マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ雨宮処凛がゆく!:バックナンバーへ

2011-04-06up

雨宮処凛がゆく!

第183回

原発やめろデモ! の巻

 なんとなく大地震で日本中が大変な中、言い出せなかったのだが、都内の私の家(すごいボロい)も今回の地震で打撃を受け、壁にヒビが入ったりしていてあともう一回くらいあのレベルの地震が来たらあっさりと倒壊しそうなので、現在、引っ越し作業の真っ最中だ。いや、ホントにマジでヤバい感じなのである。今現在、潰れていないことが奇跡としか言いようがないのだ。

 地震が起きた日も、真っ先に思ったのは「都内でうちだけ全壊してそう!」ということだった。もともと引っ越しを考えていたのだが、あの地震ですぐにいろいろ決め、もう少しでこの崩れかけた家から脱出するのである。ということで、3月11日以来、被災地でもないのに余震があるたび「生きた心地がしない」思いを味わわせてくれたこの家とももう少しでオサラバだ。近所ののら猫たちとの別れが切なすぎる・・・。

 ということで、タイトルの「原発やめろデモ」。4月10日、高円寺で開催される。呼びかけているのはマガジン9でもおなじみ松本さんと愉快な仲間たちの「素人の乱」。詳しくはこちらのサイトでご覧頂きたいが、続々と賛同メッセージが寄せられている。

 私ももちろん参加する予定だ。

 私自身、今まで原発について何かしたかと言えば本当に鈍感だったボンクラ人間で、唯一かかわったことと言えば、「上関原発建設中止を求めるジャーナリスト・言論文化人の会」の賛同人になったくらい。そんな自分のボンクラふりも反省しつつ、このデモには以下のようなコメントを寄せた。

 「こんなことになるまで原発問題について鈍感だった自分を今、猛烈に恥じている。とにかく、『反原発』の声をあげたい。あげなければいけない。特定の場所、誰かに犠牲を強いる社会はまっぴらだ」

 私自身、今までプレカリアート問題にかかわる中で、「必ず誰かが犠牲になる社会」のあり方に疑問を呈し、活動してきた。しかし、この構図は、原発問題にもすっぽり当てはまる。しかも複雑なのは、原発は地域の雇用や経済とがっちり結びついているということだ。自分は原発で働いていなくても、隣のおうちの○○さんも働いていて、同級生の○○ちゃんも働いていて、その上親戚も働いていて、なんてことが当たり前にある場所で、どうやって「原発の是非」について話せばいいのだろうか。例えば「反」という言葉自体が時に地元の人を傷つけてしまうかもしれない。

 今、被災している人の中には、当然ながら原発で働いていた人たちもいる。その中には、「原発で働いていた」ということに肩身を狭く感じている人もいるかもしれないし、怒りの対象にされている人もいるかもしれないし、人間関係をこじれさせてしまっている人もいるかもしれない。

 被曝の恐怖や住み慣れた場所から避難せざるを得ないことだけでなく、そういった人間関係のこじれのひとつひとつが、「誰かに犠牲を強いる社会」の構図そのものだと思うのだ。

 今回の地震を受けて、いろいな人と話をした。原発についても話した。印象に残っているのは、何人かの人が言ったことで、要約すると「反原発」=「一部のド左翼の人たちの主義主張」というふうにしか捉えていなかった、というものだ。この意見には、今後考えなければならないことが詰まっている気がする。本当は、日本中どころか世界中の人が当事者なのに、なぜか「一部の人の主義主張」と思われてしまっていた「反原発」。この背景にあるのは「絶対安全」という神話かもしれないし、地域の雇用などの関係から「触れられないもの」となっていた状況かもしれないし、私自身は詳しく知らないのでなんとも言えないものの、もしかしたら「反原発」運動のあり方にも見直すべき点はあるのかもしれない。

 そう考えると、私たちの生活は、無自覚にあまりにも多くの人の犠牲の上に成り立っていて、そして今、大災害によってそれが白日のもとに晒されたとも言えるのかもしれない。

 現実を知った今、これからどんな選択をしていくのか。誰もが問われていると思うのだ。ぜひ、デモに参加してほしい。今、いろいろな人と話し、交流するだけでも意味があると思うのだ。

←前へ次へ→

私たちの社会が抱える歪みや問題点が、
よりあらわな形で示されることにもなった今回の災害。
ここからまた、同じ社会へと戻っていくのか?
それとも、誰かを犠牲にすることのない、
違うあり方を模索するのか?
決めるのは私たち1人ひとりです。
「脱原発」のデモ情報はこちらにも!

ご意見・ご感想をお寄せください。

googleサイト内検索
カスタム検索
雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

「雨宮処凛がゆく!」
最新10title

バックナンバー一覧へ→