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 いよいよまもなくの参院選。「改憲」の文字がちらつく中、気にかかっているのが「おおさか維新」議席の動向です。
 聞くところによると、自民党とも、従来の野党とも違う「革新的」なイメージで、若い世代を中心とした支持がここのところ急速に広がっているのだとか。大阪選挙区では自・公に加えおおさか維新の候補者が「当選確実」の勢いで、残り1議席をもう1人のおおさか維新候補者と、民進党・共産党の候補者が争う状況なのだそうです。東京選挙区でも、「リベラル」のイメージの強い作家で元長野県知事の田中康夫氏がなぜかおおさか維新から出馬、6議席の一つに滑り込むかも? とのこと。

■おおさか維新、参院選最大の目標は
「改憲勢力が3分の2を占めること」

 わたしがこうした状況に強い危機感を覚える理由は、まず同党が明確に与党を補完する「改憲勢力」だということです。
 安倍首相は今年1月、テレビ番組で「おおさか維新など改憲に前向きの党もある。責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」と述べていましたが、それに応じるように、おおさか維新の松井一郎代表、馬場伸幸幹事長は、参院選に向けたマニフェスト発表の場(会見動画)でそろって「改憲勢力が3分の2を占めることが必要」と発言しています(馬場幹事長に至っては「それが最大の目標」とも)。
 自民党改憲草案の内容そのものについては「個人の価値観に踏み込んでいるので反対」(松井代表)として、「教育の無償化」などを含む独自の改憲案を掲げていますが(これについては憲法学者の木村草太さんが、「そもそも憲法改正する必要がない内容」だと指摘しています)、一方で9条改憲については馬場幹事長が「我が党から持ち出す気はないが、賛成する可能性はある」と発言。馬場幹事長は緊急事態条項についても「独自の案をまとめたい」と発言していたことがあります。
 元代表で現在も法律政策顧問を務める橋下徹氏は、昨年末に安倍首相と会談し、憲法改正について話し合ったと明かしていますし、大阪選挙区に2候補を擁立するにあたっては、松井代表が菅官房長官と会談し、「菅氏から『2人擁立でも勝算はある』との分析データを示された」との報道もあります(読売新聞7月2日)。もはや自民党の「別働隊」? とも思えるズブズブっぷり。「改憲勢力が3分の2」を占めた後、自民党が改憲発議を主導すれば、おおさか維新が反対に回る可能性はほぼないといえるでしょう。

■残業代ゼロ法案も、与党+おおさか維新であっさり成立?

 おおさか維新が自民党の「別働隊」なのでは? と思うのは、憲法改正の問題についてだけではありません。
 昨年の通常国会で提出された後、継続審議となっている労働基準法改正案(いわゆる「残業代ゼロ法案」、くわしくはこちら)について、所属議員の1人である衆議院の足立康史議員はこんなツイートをしています。
 

例えば労働規制改革。 安倍政権が一歩前進の法案を出しているのに、民共が「首切り法案」「残業代ゼロ法案」とレッテル貼りをすると、自公は怯んでしまった。

 今回、まったく争点となっていないこの法案ですが、参院選が終われば、おおさか維新が与党と一緒になって成立を急ぐ…という構図が目に浮かぶようです。
 ちなみにこの足立康史議員、自身も私設秘書から未払いの残業代700万円を請求され、「ふざけるなと思った」と発言。また、今年4月には、安全保障法案に関する国会審議の場で、同法案に反対していた民進党を「アホ、バカ、嘘つき、どうしようもない政党」などと罵倒して批判が集まりました。
 「単なる罵倒」と「歯に衣着せぬ批判」を取り違えているのは、元代表で現在も法律政策顧問を務める橋下徹氏譲りかも、などと思ってしまいますが、その橋下氏が今年5月に沖縄で米軍属による女性暴行殺害事件が起こったときに、「風俗の活用も検討すべき」という、人権感覚ゼロの発言をしていたことも忘れたくないと思います(ちなみに今回の参院選、おおさか維新は沖縄選挙区で、自民党公認候補の島尻安伊子候補を推薦しています)。

■大阪の「維新政治」が切り捨てたもの

 また、本拠地・大阪で「維新政治」がやってきたことも、見ておく必要があるでしょう。昨年5月の、大阪都構想をめぐる大阪市住民投票にあたって作成された「大阪市なくさんといてよ! 市民ネットワーク」のページでは、「維新政治7年間の大罪」と題したビラで、「福祉削って借金増やす」「競争教育で子どもが犠牲に」など、市民の目から見た「維新政治」の結果が分かりやすくまとめられています。
 また、SEALDs KANSAIが昨年の大阪府・大阪市ダブル選挙の際に立ち上げた、「REAL」と題するプロジェクトのページでは、中小企業の経営者や元府立高校職員、市バスの元運転手などが、それぞれの目線から見た「維新政治のリアル」を語ってくれています。「弱者切り捨て」という言葉が浮かんでくる生の声、ぜひ読んで(見て)みてください(それなのに、どうしてダブル選挙でおおさか維新が勝ったの? という問いには、この状況でどうしてなお安倍政権の支持率が高いのか、東京で石原都政がどうしてあれだけ続いたのか、を考えてみるといいかも)。

 最後に。
 今回の参議院選での、おおさか維新の比例区公認候補に、矢野よしあき氏がいます。すでにSNSなどでは話題になっていますが、なぜか迷彩服(本人は「戦闘服」と表記)姿で街宣に回り、原爆ドーム前では「核武装の必要性」について演説していたそう。街宣では「日本を戦争できる国にするべき」との発言もあったとか…。
 比例区でおおさか維新に投票するということは、こんな候補者にも票が行くということ。さらに、松井代表が「核武装についても議論を」と発言していたことや(橋下氏も政治家になる前ですがテレビで「核武装容認」発言をしています)、「慰安婦は必要だった」発言に代表される橋下氏の歴史認識を考えると、実は矢野氏は非常に「おおさか維新的」な候補者なのかもしれない、という気さえしてくるのでした。

 以上、わたしが考える「おおさか維新に投票すべきでない理由」でした。長くなりましたが、ご紹介したリンクのいくつかだけでも、見ていただければと思います。

(西村リユ)

 

  

※コメントは承認制です。
「改憲勢力」で自民党の「別働隊」?
おおさか維新に投票すべきでない理由。
」 に5件のコメント

  1. 島 憲治 より:

    ブレーキ装備のない事故続出の安倍バスに乗り込んだ有権者。国民の好きな消去法を使って、なおかつこのバスに乗り込んだのだろうか。みんなで乗れば怖くない、ということだろうか。                        集団主義的思考が一段と進み、情が理を上回った結果の参院選挙。 聴覚障害の子持ちであることをアピール、当選した母親がいた。立憲主義放棄を謳い、人権保障を大きく後退させようとする自民党の中でうやって人権保障に取り組むというのだろうか。そもそも憲法を読んだことがあるのかさえ疑問だ。これなどは典型例である。
    集団主義的思考が一段と進み、情緒的判断が理性を乗り超えてしまう投票構造。この構造にメスを入れることは不可避だ。心理学者、教育学者、憲法学者、および法曹人などの知恵を出し合い、ブレーキ装備のないバスを運行させないようにしなければならない。為政者はブレーキ装備のないバスを運行はするが、乗車はしないのだ。

  2. 樋口 隆史 より:

    そもそも、「維新」って言葉自体が胡散臭い。
    かつて、リアルに維新が横行していた時代、実はそれを名目に強盗、詐欺、性的暴力エトセトラ・・・・・・とにかく大半の維新派の皆さんは犯罪者特有の自己の正当化のために維新って言葉で誤魔化していたっていう話があったり・・・・・・くわばらくわばら。

  3. 島 憲治 より:

    >「たった一人のきびしい戦い。茨の道。大組織を相手に個人・女一人の戦いです」と強調されています。
    手続きを経た結果、女、一人、の戦いになったわけではない。それを、女と一人を強調、自らをあたかも被害者のように仕立て、有権者の同情を誘う手法は見苦しく、汚い。そこには真摯な態度、清廉性のひとかけらも感じさせない。日替わり暦と揶揄される彼女、桝添氏より都政を混乱に巻き込むことは必至だろう。加えて
    > 立憲主義を否定し、復古主義的な右派思想を持ち、ジェンダー感覚がゼロ、ということだけでも、支持できない大きな理由になりますが。
    このことを都内にまき散らす手段として、緑の鉢巻きをし、女の顔と服装で、女一人を強調、大衆を引きつけようとする。これは、仮に小池氏が当選した場合、いよいよ大衆迎合政治(ポピュリズム)到来と評価できる。これでは独裁政治の土壌が肥え、都政の混乱だけに収まらない。

  4. 島 憲治 より:

    >、「現憲法で保障される平和な生活を送りたい」といった、ごく当たり前のことが大きな声で言えなくなる時代が来るのではないか、という恐ろしさもまた感じているところです。
    という時代がくる前に、国民の「忖度」が先行しているように見える。特に、エリート層や知識人にその傾向が現れているのでは。             >私たちは、「行政のトップに立つ人の人権感覚」について、もっと真剣に考え、投票行動にもつなげるべきではないか、と強く感じているところです。      全くです。が、石原氏は人権感覚が薄いからこそ都知事の椅子に長く座れたのだ。都民が好むのは人権ではなく、勇ましい言葉を弄して民衆を扇動する者を好むからだ。彼の言葉には力がなく、汚い。私には、犬の遠吠えにしか聞こえないのだ。                        「ヘイトクライム」を生み出す土壌は、実は国民の精神に宿っているのでは。排除の論理が幅を利かせ、不安から逃れようとする国民が蔓延しているからだ。                                    

  5. 鳴井 勝敏 より:

    都知事選における都民の投票基準が「孤軍奮闘」であったととは。これに強い無力感、脱力感を覚える。ポピュリズムの萌芽を感じるからだ。

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