こちら編集部

 10月26日、TPP特別委員会の地方公聴会が行われる札幌市内のホテル前には、学生、農家、会社員、医療関係者など、TPPに反対するさまざまな個人や団体の人たちが抗議の意思を示そうと、平日の日中にもかかわらず100人以上も集まっていました。なかには仕事を休んで駆けつけたという人も。20代の若い人たちの姿が多かったのが印象的でした。

 「勝手に決めるな!」「強行採決、絶対反対」…。私も参加してコールを繰り返したのですが、思わず胸がつまってしまいました。3年前も、去年も、同じコールを国会前でしたからです。形だけの地方公聴会開催、強行採決されるのではないかという不安。一体、いつまでこんなおかしな状況が続くのでしょうか。TPPそのものにも反対ですが、国会での議論も市民の理解も十分に進んでいないまま、承認ありきで採決へと向かおうとする政府の姿勢に、不満は増すばかりです。

 この日は、札幌と宮崎の2カ所で、TPPの地方公聴会が開催されました。急に決まったので、知らなかった人も多かったかもしれません。衆議院でTPP特別委員会が始まったのは、10月14日のこと。19日に、山本農水大臣の発言で紛糾し、野党の委員が退席するなか、あれよあれよと地方公聴会の開催が採決されてしまいました(当初は24日開催だったのが、その後与野党合意で26日開催に決定)。

 公聴会というのは、国民の関心が高い重要案件を審議する際に、市民や識者、利害関係者である公述人の意見を聞くために開かれるもの…だそうですが、傍聴人の抽選に外れれば中には入れないし、TVでの中継もありません。幸いにも、市民メディアのIWJがインターネット中継をしてくれていたので、インターネットの接続が途切れ途切れになるなか、パソコンにくっつき耳を傾けて映像を観ていました。

 TPPを批准すれば、医療や雇用、地域経済、公共サービスなど、さまざまな面で私たちの生活に影響が及ぶ可能性があります。現に、食料自給率は下がると政府も明言しています。それなのに、パソコンに貼りつかないと、公聴会の内容を聞くこともできない…。国会中継だって、日中働いている人はなかなか観ることはできません。これでどうやって理解が広がるのでしょうか(それとも理解を広げたくないのでしょうか)。

 札幌の公聴会では、与党側が推薦した2人と、野党側が推薦した2人の公述人が意見陳述を行いました。与党が推薦した公述人は2人とも漁業関係者。すでに海外輸出の実績があり、TPPでその伸びが見込まれるからと考えたのでしょう。しかし、質疑が進むなかで「今、問題なのは後継者不足と高齢化」「順番としては国内消費が最優先。食育が大切」との切実な意見が出てきました。どうもTPPよりも先にすべきことがあるように思えてなりません。

 さらに「TPPで中小企業にどんな影響があるのか、勉強会をしてほしい」との要望もあり、理解が進んでいないことも伝わってきました。こうした暮らしや仕事に真剣に向き合う人たちの意見をしっかり受け止めて、TPP承認のために利用するのではなく、政策にも反映させてほしいと思います(札幌公聴会の録画は、IWJが公開しています)。

 …とここまで書いてきて、なんと自民党と民進党が4日に衆院本会議で採決することで合意したとの報道です(1日午前)。ようやく議論が始まったばかりなのに! 共同通信社が29、30日に行った全国電話世論調査によれば、TPPの承認について「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」との回答は66.5%。「成立させる必要はない」は10.3%。「今国会で成立させるべきだ」は17.7%と、慎重な審議を望む声のほうが圧倒的に多いのです。それなのにまた、勝手に決めるのでしょうか。

 今回、札幌で知り合った方たちと対話するなかで印象的だったのは、「もし今回、TPPが承認されなかったとしても、これから次々と『TPP的』なものが押し寄せてくるだろう」という話でした。食や医療、公共サービス、働き方など、暮らしの中には市場原理だけにまかせてしまってはいけないものがあるはずです。「TPP的なもの」に対抗する価値観を、どう形や言葉にして共有していくのか、それがいっそう大事になってくると思います。

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 とにかくわかりにくいTPPですが、「この人に聞きたい」でもインタビューさせていただいた山田正彦さん内田聖子さんらがかかわる「TPPテキスト分析チーム」発行のブックレット「続・そうだったのか! TPP―24のギモン」では、Q&A方式でわかりやすく解説しています。PDFはこちらからダウンロードできます。

(マガ9編集部 中村未絵/写真提供 奥留遙樹)

 

  

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