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2012-06-27up

雨宮処凛がゆく! 

第234回

紫陽花革命!! の巻

首相官邸前を埋め尽くす人々

 私は今、とてつもなく歴史的な瞬間を目の当たりにしている。というか、そのただ中にいる。

 この週末は、そんな感動に何度も震えた。

 まずは6月22日、首相官邸前。

 大飯原発再稼働が勝手に決定されてから、初めての金曜日。3月から官邸前では毎週金曜夜、再稼働に反対する抗議行動が行なわれ、私も参加していたのだが、再稼働決定の前日、15日にはとうとう参加者が一万人を超えるという事態になっていた。

 そうして迎えた22日。日が暮れた頃に官邸前に行くと、地下鉄の階段を上ろうとした時点で既に騒然とした雰囲気が伝わってきた。トラメガのハウリングの音、警察が鳴らす笛の音、そして地鳴りのように鳴り響く、「再稼働反対!」という叫び声。

 地上に出て、目を疑った。

とにかく人の列がずーっと続いている

 もう、見渡す限り一面、人、人、人。「大飯原発再稼働反対」「STOP!」「野田はNO!」「再稼働やめろ!」などのプラカードを掲げた人たちが、首相官邸前の歩道を埋め尽くしている。最後尾を探そうと思って列を辿っても、どこまでもどこまでも果てしなく続いていて、どの辺りが最後なのかもわからない。その誰もが、目の前に聳える首相官邸に向かって声の限りに「再稼働反対!」と叫んでいる。仕事帰りのスーツ姿の男性がいれば、女子高生もいる。赤ちゃんを抱いた若いお母さんもいれば、家族連れの姿も目立つ。お年寄り、子ども、学生、若者グループ、コスプレをした人、持参した太鼓を打ち鳴らす人。そんな人々の脇を、「東電、国は大損害つぐなえ!」という看板を載せた車が応援のクラクションを鳴らしながら何度も通りすぎていく。そのたびに歩道から沸き上がる拍手。

応援してくれる車

 「もう3万人超えたらしいよ」「4万人いったって!」。知り合いに会うたびに、興奮気味に伝えてくれる。そうしてこの日、私は初めて「紫陽花革命」という言葉を知った。この状況を指しての言葉だ。チュニジアでジャスミン革命が起きた頃、この国はまだ震災前で、原発は爆発していなかった。多くの人が原発の「安全神話」に浸かり、おそらく、その1年半後に自分が官邸前で抗議行動をするなんて、誰も想像もしていなかっただろう。

 結局、この日の官邸前には、4万5000人が集まった。ツイッターやfacebookなどを見て、個人で参加した人々だ。福島第一原発の事故の原因も究明されず、いまだに避難生活を強いられている人が大勢いる中での「大飯原発の再稼働」という勝手な「決定」に、いても立ってもいられなくなった人たちがこうして4万人以上、官邸前に駆けつけたのだ。

 首相官邸前に響き渡る4万人の声が、空気をビリビリ振動させた。あんな光景を、私は初めて見た。そして何かがこの日、「始まった」のを、はっきりと感じた。次の官邸前行動は、6月29日。一週間で1万人が4倍以上になったのだ。次は一体どんなことになるのだろう。

 その2日後の24日には、「そうだ、船橋行こう。電車でGO! 野田退治デモ!!! 再稼働はダメなノダ!」デモに参加。おなじみ「脱原発杉並」や「脱原発中野も」などが呼びかけたデモだ。なぜ船橋? それは、野田首相の地元だから! 有象無象が総武線をオキュパイし、船橋に乗り込んだのである。

船橋デモで見かけた素敵なプラカード

 この日のデモに集まったのは2200人以上。西船橋から船橋まで4キロのコースをデモったのだが、おそらく初めて「サウンドデモ」に遭遇した船橋の人たちの反応が素晴らしかった! 「野田首相の再稼働に反対して地元の船橋で脱原発を訴えに来た」と言えば拍手が起こり、沿道からは多くの人が手を振ってくれる。そして続々と飛び入り参加してくる人たち。地元でも、今回の再稼働には相当の疑問が渦巻いていることを肌で感じたのだった。

 その翌日の25日、野田首相は衆院消費増税関連特別委員会で、社民党・阿部知子氏の質問に答えて、「毎週金曜日、官邸周辺ではデモが行なわれ、シュプレヒコールもよく聞こえている」と発言。更には地元・船橋でデモが行なわれたことも知っていた。いろいろやってきたことが、本人の耳には一応、届いているのだ。これは更にパワーアップしていって、もっと追いつめるしかないではないか。

「野田はNOだ!」

 もうずーっと前から、ことあるごとに「デモなんてやって意味あんの?」と言われてきた。3・11後はさすがに少なくなったものの、今だってないわけではない。だけど、あるじゃん、意味。思いきり。野田首相のその発言自体がニュースになっているわけだし、官邸前に4万5000人が集まったことは報道ステーションをはじめとして、様々なメディアに取り上げられている。なんだか、潮目が変わってきているのだ。それはきっと、メディアに携わる中にも、今回の再稼働決定があまりにもあまりだと思っている人が少なくないという証拠ではないだろうか。

 とにかく、私はできるだけのことをしたい。何もせずに、あとで後悔したくない。大飯原発3号機は、早ければ7月1日に原子炉が起動されるという。

 その7月1日、とうとうあの「原発やめろデモ!!!!!」が帰ってくる! その名も「原発やめろ野田やめろデモ!!!!!」。しかも今回は野田に退陣要求! 場所は新宿。詳しくはこちらで随時発表されていくので各自チェックするように。

デモの終盤、ドラム、トランペット隊が盛り上げる! 

 ということで、私たちは今、この国の大きな分岐点にいる。どんな未来に辿り着くかは、まさに今、この瞬間の行動にかかっているのだと思う。

 一人一人のほんの少しの勇気で、未来が変えられるかもしれない手応えのようなもの。それを今、私は初めて手にしている。

「脱原発杉並」の方と

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「潮目が変わった」。
官邸前を数万人が埋め尽くしたあの日、
そんな声をあちこちで耳にしました。
次の世代に、どんな未来を渡したいのか。
何を残し、何を残したくないのか。
その鍵を握っているのは、
まさに私たち一人ひとりなのです。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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