こちら編集部

 4月27日、参議院議員会館で開かれた〈刑法性犯罪規定改正案の審議を「テロ等準備罪」より先に行うよう求める〉記者会見に行ってきました。
 性犯罪の厳罰化などを含む今回の刑法改正案は、3月7日に閣議決定。今国会での審議が予定されていました。しかし4月に入って、政府与党はそれよりも後(3月21日)に閣議決定された「テロ等準備罪(共謀罪)」に関する審議を優先すると決定(通常は、法案提出の順番どおりに審議が行われます)。後回しにされた刑法改正案は「時間切れ」となって今国会で成立しない可能性も出てきました。
 これに抗議し、通例どおり刑法改正案を先に審議するよう求めて署名集めを行ってきた「刑法犯罪規定改正を望む有志一同」が、約2週間で集まった8000筆近くの署名を自民・公明両党に提出するのにあわせ、記者会見を開いたのです。

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今回の改正案のポイント

 「厳罰化」と説明されることの多い今回の性犯罪規定改正案ですが、そこには、他にも非常に重要な変更点がいくつも含まれています。
 一つは、「強姦罪」について。現行法では「強姦」とは「男性器が女性器に挿入されること」のみとされており、被害者が男性の場合や、肛門性交や口腔性交などについては強姦罪よりも軽い「強制わいせつ罪」にしか問えません。改正案では、強姦罪に代わって被害者・加害者の性別を問わない「強制性交等罪」を新設することで、この点を改善しようとしています。
 また、現行法では強姦罪も強制わいせつ罪も「親告罪」といって、検察の起訴には被害者自身の告訴が必要。改正案ではこれを改め、被害者の告訴がなくても起訴が可能となります。
 さらに、現行法では被害者が13歳以上の場合、「加害者の暴行脅迫によって抵抗できなかった」ことが認められなければ強姦罪や強制わいせつ罪が成立しません。これについても、改正案では被害者が18歳未満で、加害者が親などの「監護者」である場合には、暴行脅迫なしでも罪に問えるとされています。家庭内、学校内などでの性虐待に対応するための規定です。
 どれをとっても、むしろ当然だろうと思える内容。実は、現在の刑法は今から110年前、明治40(1907)年に成立したものであり、性犯罪に関しての規定はその当時から、抜本的な変更は加えられていないのだそうです。

被害に遭って泣く人を一人でも減らすために

 記者会見では、性暴力被害の当事者であるお2人もそれぞれの思いを述べてくれました。一人は、元タカラジェンヌでLGBTアクティビストの東小雪さん。3歳から中学2年生まで、実父による性虐待を受けていた経験を、著書『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)に綴られています。
 東さんは、自身の経験から、「被害者が13歳以上の場合、暴行・脅迫がなければ性犯罪ではない」という現行法の規定を「あまりにも現実とかけ離れている」と指摘。「私にとっては、父親からの性虐待が『日常』だったのに、どうやって抵抗すればよかったのでしょうか。こうした規定が残っていることに、悲しい気持ちになる」と語りました。
 「今も被害を受けている子どもたちがたくさんいます。それを大人として見過ごしてはいけないと思う。先に共謀罪が審議されることになったと聞いて、大変落胆しました。ぜひ性虐待について関心・理解をもって、少しでも現実に即した法律に変えていく、そして性犯罪を許さない社会に変えていくチャンスを逃さないでください」
 もう一人、女優で、自身の性暴力被害経験をもとにした映画『ら』(2015年)を監督した水井真希さんも登壇されました。
 10代のとき、道で突然襲われて拉致され、性暴力被害を受けたという水井さん。犯人は逮捕されましたが、自分の後にも被害者が出ていたことを知り、「自分がためらわず警察に訴えていれば、第二、第三の被害は防げたのでは」と悩み続けたといいます。
 「日本は安全な国、とよくいわれるけれど、私にとっては性犯罪は非常に身近なもの。電車で痴漢に遭ったり夜道で襲われたりといった経験を、この15年で40回くらいしています。でも、警察を呼んだのはその半分以下で、書類を書いてもらったのはさらにその半分以下。それについては『被害件数』としてカウントされていないことになる。だから『日本では性犯罪なんてそんなに起こらない』と思っている人がいるのだと思います」
 道を歩いていたときに襲われ、大声をあげたために近所の人が警察を呼んでくれたこともありました。しかし、警察が来たときには犯人は逃げており、物的証拠もほとんどない。警察が水井さんに言ったのは「被害届書きます? 書きたいなら明日警察署に来てください」という言葉でした。
 「今は、性犯罪は親告罪ですから、被害者が訴え出なければ『なかったこと』になる。警察も裁判所も、そうすれば仕事が少なくて済むと思っているのでは、と私は感じています。改正で非親告罪化すれば、日本には性犯罪がこんなにあるのか、と気付いてもらえるのではないでしょうか。警察批判、裁判所批判がしたいのではなく、被害に遭って泣く女の子を1人でも減らしたい、よりよい社会にしたいという思いで発言しています」

改正案が、共謀罪成立のための「取引材料」に

 会見には、お茶の水女子大学名誉教授で、性暴力被害者支援に携わってきた戒能民江さんも同席。「国の性暴力に対する『本気度』が問われている」と指摘されました。
 「戦後に新しい憲法ができた後も、司法関係者をはじめ社会の(性犯罪に対する)意識は変わらず、それが被害者が声をあげることを阻んできた。それをようやく変えるチャンスが来たということで、今回の改正案には大きな期待をもっていました。特に、幼い子どもの性被害が多発している中、(暴行脅迫なしでも罪の成立を認める)監護者性交罪の創設は画期的なこと。私がかかわっている支援センターに助けを求めてくる人たちの中にも、10代の子たちが多くいます。国会議員には、一刻を争う問題だという認識をもって、すぐに審議にとりかかっていただきたい」
 「これまで性暴力事件にかかわる中で、法律が性被害の実態と大きく離れていると感じてきた」という弁護士の太田啓子さんも、「法案提出された順に審議する」という慣例が破られ、テロ等準備罪の審議が優先されたことについて、「刑法改正案が『取引の材料』にされている」と怒りを訴えました。
 「審議の順番が逆になったことで、野党が『早く刑法改正案の成立を』と求めれば、『そのためにはテロ等準備罪を早く片付けてしまおう』という言い方ができてしまう。それ以外に、わざわざ審議の順序を変える理由があるでしょうか。どうしても変える必要があったというのなら、まずその理由を説明する責任があるはずです」

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左から太田さん、東さん、水井さん、戒能さん

***

 署名の呼びかけ文によれば、「日本のどこかで、3分に1人の割合で、強姦か強制わいせつの被害が起こっている」可能性があるといいます。その被害者を救済するには「今回の改正案では不十分だ」との指摘もありますが、現状を変える大きな一歩であるのは間違いありません。危険性が強く叫ばれ、「テロ防止にはつながらない」とも指摘されている共謀罪よりも、こちらのほうがはるかに優先されるべき問題ではないのでしょうか。
 署名は今も、こちらで呼びかけが続いています。

※現行規定の問題点については、「性暴力被害と刑法を考える当事者の会」作成のパンフレットに分かりやすくまとまっています。こちらのサイトから無料ダウンロードできます。

(西村リユ)

 

  

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