射能の影響があるのか？ないのか？ーこれは、長期のデータが必要なので難しいし、科学者によって言っている事が違うー結局今の所、自己判断（責任）というのが現状じゃないかと思います。影響が判ってからでは遅いし、因果関係も証明しにくいとなれば、敬遠する人の気持ちも解るし強制は出来ないでしょう。（個人的にこの辺りは、遺伝子組み換え食物とか食品添加物の問題と似ている気がするのですが。）で、脱原発運動が、風評被害を助長しているのかどうか？助長しているのであれば規制すべきか？そもそも、風評被害対策は、別に考えるべきか？等。そして、日本での原発に反対なら、他国での原発にも反対すべきかどうか？と言う問題。
同じように、慰安婦問題や領土問題も、、、、、、、
こうやって考えていくと、それぞれ簡単には結論が出ない問題ばかりだと感じました。
色々と物を考える上で参考になりました。ありがとうございました。