映画作家・想田和弘の観察する日々

『選挙』『精神』などの「観察映画シリーズ」で知られる映画作家、
想田和弘さんによるコラム連載です。
ニューヨーク在住の想田さんが日々「観察」する、
社会のこと、日本のこと、そして映画や芸術のこと…。
月1回の連載でお届けします。

第51回

「不介入主義」どころか最も好戦的な大統領になりつつあるトランプ

 「アメリカ第一主義のトランプは国際紛争に対して不介入主義だから支持できる」と主張していた人々がいる。とくにアメリカのこれまでの軍事侵略に批判的なリベラル派に、そういう人が目立った。

 しかしトランプは「アメリカ第一」といいつつ、ISISに対して核を使うことも排除しないとも発言した人間である。そもそも彼は一貫した政策を持っておらず、言うことも猫の目のようにコロコロ変わる。病的なまでの嘘つきだし。そんな人間の「不介入主義」を信頼できるはずがないではないか。

 と思っていたら、トランプは突然、シリアを攻撃した。

 「個別的自衛権」にも「集団的自衛権」にも当てはまらない、国際法違反の攻撃だ。米国議会の承認も経ていないので、憲法違反の疑いも濃い。トランプの発言によれば、彼は化学兵器で苦しむ子どもの映像を見て、「シリアに対する考え方を変えた」という。また、長女・イヴァンカの進言もあって、攻撃を決意したらしい。

 僕も化学兵器で苦しむ人々の映像には衝撃を受けた。国際社会は彼らのためにもっと何かすべきではないかとも思った。感情的には、トランプのミサイル攻撃にはある種のカタルシスを禁じえなかった。

 しかし、である。

 人類は2つの世界大戦で多大な犠牲を払ったすえに、国連の承認や、個別的・集団的自衛権によらぬ戦争行為を禁じるルールを作った。これまでのアメリカは、ベトナム戦争でも、アフガニスタン戦争でも、イラク戦争でも、曲がりなりにもその理屈を使っていた。もちろんその理屈には無理が多いのだが、それでも一応、アメリカもルールの存在を気にかけてはいたのである。

 ところがトランプは、そういうルールなどまるで存在しないかのように、平然とミサイル攻撃の命令を出した。それを「自衛権」という理屈で正当化しようとすることすらしなかった。そしてあろうことか、英国やフランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、イスラエル、サウジアラビア、トルコなどが攻撃を支持してしまった。周知の通り、日本の首相も「高く評価」してしまった。リベラル派含め、アメリカでも約半分の主権者がトランプの攻撃を支持してしまった。「ようやく大統領らしくなった」という声すら聞こえてくる。

 そういう状況を眺めながら、僕は重大な危機感を覚えざるをえない。もはや世界は国際法を捨て去り、戦争にルールを求めぬ時代に逆戻りしようとしているのであろうか?

 そして今度は、北朝鮮への強硬姿勢。

 日本の右派の中には、米国による北朝鮮先制攻撃を望む意見も見られるが、そうなったら韓国だけでなく、日本にもミサイルが降ってくる可能性が生じる。下手をすると核を撃ち込まれることになるわけだが、そんなリスクをなぜ「愛国者」を自称する彼らが受け入れられるのか、僕には理解できない。

 ちなみに、北朝鮮を攻撃するのは米国なのに、その報復のためのミサイルが韓国や日本に向けられる理由は、米国本土まで到達するミサイルがまだ開発されておらず、韓国や日本には米軍基地があるからである。ミサイルがジャイアンに届かないのなら、近くにいるのび太やスネ夫を撃てというわけだ。

 逆に言うと、トランプが気軽に先制攻撃などという言葉を口にできるのは、米国本土に攻撃が及ぶ可能性がないからなのである。

 先日トランプは米テレビ局のインタビューに答え、シリア攻撃を命じた様子について赤裸々に語った。いわく、彼は習近平と極上のチョコレートケーキを食べながら、「イラク攻撃」の指示を出したのだという(「シリア攻撃」の間違い。彼は攻撃した国の名前すら言い間違えた!)。

 僕はインタビュー映像を見ながら、背筋が凍るような思いがした。攻撃命令を下した状況を恍惚として描写するトランプのインタビューからは、「デザートを食べながらミサイル発射できるんだぜ、俺は。なぜなら俺はアメリカの大統領だから」というメッセージが言外に溢れ出ていたからである。

 就任以来、トランプは早くも内政で行き詰っている。目玉として出したムスリム入国禁止令は裁判所からブロックされるし、オバマが作った健康保険制度の廃止には失敗した。大統領選における、ロシアとトランプ陣営の癒着疑惑にも、捜査のメスが入ろうとしている。

 それに引き換え、戦争を始めるのはなんと容易いことか。彼が核のボタンを押そうと思えば、いつでも押せる。議会にもそれを止めることはできない。しかも「敵」を軍事攻撃すると、普段は敵対している民主党議員やリベラル派までが、なぜか「大統領らしい」などと評価してくれる。

 4月2日、僕は次のようなツイートをした。

 「トランプの支持率が早くも38%に低下。歴史的低支持率だそう。それはいいんだけど、怖いのは追い詰められたトランプが戦争を起こすなどして団結を呼びかけ、支持率回復を狙うこと。あの男ならマジでやりかねないと思う 」

 僕の恐れていたことが、いま、進行中なのだと感じる。

 のみならず、トランプは就任以来初めて、「権力」の本当の味を楽しんでいるのではないか。その禁断の味に酔っ払い、ある種の全能感に支配されているのではないか。トランプは「不介入主義」どころか、最も好戦的な大統領になっていくのではないか。

 そんなトランプに、日本の首相は服従し付いて行こうというのだから、心穏やかではいられない。日本に核ミサイルが降ってくるかもしれないというのに、日本の首相は先制攻撃を諫めることすらできない。逆に米軍の訓練に自衛隊を参加させ、両国の「一体ぶり」をアピールする始末だ。だが、安倍晋三は理解しているのだろうか? 米国と一体だからこそ、彼の愛する「美しい国」が攻撃対象になっているのだということを。

 今月23日にはフランスの大統領選挙がある。現時点では混戦模様で、極右のルペン候補が勝利する可能性も十分にある。

 世界は今、非常に危うい状態にある。

 

  

※コメントは承認制です。
第51回 「不介入主義」どころか最も好戦的な大統領になりつつあるトランプ」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    世界中のさまざまな場面で、まがりなりにも守られていたはずのルールが破壊され、タガが外れつつある。そんなふうに感じます。せめて自分たちの暮らす国を、方向転換させるためにはどうしたらいいのか。あきらめて、黙り込んでしまうわけにはいきません。

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想田和弘

想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。
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