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2011-10-12up

〈マガジン9×グリーンピース〉コラボ企画:シリーズ「3.11以降を生きる vol.3」
河合弘之弁護士インタビュー(その2)「裁判闘争とデモや集会は、運動の両輪である」

浜岡原発差止訴訟弁護団長をつとめ、さきごろ「脱原発弁護団全国連絡会」を設立し代表をつとめる河合弘之弁護士は、長年、ビジネス弁護士として活躍する一方で、巨大利権構造の中にある電力会社や、「原発政策」は国策であることから結果的に国に対して真っ向から挑む闘いをし、死力をつくし闘ってきました。しかし結果は敗訴に次ぐ敗訴。それはなぜだったのでしょうか? そして裁判と社会運動は、車の両輪であるという河合氏が、現在は監事もつとめている国際環境NGOグリーンピースへ期待することなどを伺いました。

河合弘之(かわいひろゆき)1944年、旧満州生まれ。東京大学法学部卒業後、1970年より弁護士開業。さくら共同法律事務所所長。ビジネス弁護士としてM&A訴訟の草分け的存在として活躍する一方、中国残留孤児の国籍取得を支援する活動や、浜岡原発差止訴訟弁護団団長、大間原発差止訴訟弁護団共同代表を務め、現在も訴訟は進行中である。2011年7月16日、全国各地で原発裁判に取り組んできた弁護団による「脱原発弁護団全国連絡会」を立ち上げ、その代表にもなっている。近著『脱原発』(青志社)。グリーンピース・ジャパン監事。

「静岡地裁で敗訴となった浜岡原発差止訴訟。
 しかしその後、停止要請につながった。

河合  実は僕は最初、弁護士が裁判だけにのめり込むのはどうかなと思っていて、反原発の裁判には警戒的でした。ですから最初は一市民として高木さんのところに出入りしていたわけです。でも3年くらい経た頃に、海渡さんが「裁判を手伝って欲しい」と声をかけてこられたので、まあ、手伝うぐらいはいいかなあ、と思って。でも一度それをやった後は、どっぷりと裁判に関わるようになっていきました。

編集部  最初裁判に警戒的だったのは、なぜでしょうか?

河合  裁判だけやっても原発問題は解決しないと思っていました。ですから運動面もしくは政治的な面から「反原発、脱原発」をやろうと思っていました。しかし、今は裁判と市民運動は両輪だと思っています。運動は、メディアに無視されると、影響力って少ないですね。それにメディアは反原発のことは、よく無視しますから。しかし裁判というのは意外とメディアにとって無視しにくいものです。

編集部  裁判記録も残りますからね。

河合  そうです。訴訟を起こされたら裁判所は必ず判決を出さなくてなりません。重要な証人尋問があったらそれも報道されます。それらをテレビや新聞は報道していきますから、その情報は、市民にも行政にも政治にも浸透していく。浜岡原発はその典型的な例です。僕らが浜岡原発の差し止め訴訟を全くやっていなかったら、3・11の後に、菅直人前総理の浜岡原発の全機停止の要請には、ならなかったと思います。基本的には、集会やデモといった市民の大衆的な運動の広がりが重要ですが、裁判闘争の力も評価して欲しいと思います。

編集部  菅さんの浜岡原発停止要請の理由は、「巨大な東海地震が来る可能性が極めて高い。そうした時に過酷事故が再び起こることは否定できない」というものだったと思いますが、それは、河合さんたちが浜岡の裁判の中で、地震学者の石橋克彦さんや、元原発設計技師でサイエンスライターの田中三彦さんらを原告側の証人に招いて、繰り返し警告をしてきたことですからね。

河合  浜岡原発訴訟に取り組む時もそうでしたが、原発にとって一番危ないのは、何かと考えたんですよ。そうしたらまさにもう差し迫った危険がある。東海地震ですね。それから重大事故、過酷事故が起きたときの被害についても、浜岡原発がそのような事態になったら、首都圏にも大きな被害が及ぶということはわかりますね。東海道新幹線、東名高速道路、その他にもたくさん主要な幹線道路が走っている。そこが全部通行できなくなる、ということは日本が真っ二つになるということ。福島の時よりもひどい分断のされかたをします。

 これは僕の弁護士としての戦い方の信条なんだけど、相手の最も弱い所に打撃を与える。これは弁護士が裁判で相手に勝つためのコツなんです。僕はよく考えて、あ、ここだ、とね。そして三人の原告側証人は完璧な証言をしてくれた。でも判決は・・・なんというか意外な結果になってしまった。裁判官にだまされた(笑)。

編集部  敗訴になってしまったわけですが、ここに判決の一部を抜粋して紹介します。

2007年10月、静岡地裁(宮岡章裁判長、男澤聡子裁判官、戸室壮太郎裁判官)で行われた浜岡原発の差止裁判の判決より抜粋

「(地震について)確かに、我々が知り得る歴史上の事象は限られており、安政東海地震又は宝永東海地震の歴史上の南海トラフ沿いのプレート境界型地震の中で最大の地震でない可能性を全く否定することまではできない」 「しかし、このような抽象的な可能性の域を出ない巨大地震を国の施策上むやみに考慮することは避けなければならない」(判決114頁)

「(地震時には安全システムも同時に故障するという原告の主張について)しかしながら、全体として本件原子炉施設の安全性が確保されるのであれば、安全評価審査指針が定めるように、安全設計審査指針に基づいて別途設計上の考慮がされることを前提に、内部事象としての異常事態について単一故障の仮定による安全評価をするという方法をとることも、それ自体として不合理ではない。そして、原子炉施設においては、安全評価審査指針に基づく安全評価とは別に耐震設計審査指針等の基準を満たすことが要請され、 その基準を満たしていれば安全上重要な施設が同時に複数故障するということはおよそ考えられないのであるから、安全評価の過程においてまで地震発生を共通原因とした故障の仮定をする必要は認められず、内部事象としての異常事態について単一故障の仮定をすれば十分であると認められる。したがって、原告らが主張するようなシュラウドの分離、複数の再循環配管破断の同時発生、複数の主蒸気管の同時破断、停電時非常用ディーゼル発電機の2 台同時起動失敗等の複数同時故障を想定する必要はない。」(原判決106頁)

編集部  先生のご著書『脱原発』にもそのあたりの経緯については、詳しく書かれていますが、宮岡裁判長は、東京都国立市の景観訴訟のときに画期的な判決(マンションの20メートル以上部分の撤去を命じた)を出した裁判官でしたので、その判決は意外でしたね。そういう裁判官でさえも、「原発の安全神話」にすっかり取り込まれていたわけですね。

河合  そういうことでしょうね。

「脱原発弁護団全国連絡会」設立!

編集部  しかし、3・11が起こりました。「安全神話」が完全に崩壊したことは誰の目にも明らかです。この判決も誤りだということが、はっきりしたわけですけど、次の闘いがもうはじまっているんですよね? 

河合  裁判官にとっても、国の専門機関の許可や指針をパスしたものが、重大事故を起こしたのだから、指針などはもう信用できないし、御用学者も肩書きばかりでいい加減だと分かったわけです。そこで安易に運転容認判決を書いて、後に事故がおきたら責任を問われかねない(歴史にも汚名を残す)ということで、さすがに彼らの顔つきや態度が変わってきたように感じます。
 だから今こそ新しい訴訟を起こそう、敗訴により運動が停滞しているところ、訴訟が起きていなかったところ、継続中の訴訟も新たな気持ちで取り組もう、そう呼びかけています。
 これまでは、各地それぞれの闘いで精一杯で、団結や情報交換ができてこなかった。そこで、「脱原発弁護団全国連絡会」を立ち上げ、横のつながりをもちつつ、「原発の危険性が明らかになった今、原発の存続を絶対に容認できない!全国各地の全ての原発の即時停止を!」ということで、結成しました。私がその代表です。

編集部  すごいですね! 全原発立地で行うんですね。

河合  私が一人で行うわけではありませんよ。今、110人の弁護士が参加を表明してくれています。そして、各自治体や地域の市民と協力して行うことになります。

3・11以降、さまざまな変化を感じて

編集部  市民との協力が不可避という話や、裁判と市民運動は両輪であるべきだとの持論をおっしゃいましたが、現在、河合弁護士は、グリーンピース・ジャパンの監事でもいらっしゃいますね。グリーンピースは、国際NGOの立場から市民と連携して様々なアクションを起こしていますが、先生はNGOの活動をどうみてらっしゃいますか?

河合  以前は、実をいうとグリーンピースのことは、すごく警戒していました。日本ではあまりいいイメージがなかったからね。でも世界的な環境団体であることは知っていたので、どのような運営がされているのか、そこへの興味はすごくありました。好奇心があったわけ。前理事長の海渡弁護士に頼まれて入ってみると、全て英語で行う会議には面食らったけれど、なかなかすごい団体だな、と思いましたね。

編集部  というと?

河合  組織としてしっかりしている。方針の立て方とか、企画立案の段階でも観念に流れないで、今地球にとって何が一番大事かという問題と、グリーンピースがそれに貢献できるとすればどういうやり方があるのか、とか常に地球レベルで物事を考えています。日本国内のNGO団体に比べたら・・・やることに凄みがある。世界的に見れば資金的にも凄みがあるし、構想においても凄みがある。だからと言って過激ではなく、もちろん非暴力で平和的。よく混同されるけど、シーシェパードなどとは明らかに一線を画して、大衆を率いて運動をしている。クジラ肉の問題(*)の時もかなり先鋭的な闘いをして、裁判になってしまったけれど、グリーンピースの本部は、後ろからちゃんとバックアップしていた。

編集部  クジラ肉裁判は、先日高裁で有罪確定しましたが、「知る権利」や「表現の自由」についての、一つの問題提起をしてくれたと私も見ています。
http://www.magazine9.jp/ashita/101124/

河合  震災後のグリーンピースの動きは見事だと思いました。チェルノブイリでの経験がある放射能の専門家が日本にやってきて放射線測定チームを結成し、飯舘村にいち早く入って放射線量を計測。そしてホットスポットであることを国が発表する前に記者会見で指摘し、ここから住民を退避させるべきだと政府に要求した。あのような素早いアクションとデ―タに基づいた活動は、実際に政府を動かしたり、メディアに対しても影響力がありました。
 グリーンピースは、そもそも反核からスタートした団体ですし、「原発反対」でこれまでもずっとやってきたわけですが、3・11を踏まえて、さらにそのことを言っていけば、日本における支持も高くなるのではないでしょうか。
 僕自身のことを言うと、3・11以降、僕へのまわりの反応ががらりと変わりましたからね。「河合さん、原発を止める裁判なんて、いいことやってえらいんだねー」と。今までそんな事、誰も言わなかったから。それから原発推進派だった人も僕の書いた本を読んで、「原発は安全でないことがよくわかった。宗旨替えする」と言った人がたくさんいます。本の対談相手の大下英治さんも、「原発は必要悪なんじゃないのかな」と最初は思っていたそうですが、対談をしていく上で、わかったと言ってくれました。だから、グリーンピースにとっても、日本で支持を広げていくチャンスですよ。僕からもリクエストします。これからは、日本における脱原発運動、そこを重点において活動して欲しいと思います。

編集部  今の放射能汚染は、史上最悪の環境汚染であると、先日細野大臣もコメントしていたほど、日本だけでなく世界の国々にとっても、深刻な環境の問題ですからね。国際環境NGOの出番はますます大きくなるでしょう。日本の市民も情報を得ながら自ら判断し、協力をしたりサポートしていければと思います。

グリンピースへの支援のお願い。

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