鈴木邦男の愛国問答

 シンポジウム「マスコミが報道しなかったイルカ問題の真実」にパネラーとして出席した。6月20日(土)だ。僕はイルカ問題については全くのシロウトだ。それなのに、イルカ保護、自然保護運動をやっている人々の間に入って話をした。今どうなっているのか、これからどうすればいいのか。とても関心があったからだ。だから「パネラーとして出て下さい」と言われた時、二つ返事で引き受けた。

 最近、イルカ問題が急にクローズアップされた。WAZA(世界動物園水族館協会)は、和歌山県の太地町でやっている「追い込み漁」は残酷だし、ここで獲れたイルカは世界の水族館で買ってはならない、と決定した。日本では、これを「外圧」としてとらえる人が多く、「外国からどうこう言われる問題ではない」「イルカ漁は日本の伝統文化だ」といって反発する人が多い。ただ、イルカ漁に反対する人々は大歓迎だ。だが、だからといって太地町のイルカ漁が中止になったわけではない。相変わらず続けている。これからも止める気はないという。でも、どこでも買ってくれなかったら、獲っていても意味はないのではないか。そう思うだろうが、ちょっと違う。

 WAZAの下に、JAZA(日本動物園水族館協会)がある。WAZAからこんな決定をされて、どうするか。「冗談じゃない。じゃ、こんなWAZAなど脱退しよう」という声も一部にあったが、結果的には残った。そしてWAZAの決定を受け入れた。日本の水族館は太地町のイルカを買うことは出来ない。世界にも売れない。じゃ、太地町はイルカ漁をやめたらいい。あるいは、そこで「イルカ・ウォッチング」とか「イルカと泳ぐ会」「イルカ・セラピー」でもやったらいい。という声もあるが、今まで通り続けるという。でも売るところはない。
 そう思ったが、WAZAに加盟してない国がある。中国、ロシア、北朝鮮などだ。これらの国は、前から日本のイルカを買っている。北朝鮮は日本とは国交がないが、中国を通して買っている。日本が批判する独裁国家のおかげでイルカ漁を続けるなんて、ちょっと変だ。6月20日のシンポジウムは、午後2時開始、場所は早稲田大学西早稲田キャンパス62号館だった。第1部は、「WAZAの決定と日本の対応」が報告された。さらに、辺見栄さん(エルザ自然保護の会)、東さちこさん(PEACE代表)による「イルカ捕獲問題の経緯説明」、「海・イルカ・人」の坂野正人さんの報告などがあった。そして、第2部はパネルディスカッションだ。ここに僕も出た。テーマは、「水族館のイルカ――何が問題か」。WAZAの決定だけで満足してはいられない。大体、水族館のイルカは必要なのか。子どものためにイルカショーは人気があるというが、イルカにとっては苦役ではないのか。
 〈水族館の環境は、イルカたちにとって心地良いものなのでしょうか? 「飼育されているイルカ」と「野生のイルカ」にはどんな違いがあるのでしょうか? 人間とイルカのより良い関係について、一緒に考えませんか〉と案内状には書かれている。
 専門家や運動家が一方的に話すのではなく、会場の皆さんから、いろんな考えを出してもらいたいと、司会の坂野さんが言う。「ここにいる鈴木さんも、イルカ問題の運動家ではなく、一般的に言えば右翼です。その右翼がなぜイルカ問題に関心を持ったのか、まず話してもらいます」と言う。それで坂野さんと知り合った経緯から話をする。映画『ザ・コーヴ』が初めてだった。太地町の湾に追い込んでイルカをつかまえる、殺す。その残酷な現場を撮った映画だ。「これは反日映画だ!」と抗議する人々がいて、大パニックになった。僕は、「見せてから討論すべきだ」と思い、上映中止には反対した。そんな中で、ハンドマイクで殴られたり、討論集会に参加したりで、多くの人々を知った。坂野さんたち「イルカ漁」反対の人々だ。坂野さんに誘われて、イルカ・ウォッチングにも行った。又、特訓を受けてから、イルカのいる海に行き、イルカと共に泳いだ。今までしたことのなかった体験もした。そんな話をした。

 水族館ではイルカは楽しそうにショーをやっている、と思われているが違うと坂野さんは言う。いやでたまらないのだが、生きるために仕方なくやっている。拘禁性の病気も出ていると言って、ビデオを見せる。「人間だって拘禁されたら、いろいろな症状が出てきます。監獄人権センターで運動をしている塩田さんに報告をしていただきます」と言う。塩田さんはそんなにイルカの問題に関心はないのに、報告させられていた。それにしても、人間は、懲役5年とか10年とか刑期がある。でもイルカはない。罪も犯してないのに、ある日突然拉致され、一生外に出られない。芸をしないと食事も与えられない。「じゃ、2年働いたら海に帰したらいい。お礼をして」と僕は言った。「でも、一度水族館で飼われたら、野生に戻すのが難しい」と言う。ウーン、そうなのか。

 それに、何故、太地町にイルカは集まってくるのか。それを質問した。僕はパネラーだけど、他の人に質問ばっかりしていた。イルカはとても頭がいいし、超音波でイルカ同士、会話してるという。だったら、「ここにくるな、危ない」と信号を発したらいいじゃないか。何なら、坂野さんが、超音波を出せる機械を作って、全世界のイルカに「日本に来るなよ、危ないよ」と送ったらいいじゃないか。と聞いた。「ウーン、ちょっと出来るかなー」と坂野さんは悩んでいる。出来るだろう、これだけITが発達しているんだから。そして、全世界のイルカを解放するのか、動物園の動物も全て解放するのか、さらには、ペットだって不自由だろう、犬も猫も全て解放するのか…といった壮大なテーマについて語り合った。又、人間のために「動物実験」がやられているが、こんなことが許されるのか、という人がいた。これはすぐに止めるべきだ。実験される動物があまりにもかわいそうだ。又、これから猿がこの地球上の征服者になったらどうする。我々人間が猿のために「動物実験」されるだろう。だから、地球の征服者が誰に替わろうとも、他の動物を「実験」に使わないという宣言を書いておいた方がいい。「日本国憲法」に書くか、あるいは国連で宣言するか、ということで話はどんどん大きくなった。

 

  

※コメントは承認制です。
第178回水族館のイルカについて考えた」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    日本では、2010年に公開となったドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』。この映画への抗議によって上映を中止した映画館が相次いだことから、「表現の自由」についての問題提起にもなりました。また、「伝統文化」とは何か、という議論が起きたことも印象に残っています。今回、WAZAの決定によって再びクローズアップされたイルカ漁の問題。みなさんはどう考えるでしょうか?
    ※このコラムの第49回で、鈴木さんが『ザ・コーヴ』を観たときの感想が書かれています。こちらもあわせてご覧ください。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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