鈴木邦男の愛国問答

 12月3日(水)、辻元清美さんの選挙応援に行ってきた。高槻市まで行ってきた。初め話があった時は驚いたし、戸惑った。「えっ? 僕でいいの?」「僕じゃ、かえってマイナスじゃないの?」と聞いた。「是非お願いします。大変なんです」とスタッフの人が言う。誹謗中傷されているとは聞いていたが、これほど酷いとは思わなかった。「辻元は極左だ!」「過激派だ!」。そして、「売国奴だ!」「過激派だ!」と、さんざん言われている。又、ネットにも書かれている。街頭で演説中に暴漢に襲われたこともあると言う。「分かりました。お役に立つかどうか分かりませんが、やりましょう」と言った。

 新幹線で京都に行き、そこで乗り換えて高槻に。迎えの人の車に乗って、市内の商店街へ。スーパーの前で辻元さんが演説している。「私は極左ではありません! 反日でもありません。その証拠に“たかじん”にもよく出ている鈴木邦男さんとも友達です。鈴木さんは右翼の一水会の人です。右翼の親分です。あっ、今、その鈴木さんが東京から駆けつけてくれました!」と言って、マイクを渡された。
 辻元さんとは考えが違うところもあるが、キチンと話し合える人だ。僕は「朝まで生テレビ」を初め、テレビの討論番組では何度も一緒になった。『朝日ジャーナル』など、雑誌でも討論した。論理的に、グイグイと攻めてくる。僕はいつも、やられていた。でも終わって爽やかな感じがした。話し方が正々堂々としているし、揚げ足をとったり、怒鳴ったりしない。感情的にならない。だから、高槻では言った。
 「今の日本に“右翼と左翼”がいるのではありません。“話し合える人と話し合えない人”がいるんです」と。「話し合えない人」は、相手の話も聞かない。気にくわない人間は、「反日だ」「売国奴だ」「左翼だ」といって誹謗中傷してその人間の全人格を否定する。又、そんな卑劣な批判をする自分は「愛国者」であり、「正義」だと思っている。そう思うからこそ、どんな醜いことも出来る。まさに「愛国無罪」だ。愛国者なら何でも許されると思っている。でも、それは間違っている。「愛国心」と言いながら。その行動にはまったく「愛」がない。単なる個人攻撃である。排外主義だ。
 大阪では、ヘイトスピーチのデモもよく行われる。「それは右翼でもなく、愛国者でもありません。ただの排外主義です」と言った。そのデモに「日の丸」が使われている。「日の丸」が泣いている。日本は元々、寛容な民族です。大陸、ヨーロッパ、アメリカから多くの文化を受け容れ、多くの人が来て、それで「日本文化」も作られた。特に中国、朝鮮から学んだものも多い。だから排外主義は、「日本的」ではない。最も「反日的」なものだろう。
 それに、「愛国心」は、口に出して大声で言うべきものではない。その人の行動を見て判断すべきだ。辻元さんは、この国を愛し、この国のため、この国の人々のために活動してきました。「僕なんかより、ずっと愛国者です!」と言った。
 
 辻元さんへの誹謗中傷は、特にネットなどで醜い。「辻元は極左だ」「国賊だ」というだけでなく、「自衛隊を侮辱した。非国民だ!」とも言われた。また産経新聞にはこう書かれた。〈辻元は震災のときに「自衛隊は違憲です。自衛隊から食料を受け取らないでください」と書いたビラをまいた〉〈自衛隊活動を視察した際に自衛隊に対し乱暴な言葉を投げつけた〉。これには我慢がならず、訴えた。勝った。でも、今ネットでは同じ事で攻撃されている。「裁判で嘘だと証明されたわけでしょう。だったら、これは選挙妨害になるんじゃないですか」と僕は聞いた。今、選挙中のネットは自由なので、こんなことも野放しのようだ。選挙がどんどん下品になる。

 「自民党の候補者の演説には、日の丸を持った聴衆が多いです」とマスコミの人が言っていた。困ったことだ。「日の丸」を持って、「自分たちこそが日本人だ」と誇示しているのだろう。それ以外の人間は非国民だ、売国奴だと言っているようだ。
 今、野党も弱体で、自民党のひとり勝ちだ。自民党の中でも「タカ派的」「極右的」な人々が元気がいい。昔は、ハト派的な人もいたがそんな人は人気がない。ハト派的な事を言っていたら選挙に落ちる。だから、競い合って、より過激に、より右派的な発言をする。

 「僕も40年間、右翼運動をやってきて、そう思いつめる気持ちも分かります。だから危ないと思います。“ちょっと待てよ”“これでいいのか”と立ち止まり、冷静に考えることが必要なのです。それをやってくれるのが辻元さんです」と訴えた。
 僕は、愛国運動、右翼運動の素晴らしさは分かる。楽しかったし、生き甲斐も感じた。と同時に、それが暴走した時の怖さ、危険性も知っている。皆が同じことを考えている集団・国家ではなおさらその危険性がある。皆が同じ考えだから、より過激なことを言った方が勝つ。今の日本も同じだ。
 
 高槻では、車をとめて、いろんな所で演説した。演説するは辻元さんと僕の2人だけだ。時には2人で対話しながら、この日本のことを考えた。又、僕が演説してる時は、辻元さんが一人ひとり、握手して、話を聞いている。マイクを向けて、しゃべってもらったりしている。こんな講演会は僕としては初めてだったので、とても新鮮だった。辻元さんが演説するときは、僕が握手してまわる。「辻元をよろしく」と。
 選挙は大変だと痛感した。日本の行方を論じ、自分の考えを述べるのが選挙のはずだ。ところが今は、誹謗中傷やデマとまず闘わなくてはならない。「愛国者」を自称する狂気、熱狂と闘わなくてはならない。

 自社対立していて、政治的論争点がはっきりしてる時の方が、政治も選挙も、もう少しマシだったのではないか。「非武装中立」「有事駐留」などを言う人もいた。愛国心、国旗・国家についても、いろんな意見を言えた、今、そんな多様なことを言う自由はない。言ったら、叩きつぶされてしまう。「反日だ!」「国賊だ!」と言って、叩きつぶされる。選挙は明らかに劣化している。政策を論じる以前に、中傷や噂、風評被害が充満し支配している。日本人全体が劣化しているのか。そんな選挙の現実を見てきた。そんな気がした。

 

  

※コメントは承認制です。
第165回 デマと闘う選挙運動の異常さ」 に11件のコメント

  1. magazine9 より:

    議会でのヤジ、話を聞かない政治家、大手メディアの便乗バッシングなど、なんだか「下品だな」と思うことが多いような気が・・・。それにしても、また候補者名を連呼するばかりの選挙カーが近所をまわっています。表面的なイメージ合戦ではなく、きちんと政策を伝える努力をして、みんなで議論できるような選挙活動をしてほしいものです。

  2. 島 憲治 より:

     「今の若者が学校で、そして就職や職場で競争を強いられ、 厳しい生活を余儀なくされ、追い詰められる中で、自分の存在価値を国家と一体なものとして見出そうとしているのではないか」、と指摘する識者がいる(法学館憲法研究所・「今週の一言」)。 鈴木さんの論稿は上記指摘にピッタリ当てはまるものだ。 確かに、一時的には苦しさから逃れられ楽かも知れない。しかし、「思考停止」状態に陥っているとしたら危険だ。全体主義の予兆を感じるからだ。待ち構えている光景は「環境の奴隷」に映る。このツケは後世の人達にも重くのしかかってくる。 現在の日本を第一次世界大戦後のドイツに似ている、と指摘する評論家がいる。ワイマール憲法を破壊、全体主義に突っ走り、民主主義を民主義で破壊したナチス・ヒトラーにダブルのだろう。160万人を虐殺したと言われるアウシェヴィッツ強制収容所。同博物館を見学したのは8年前だ。                  

  3. 中道は左右に敵視される より:

    極左レッテル貼りは嘆くのに
    自民演説聴衆の日の丸持ちへのレッテルは貼る。

    結局そういうレッテル貼り合戦になってるよ…

  4. 冬軍曹 より:

     辻元氏と某有名ブロガーとの対談記事を読み、また今回の記事を読んでも辻元氏は
    実に論理的で柔軟性のある人だと思った。自分と異質な存在を認めるか認めないか。
    右翼でも左翼でも一神教でも好きにすればいいけど、自分以外の価値観を認めない人が
    大多数を占める国は、きっと大きな不幸を招くのだろうなあ・・・・。

  5. Shunichi Ueno より:

    33行目 拝外主義→排外主義 ですね。

    確かにネットに見る辻元さんへの誹謗中傷はひどい。まともな政策批判ではなく、根も葉もないデマをベースとした口汚い人格攻撃。それはまるで集団の力を借りた山狩り、サディスティックな快感を得たいがための行為にも見える。
    鈴木さんのように、度量の広い、率直に語り合える保守言論人がおられることは救いです。

  6. magazine9 より:

    33行目の誤変換、ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。

  7. 多賀恭一 より:

    社民党の議席が減少の一途を辿っているのは、
    「情報開示」が足りないためである。
    社会党時代からの秘密事項があまりにも多過ぎる。
    同様のことは、
    自民党・公明党・民主党・共産党などにも共通に言えることで、
    既存政党に対する国民の不信感は、
    もはや絶望感と呼べる状態になっている。
    「情報開示」まずここから始めよう。

  8. 日本は元々、寛容な民族です。自らに。だから排外主義に対しても日本人は寛容だった。

  9. 平野悠 より:

    先日鈴木さんと会った折鈴木さんは「辻元さんが当選して良かった、本当に良かった」と言っていました。もし「私みたいな右翼を応援弁士に呼んで、デマスキャンダルがあったら申しわけない」と言っていたな。辻元さんも鈴木邦男さんを呼ぶなんてなんて勇気のある人なんだと言う評判。確かに鈴木さんはもう右翼の壁なんかとっくに越えた人だ。

  10. 遠遊 より:

    鈴木様のコメント「中傷や噂、風評被害が充満し支配している。日本人全体が劣化しているのか」を読み、勝海舟の晩年の言葉を思い出しました。「見よ、今日の教育が理屈から急ぐものだから人心の腐敗は「ドー」だよ。第一、男子が悪いが、又女子が男子をやっつけようという意気込みではないか・・・ずいぶん妙な世界になる。注意したまえ。」 表面上、現代の品格本や植物男子・肉食女子を先取りした保守的男女批判に聞こえますが、実は海舟の真意は、政治家、教育者の腐敗が「人心の腐敗」―人間の「根なし草化」―につながっているという点です。文科省の「文系は経済や技術の進歩につながらないから不要だ」との暴論で、日本人のさらなる根なし草化が進行し「妙な世界」が現出してきています。これが日本の重大な問題です。

  11. yamada より:

    自民党のライバルをデマで潰すネトウヨ。
    気に食わない真実をデマだと決め付けるネトウヨ。

    そして問答無用で日本を賛美して外国を罵倒する。
    例えば家電業界では日本企業は劣勢で韓国企業が世界シェアのトップなのに、
    それを認めず日本賛美と韓国叩きしてばかり。

    こいつらこそ日本を破滅に追い込んでいる売国奴。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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