柴田鉄治のメディア時評


その月に書かれた新聞やテレビ、雑誌などから、ジャーナリスト柴田さんが気になったいくつかの事柄を取り上げて、論評していきます。

shibata

 森友学園問題が、籠池泰典理事長の国会喚問で大炎上し、完全に「森友学園事件」となった。安倍首相夫人からの100万円の寄付があったかどうかの真偽はともかく、森友学園からの依頼を受けて安倍夫人付きの政府職員が財務省に問い合わせ、財務省からの「ご希望には沿えない」旨の返事を記したファックスが公開され、政府側もファックスの存在を認めたので、安倍夫人が「関与」したことは明らかとなった。
 まさか安倍夫人付きの政府職員が、夫人に黙って財務省に問い合わせるはずはなく、事実、返事のファックスには「本件は夫人にも報告しました」と書かれているのだ。
 「私や妻が国有財産の払い下げや小学校の認可に少しでも関わっていたら、総理大臣も国会議員も辞める」と国会で明言していた安倍首相は、さあ、どうする?
 森友学園問題のそもそもは、2月9日の朝日新聞のスクープからスタートした。大阪や九州の紙面が社会面トップだったことはともかく、東京の紙面は第2社会面という目立たない扱いにしたのは朝日新聞の「失敗」で、そのせいか読売新聞などはしばらく記事にしなかったことは前に記した通りである。
 その後、国会で取り上げられ、すべてのメディアが大々的に報じるようになったが、この事件の本質は、評価額9億5600万円の国有地を1億3200万円という超格安で払い下げたという疑惑である。8億円余も値引きしたのは、地下に埋まったゴミ処理費を計上したというのだが、その算定の根拠も示されず、学園側もそんなゴミ処理はしていないと言い、そのうえ、小学校の建設費として国から巨額の補助金まで受けているのだ。
 こんな「おいしい話」が実現した陰には政治家の関与があったに違いない、と当初から思われていた。なにしろ、この格安の払い下げの金額まで最初は非公開とされ、交渉経過の記録も廃棄されて残っていないというのだから。
 国有財産の払い下げにあたったのは大阪財務局(財務省)と大阪航空局(国土交通省)で、小学校の認可は大阪府だ。この三者とも「政治家の関与はなかった」と言うのだが、その論拠として挙げたのが「政治家の関与があったら交渉記録が残っているはず」というのだからあきれてしまう。
 その後、関与した政治家として鴻池祥肇・元防災相の名が挙がり、鴻池氏が記者会見して「分厚い札束入りと思われる封筒を渡されたが、バカにするな、と投げ返した」と身振り手振りでカネの授受だけは否定した。
 事態がここまで進んでも、森友学園の籠池理事長を国会に呼ぶことに、自民党と公明党が断固として反対していた。国有地払い下げの責任者が、麻生太郎副総理兼財務相と公明党から出ている国土交通相だからかな、と思ったが、そうではなかった。
 業を煮やした国会議員団が現地視察に訪れ、「安倍夫人から100万円の寄付をいただいた」という籠池理事長の爆弾発言が飛び出すや、仰天した自民党と公明党は、参考人として呼ぶことさえいやだいやだと言っていた態度を一変させ、ウソをつけば罰せられる証人として国会に呼ぶことを認めたのである。
 こうして実現した国会の証人喚問で、籠池氏は約4時間にわたってしゃべりまくった。100万円の寄付を受け取った場面は「幼稚園の園長室で人払いをされ、二人だけのところで」また「帰り際に10万円の講演料を菓子袋に入れた」と詳細に語り、国有地の価格が8億円も値引きされたことに「びっくりした」と言い、政治家の関与も「あったように思う」と証言した。
 それに対して安倍首相側はもちろん全面否定している。安倍夫人付きの政府職員が財務省に問い合わせて、その回答をファックスしたことまで、政府職員が勝手にやったことで夫人は知らなかったというのだから驚く。結局、どちらかがウソをついているわけだから、野党が安倍昭恵夫人らを国会で証人喚問したいと要求するのも無理はない。

新聞社説はそろって「安倍夫人の国会招致を」と主張

 籠池氏の証人喚問から一夜明けた3月24日の在京各紙の社説は、いつもは与党寄りの産経新聞まで「昭恵夫人を国会に呼ぶべきだ」と主張した。読売新聞だけは国会招致に触れていないが、真相の解明に「首相側と籠池氏側の双方がさらに誠実に説明を尽くすしかあるまい」と書いているのだから、まさか国会招致に反対ではあるまい。
 籠池氏はウソをつけば処罰される証人喚問に応じて説明したのだから、今度は首相側が国会で説明を尽くす番だ。証人喚問がきつすぎるなら参考人でもいいだろう。とにかく、新聞社説がそろって国会招致を求めているのだから、いまや国民の声だと言っていい。
 それなのに、与党は安倍夫人らの国会招致に断固として反対している。与党は何を恐れているのか。
 安倍夫人からの100万円寄付の真偽はともかく、籠池氏の国会証言で新たに浮かび上がってきた構図は、カネをもらって政治家が口利きをするというこれまでの疑惑とは違って、「安倍夫妻が強く応援している学校なら」と、財務省も国土交通省も大阪府も勝手に『忖度』して、便宜を図ったのではないか、という図式だ。
 とくに、第2次安倍政権になって各省庁の人事権を官邸が掌握したことで、そのような『忖度』がいっそう強まったのだろう。カネの動きが伴わない『忖度』による疑惑は、贈収賄事件にはなりにくいが、国有財産の格安の払い下げは、やはり犯罪である。国民が納得するような真相の解明を、国会にも、捜査機関にも、そしてメディアにも期待したい。

稲田防衛相の虚偽答弁と南スーダンからの『日報隠し』

 森友学園事件に関与している閣僚にもう一人、稲田防衛相がいる。籠池証言の前に国会で関係を問われて「裁判を頼まれたことも、法律相談を受けたことも一切ない。この10年間会ってもいない。関係あると言ったのなら虚偽だ」と断言したのに、籠池氏が原告の裁判に、原稿側の弁護士として出廷していたことが明るみに出て、国会で虚偽答弁を撤回して謝罪した。相手に「嘘つき」と言った本人が「自分の方が嘘つきだった」のだからひどい話だ。これだけでも閣僚の資格はないといえよう。
 それだけではない。さらに稲田防衛相の夫の弁護士が、籠池氏と財務省の交渉の場に立ち会っていたことまで明るみに出て、「でも、立ち会っただけでひと言も発しなかった」という見苦しい釈明までした人だ。
 稲田防衛相といえば、南スーダンに「駆けつけ警護」という新しい任務を付与して自衛隊を派遣した責任者だ。南スーダンでは首都ジュバで昨年7月に激しい戦闘があり、現地から戦闘と報告されていたのに「憲法違反の恐れがあるので、衝突と言い換えた」人でもある。
 現地からの日報が「廃棄された」とされていたのが、実は統幕にも陸幕にも保存されていたことが分かり、しかもその事実が1カ月も防衛相には知らされなかったという問題もあった。「日報を隠蔽しようとしたのではないか」と野党は追及しているが、南スーダンへの自衛隊派遣で防衛省内はガタガタだ。
 そのせいか、安倍首相は突然「南スーダンから自衛隊を引き揚げる」と発表した。「PKО活動に一区切りがついたから」という説明だが、そんな説明を信じる人はいないようだ。森友学園事件で窮地に立つなか、南スーダンの自衛隊に何かがあったら安倍政権が持たないと心配したのではないか、といった噂が飛び交っている。

経産省の執務室に施錠、「情報隠し」が一段と

 経済産業省の執務室が2月末から一斉に施錠され、同省記者クラブの記者たちまで締め出された。世耕弘成経産相の命令だそうで、取材記者は応接室で課長、室長以上が対応するというのだ。
 経済産業記者会では、直ちに抗議し、撤回を申し入れたが、世耕大臣に拒否され、全室施錠という異常な状態が1カ月以上も続いている。
 理由は「情報管理を徹底するため」というのだが、霞が関の中央官庁のなかで全執務室を施錠したのは経産省だけだ。
 森友学園事件では、ゴミ処理費の算定の根拠も示さず、交渉経過も廃棄され、防衛省では「日報隠し」、経産省では全室施錠、と安倍政権の情報隠しは一段と激しさを増している。安倍政権になってメディアに対する懐柔策やときには恫喝など、いろいろとやってきたが、いまや各省庁まで競い合っているかのようで、全室施錠とは「ついに来るところまで来たか」と唖然とさせられた。
 国民の「知る権利」について、安倍政権や各省庁はどう考えているのだろうか。

 

  

※コメントは承認制です。
第100回 森友学園事件に「関与」した政治家は安倍首相だったのだ!」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    共同通信による世論調査では、安倍晋三首相夫妻が国有地払い下げ問題への関与を否定していることに「納得できない」とする回答が62.6%で「納得できる」を大きく上回ったとのこと。「しっぽ切り」に終わるのでなく、どんなことが行われていたのか、そしてそれは森友学園だけの問題なのか、十分な追及と報道がなされることを願います。

  2. 鳴井 勝敏 より:

    > 国民の「知る権利」について、安倍政権や各省庁はどう考えているのだろうか。
    憲法99条に規定する「憲法尊重擁護義務」を見たことも読んだこともない面々に、「知る権利」について知る由も、考える由もないであろう。そもそも「知る権利」という文言は憲法にないのだ。彼等にあるのは「上司忠実義務」のみである。 忖度を生みやすい土壌は肥える一方である。民主主義が独裁政治に侵され、「法の支配」が後退する過程はナチス・ヒトラーを彷彿させる。
     「人民の、人民よる、人民の為の政治」。復刻新装版「憲法と君たち」佐藤功著にその意味するところをとても分かり易く書かれている。学びに遅いということはない。安倍氏に学びを勧める。
     書かれたのは60年前である。「人間が成長すれば、それだけ憲法も成長する」という既述がある。憲法破壊を目前にして納得である。

  3. まさお より:

    この柴田氏のご意見に
    まったく同感です!

    安倍昭恵総理夫人がこの事件に関与していたことが明白になりましたが、
    安倍総理は一向に辞めようとしませんね、、
    国会で あんなに威勢よく
    啖呵をきったくせに!

    みじめで恥ずかしい姿を晒してまで
    総理の地位にしがみつきたいのでしょうか?

  4. とろ より:

    >全室施錠という異常な状態

    この方は今の会社がどうなっているのか全くご存知ないんですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

柴田鉄治

しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。

最新10title : 柴田鉄治のメディア時評

Featuring Top 10/70 of 柴田鉄治のメディア時評

マガ9のコンテンツ

カテゴリー