柴田鉄治のメディア時評


その月に書かれた新聞やテレビ、雑誌などから、ジャーナリスト柴田さんが気になったいくつかの事柄を取り上げて、論評していきます。

shibata

 安保法案に反対する人々が、全国350カ所で一斉に抗議の声をあげた8月30日。東京の国会周辺では、「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」主催のデモに12万人(主催者発表)が参加、議事堂正面の50メートル道路をはじめ、霞が関から日比谷周辺まで人人人で埋まった。安保法案反対デモとしては最大規模だった。
 60年安保を思い出すという老人の声もあったようだが、デモの姿はまったく違った。60年安保は動員された労組や学生らが中心だったのに対して、今回は、ほとんどが自らの意思で参加した市民たちで、5月に立ち上がった都内の大学生たちでつくる「SEALDs」をはじめ、大学教授や研究者らの「学者の会」、子育て世代の「安保関連法案に反対するママの会」などの姿が目立った。
 この集会やデモの様子をメディアはどう報じたか。テレビの報道は同夜、外出していて見てないので論じられないが、新聞報道は例によって二極分化した。
 最も大きく扱ったのは東京新聞で、1面トップに特大の空撮写真を載せ、「届かぬ民意、危機感結集」と驚くほど大きく報じている。しかも1面をはじめ計6面に大展開しているのだから、デモに参加した人たちは紙面を見て満足したことだろう。
 毎日新聞も1面トップ、朝日新聞は1面の脇の扱いだったが、ともに議事堂と人でぎっしり埋まった空撮写真をかなり大きく扱い、社会面などでもそれなりに大きく展開している。
 一方の読売、産経新聞は、1面には1行もなく、第2社会面に小さな地上写真とともに報じている。両紙を比較すると、産経新聞のほうが扱いも大きく、他紙では前々から報じている学生たちの「SEALDs」について初めて報じるのか、「学生団体『シールズ』とは/洗練イメージで存在感、一部野党が賛同」とまずまず公平に紹介している。
 それに対して読売新聞の記事は、小さな2枚の写真を並べ、「安保法案『反対』『賛成』デモ/土日の国会周辺や新宿」という見出しがついているのにびっくりした。
 よく見ると、安保法案に賛成するデモは前日の29日に新宿周辺でおこなわれたもので、前日の紙面で朝日、毎日、産経などは報じていたものだ。法案に賛成の読売がなぜ報じないのかな、と不思議に思っていたところ、なんと翌日の反対集会のデモと並べて、「『賛成』『反対』のデモ」と報じるためだったとは!
 12万人(主催者発表)と500人(同)のデモを、しかも日付けも違うデモをならべて、反対のデモを小さく見せようとする。そこまでして、安倍政権に忠誠を尽くさねばならないのだろうか。

 

  

※コメントは承認制です。
番外編 8・30安保法案反対全国集会をどう報じたか」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    月1回更新の「メディア時評」。先週第81回を更新しましたが、今回、8月30日の抗議行動の報道の様子を見て、新たに「臨時便」として原稿を送ってくださいました。それにしても、「安保法案『反対』『賛成』デモ」と書くために、一日ずらしたのだとしたら、なんとも姑息です。一体、誰のほうを向いているメディアなのでしょうか。報道の自立・公正さを失ってしまえば、やがて自分たちの首を絞めるのではないかと思います。

  2. Junko nagai より:

    ベルリン在住のフリー・ジャーナリスト、永井潤子です。8月30日のデモについて日本の新聞報道をいろいろ読んだつもりでしたが、読売新聞が前日の小規模な賛成デモとこの大規模なデモとを並べて報じたことは柴田さんのメディ時報で初めて知り、唖然としました。
    ベルリンやデュッセルドルフでも日本のデモと連携した抗議集会が開かれていることをお伝えします。「従軍慰安婦」メモリアルデーの8月14日、ベルリン在住の日本人と韓国人女性、ドイツ人の市民運動家などが中心となってブランデンブルク門前で「『慰安婦』問題の解決を求めるデモ」を行いましたが、これは同時に安倍政権の政治に反対するデモでした。澤地久枝さんが提案した7月18日のデモに連携して金子兜太氏が書かれた「アベ政治を許さない」のポスターとそのドイツ語版を持って参加、翌15日にはデュッセルドルフでも同趣旨の抗議集会とデモが行われました。そのリポートは私たちのサイトmidori1kwh.deに掲載されています。8月30日には小規模ながらベルリンの日本大使館前で日本のデモと連携するデモが行われ、猛暑の中40人が参加しました。

  3. Junko nagai より:

    またまたベルリンの永井潤子です。先ほど書こうと思っていて忘れたことがあります。先日の安倍談話についてのドイツのメディアの厳しい反応もmidori1kwh.deに載せました。柴田さんにはそちらも読んでいただきたいと思いました。

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柴田鉄治

しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。

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