鈴木邦男の愛国問答

 世田谷区長選挙は保坂展人さんが圧勝だった。人気があるし、実績がある。選挙事務所の事務所開きに行ったが、もの凄い人だった。党派を超えて多くの人が激励に来ていた。国会議員も多い。〈国会でも期待されてるんだな〉と思った。自民一強で、野党不在のような現状だ。国会に保坂さんがいないのは淋しいが、でも、飢餓感・待望感は広がっているようだ。保坂さんの区政報告パーティに行った時も感じるが、いつも超満員だ。国会議員の域をはるかに超えた人気と期待感だ。「国会議員は、ワン・オブ・ゼムです。ほんの一部分でしかない。ところが区長は、その区の全てを見ます。全てに責任があります。だから国会議員の時よりも大変です。それだけにやり甲斐もあります」と保坂さんは言っていた。

 ある国会議員が言っていた。「自民に太刀打ちできない弱小野党がいくら集まってもダメだ。どんどんなくなっていくだけだ。そんな不毛な国会にいなくて保坂さんはよかったね。区長で頑張って実績を作り、その上で、国会に又帰ってきてほしい。若いんだから、急ぐことはないよ」。近くにいた別の国会議員がこう言っていた。「その時は、一介の陣笠議員じゃないよ。首相候補だよ」。おっ、そこまで期待されてるのかと驚いた。不毛な国会を離れている方が、いいのかもしれない。離合集散を繰り返し、弱い野党はどんどん潰れ、あるいは自民に吸収される。「我々は自民より右だ。右から自民を批判する」という野党まで現れる。それでも野党といえるのだろうか。
 憲法改正を断行しようという自民に対し「安倍は独裁者だ!」「ファシストだ!」と批判する人がいる。野党にも市民運動家にも、ジャーナリストにも。又、「安倍は辞めろ!」と言う。しかし、安倍の次は、さらに右より、過激な人が出てくる。又「安倍は辞めろ」っていう野党にも人はいない。安倍をさらに小型にしたような「独裁者」や「ファシスト」ばかりではないか。テレビの政治討論会を見ていても、堂々とした政策論議はない。感情的な話や、「たとえ話」を多用した、レベルの低い話ばかりだ。
 「この一強多弱の状況はまだまだ続きますよ。それが極まった時、保坂さんの出番ですよ」と他の議員が言っていた。それだけ保坂さんは期待されてるんだ。保坂さんは少年時代から苦労してるし、だから考え方の幅も広い。そこいらの野党党首のように、すぐにキレたり、逆上したりしない。人間が出来ている。こうした人物が、今、国会にはいない。じっくり時間をかけて、準備して、仲間を増やし、国会に帰ってきてほしい。

 明るい話を紹介した後で、次は暗い話だ。僕も応援した2人の市議会議員候補者が落ちた。一人は元赤軍派議長の塩見孝也さんだ。東京都清瀬市議選だ。もう一人は、新潟県新発田市議選の斎藤徹夫さんだ。毎年「大杉栄メモリアル」を開催している責任者だ。両方とも、立候補者は定員より2、3人多い。「そこには入らないだろう」と思っていたが、見事に入った。斎藤さんは最下位。塩見さんは下から2番目だった。皆、頑張って応援したが、ダメだった。結構、話題にはなっていたのに。特に塩見さんだ。「あの塩見が出るのか?」と評判になった。「赤軍派や獄中20年は隠した方がいい。一般市民、評論家として出た方がいい」と言ってた人もいたが、そんなことはすぐに分かる。「経歴を隠さず、堂々とやる」と塩見さんは言う。選挙事務所には、ゲバラの肖像画、赤軍の旗、そして「獄中20年」の垂れ幕が。街頭演説でも、「獄中20年の塩見です」「学生運動でつちかった力を市政改革に!」と叫んでいた。
 これで勝ったら、昔の全共闘世代も、ドッと立候補するだろう。「70才代の反乱」になる。今の自民一強時代に風穴をあけるだろう。文句は言うが、「闘い方」を知らない今の若者たちに闘い方を教え、青写真を示してくれるだろう。そんな希望も見えていたのに、残念だった。

 塩見さんは赤軍派の議長だった。本人は命令していないのに、赤軍の全ての罪を押し付けられた。「よど号」ハイジャック事件、連合赤軍事件、そして爆弾事件、銀行・郵便局襲撃事件…などの責任を問われ、20年間も刑務所に入っていた。塩見さんが出獄してからは、僕は何度も討論した。「左右対決」と言われた。今は、こんな「対立」はないし、喧嘩もない。でも、その対立時代を覚えている人もいる。清瀬市で応援演説をしていたら「許さん! 何でお前は赤軍の応援をしてるんだ!」と詰めよられた。
 それと、前に塩見さんと対談した時、こんなことを言っていた。「自分たちが革命を起こしたら、『ブルジョワ憲法』だから今の憲法を変える」と言う。そして、「日本共和国」になる。天皇制は廃止されている。「じゃ、日本は大統領制になるんですね」と僕が言ったら、「そうだ」と言う。きっと初代の「日本共和国大統領」は塩見さんになるのだろう。日本政治のトップになるんだ。世が世であれば、塩見さんは、この日本共和国の大統領だ。その大統領が清瀬市議選では落ちたのか。愕然とする。今回は2人とも完敗だったが、又、時代が変わり、昔の活動家が必要とされる時も来るだろう。めげずに頑張ってほしいものだ。

 

  

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第175回選挙の明るい話と、暗い話」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    「不毛な国会にいなくてよかったね」という国会議員の発言に、「あの…その不毛な場所で、私たちの国の大切なことが決められているのですが…」と脱力してしまいます。この状況に、鈴木さんが言うような「風穴をあける」議員はいないのでしょうか。それほど人材がいないのだとしたら、それは一体何が原因なのでしょうか。
    塩見孝也さんの清瀬市議選の様子については、「雨宮処凜がゆく!」第334回でも紹介されていますので、こちらもあわせてご覧ください。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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