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2013-02-13up

マガ9対談:川口創さん×半田滋さん「検証:9条を骨抜きにするいくつかの方法について」その1:集団的自衛権行使に向けて踏み出した安倍政権

その1その2

解釈改憲が重ねられ、9条を骨抜きにする法律の制定を国会の多数派が目指す…。憲法改正は主権者である国民が「国民投票」で決める、そう信じてこれまで来ましたが、それさえも危うい状況になってきました。
「9条」は政治問題だから、そこには与したくないという声も巷にはあるようですが、憲法をどうするかは私たちの問題。ましてや日本国憲法の理念の根幹である「平和主義」に関わる大テーマです。これを敬遠するのではなく、当たり前にみんなが話し、自分の意見を持ち、言い合える社会を目指したいと思います。ということで今回のマガ9対談は、イラク派兵差止訴訟の川口創弁護士と、防衛省と自衛隊の活動に詳しい東京新聞論説委員の半田滋さんに、憲法9条と安全保障をとりまく現状について、お話しいただきました。

川口 創(かわぐち・はじめ)1972年埼玉県生まれ。2004年2月にイラク派兵差止訴訟を提訴。2008年4月17日に、名古屋高裁において、「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的違憲判決を得る。2006年1月『季刊刑事弁護』誌上において、第3回刑事弁護最優秀新人賞受賞。現在は「一人一票実現訴訟」にも積極的に参加。公式HP、ツイッターでも日々発信中。 著書に『「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(大塚英志との共著・角川グループパブリッシング)がある。マガジン9では、<川口創弁護士の「憲法はこう使え!」>を連載中。

半田 滋(はんだ・しげる)1955年栃木県生まれ。東京新聞論説委員兼編集委員。1993年、防衛庁防衛研究所特別課程修了。1992年より防衛庁(省)取材を担当。米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど自衛隊の活動にまつわる海外取材の経験も豊富。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『自衛隊VS.北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊~ 肥大化する自衛隊の苦悶』(講談社+α新書)、『「戦地派遣」 変わる自衛隊』(岩波新書)=2009年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『ドキュメント 防衛融解 指針なき日本の安全保障』(旬報社)などがある。

●解釈改憲を進めてから明文改憲へと進む

編集部  新聞などでも既に報道されていますが、5年半ぶりに集団的自衛権行使を巡る論議が再開されました。この議論は第一次安倍内閣の時に、安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使、以下安保法制懇)が、自衛隊の活動をめぐる4つの類型について「研究をする」というものでしたが、安倍首相の突然の退陣により報告書は宙に浮き、次の福田首相は行使容認に消極的だったので、議論もストップしていたというこれまでの経緯があります。安倍首相は、選挙後早々に「再び(集団的自衛権については)検討を始めたい」と語っていたので、予定されていたことではありますが…。

川口  まず、現状から確認していきたいと思います。自民党の大きな狙いは9条の明文改憲ですが、これはハードルが高いので、同時に解釈改憲もねらっていくということは、安倍晋三首相も「国家安全保障基本法」の制定を「悲願」とする石破茂幹事長も一致しているところだと思います。
 2月の末に安倍首相が訪米をし、オバマ大統領と会談することが決まっていますが、その時の手みやげに集団的自衛権について、これまでの日本政府の解釈(注1)を変えるということを言うのではないか、と言われていました。そのために、前の安倍政権の時につくっていた懇談会を復活させて「4つの類型」についての検討会を始動させたのです。さらに「国家安全保障基本法」の概要についても、昨年の7月自民党の総務会で決定されていますから、これの法制化についても本気で取り組むことが予想されます。

注1: 1981年の政府答弁「わが国が主権国家である以上、集団的自衛権を有しているが、憲法9条で許容される必要最小限の範囲を超え、行使は許されない」があり、「憲法改正を経なければ集団的自衛権の行使は行えないはずだ」とするのが現在の政府見解である。

半田  本丸の目的が最終的には憲法改正であることは間違いないと思うのですが、そのための道のりを考えていくと、実行可能なところからやって行きましょう、そしてそれが改憲の近道でもあるという考え方があるように思います。集団的自衛権の行使が、解釈改憲や国家安全保障基本法の制定によって、認められてしまうと、憲法9条の意味がまったくなくなる。ゆえに明文改憲がやりやすくなる、という関係にはあるでしょう。
 与党は、改憲のための国民投票を行う発議に必要な国会議員の2/3という勢力について、衆議院ではすでに数を満たしていますが、参議院ではそこに至らないので、この夏の参議院選挙まで本音を隠しておいて、比較的国民が関心を持ちそうな財政再建の方に全力投球と見せかけて、実際のところは、着々と準備を整えていこうというところではないでしょうか。
 安倍さんの本音を言うと、集団的自衛権の行使と憲法改正については、この4年間の間にできたらいいと考えていると思うので、今年の上半期には出てこなくても、後半以降は必ず顔を出してくるテーマだと思います。

川口  7月の参議院選挙後で自民党が勝てば、必ず出してくるでしょうね。集団的自衛権の4類型の解釈をどのタイミングで国民の前に出してくるか、ということもありますが、一方で国家安全保障基本法の成立を議員立法で目指すという動きもありますからね。

半田  あの法律が通ると、憲法解釈を政府が変更するという手続きもいらなくなりますからね。集団的自衛権の行使だけでなく、国民の義務や秘密保全法、海外での武力行使についても、全部入っている。

●「国家安全保障基本法」が通れば、
9条は意味をなさなくなる

編集部  その法案の問題点について詳しく説明いただけますか?

川口  「国家安全保障基本法案」の概要は、自民党のホームページにもpdfがアップされていますが、まだあまり皆さんに知られていないようですね。書かれているものを読むと、法律家の私から見ても、「プロ」が関わっているなという気がします。衆議院法制局あたりがすでに手を入れているのではないかなと思います。私がいくつか気になったポイントをあげておきましょう。

第4条(国民の責務)
 国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に関与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする。

 ここでは、国の安全保障施策に対する国民の協力義務がでてきます。国民が国防に協力すべき義務を定めると同時に、これに反対するような反戦平和運動などが弾圧される根拠になり得ます。

第8条(自衛隊)
 外部からの軍事的手段による直接または間接の侵害その他の脅威に対し我が国を防衛するため、陸上・海上・航空自衛隊を保有する。

 ここでは自衛隊の役割を明確に定めていますが、この役割の範囲を、「間接の侵害その他の脅威」と無限定に広げています。地理的活動範囲は無限定と解釈できます。

2 自衛隊は、国際の法規および確立された国際慣例に則り、厳格な文民統制の下に行動する。

 さらに2項では、憲法9条2項後段が禁止する交戦権も、この規定で行使可能にしようとしています。憲法9条は交戦権を否定していますが、ここではそれを突破することになります。

第10条(国際連合憲章に定められた自衛権の行使)
 第2条第2項第4号の基本方針に基づき、我が国が自衛権を行使する場合には、以下の事項を遵守しなければならない。
 一 我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力行使が発生した事態であること。
 二 自衛権行使に当たって採った措置を、直ちに国際連合安全保障理事会に報告すること。
 三 この措置は、国際連合安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置が講じられたときに終了すること。

 この一号は、正面から集団的自衛権を認める規定です。その他、要件をいろいろ書いていますが、国連憲章上の規定を引用しているだけで、歯止めには全くなりません。

第11条(国際連合憲章上定められた安全保障措置等への参加)
 我が国が国際連合憲章上定められ、又は国際連合安全保障理事会で決議された等の、各種の安全保障措置等に参加する場合には、以下の条項に留意しなければならない。
 一 当該安全保障措置等の目的が我が国の防衛、外交、経済その他の諸政策と合致すること。
 二 予め当該安全保障措置等の実施主体との十分な調整、派遣する国及び地域の情勢についての十分な情報収集等を行い、我が国が実施する措置の目的・任務を、明確にすること。

(追記)
本条の下位法として国際平和協力法案(いわゆる一般法)を予定。

 またこの下位法として用意されている国際平和協力法案は、海外での治安維持活動に参加することを前提にしたかなり踏み込んだものになっています。安保理決議があった場合は、日本も当然参加する、ということでしょう。

第12条(武器の輸出等)
 国は、我が国及び国際社会の平和と安全を確保するとの観点から、防衛に資する産業基盤の保持及び育成につき配慮する。

 ここでは武器の輸出入について書かれていて、なんとなく縛りをかけているような法律の文章になっていますが、そうではありません。原則と例外が逆転していて、縛りをかけているように見せつつ、実際には憲法によって縛りをかけていたものを原則全部OKにしています。他の条文も全部そうですね。申し訳程度に、少しだけ歯止めをかけているという感じです。

●日本国憲法の根幹を変えてしまう、
法律を議員立法で提出するという「禁じ手」

川口  ですからこの法案は、内閣法制局に出した場合は、絶対に通りません。憲法に完全に違反していますし、これまでの政府見解とも異なりますから。しかし今回はこれを、議員立法で出そうとしている。ということは、内閣法制局を通さなくていいんですね。

編集部  どういうことでしょうか?

川口  法案の通し方は二通りあります。政府が法律を提案する場合、いわゆる「閣法」は、内閣法制局において法体系の頂点である憲法に違反していないか、これまでの政府解釈に違反していないかをチェックします。矛盾が生じると法治国家として成り立たなくなりますからね。内閣法制局が「行政府における法の番人」と呼ばれている所以です。
 それに対して、国会も立法機関ですから、議員が法律を提案することはできます。そこで議員立法を支えるために衆議院には衆議院法制局が、参議院には参議院法制局があります。
 内閣法制局というのは、明治18年の内閣制度が創設された年に、内閣総理大臣の管理下に置かれた歴史のある法制機関でして、要は国家の根幹なんです。当時は大日本帝国憲法ですが、法治国家である以上は、憲法の解釈がずれてはいけない、という大前提のもと、当時から憲法審査権もあるし解釈権も持っている。一方、衆議院と参議院の法制局は、あくまでも議員の立法のお手伝いという立場なので、「これは違憲だろう」と思っても「この法律は憲法違反になるからおかしい」と提案者に突っぱねる、という権限も持っていません。ですから、基本的には提案した議員の言われたとおりにやるんです。わかりやすく言うと、同じ法律問題について、自民党から依頼があっても、共産党から依頼があっても、それぞれに対して衆議院法制局は依頼に応じて異なる法律案を作ってあげる、ということがありうるわけです。

編集部  なるほど。

川口  議員立法の場合、国会が立法機関ということで、国民の声をなるべく法案提出に反映させよう、という意図から、衆議院法制局が立法の手伝いをして法案にまとめ、議員立法という形で国会に発議されていきます。しかし、議員立法の場合には、閣法と違って、各省庁のすりあわせなどをしているわけでも、憲法上の審査をしているわけでもありません。結局国会の審議の過程で法律として成立しない確率が高いんです。
 しかし、単純に数の力を借りてやれば、通すことは可能なんです。これは「禁じ手」といえばそうです。今までの憲法解釈を変えてしまうような重大な法律が多数という数によって成立することになりますからね。
 これは、法治国家、立憲主義の柱として積み重ねてきた内閣法制局のあり方自体を否定するものだと思います。「国家安全保障基本法」の制定に向けて、自民党はこういう乱暴なことをやろうとしているわけなんですね。

 ですから自民党の中でも、中谷元さんらは、反対しています。中谷さんは、憲法改正推進本部起草委員会の委員長を務めていますが、彼のように、憲法改正を本気でやりたい人は、正面からやるべきだと主張しています。やるなら明文改憲でやれと。こういうのは姑息なやり方だと。しかしいずれにしても、自民党の機関決定を終えているので、自民党としては、この制定に向けて党としても取り組むということを決めたということです。

半田  自民党総務会の議論においても、結構紛糾しているんですね。ここに書かれてあることは憲法を変えないとできないんじゃないか、という声は自民党内部にもかなりあったようです。最後、高村正彦さんによって、「これは一つの政治決断だ。政治として憲法の解釈を変えていく」といった主旨の発言があったようです。この後の段取りとしては、衆議院法制局と自民党政務調査会(政調)が「概要」から細かな法案に落としていくという作業に入っていくんでしょう。

川口  でもこの「概要」はすでに法案として完成している。よく練った上で作ったなという感じがします。

編集部  昨年末の衆院選の時には、すでに決定していたわけですね。

半田  政治状況でみると、民主党政権が国民の支持を失って、いずれ自民党にもどるだろうな、というタイミングで総務会の決定をしているんですね。かつては与党としての矜持もあったわけですが、宮沢喜一さん、野中広務さんらハト派が消え自民党も変わってきたな、という中でこういうものを議員立法で出してくる、ということになったんだと思います。

編集部  しかしこれが法律として通ったら憲法9条の歯止めなんて何の役にも立たなかった、ということになりますよね。自民党もかつては、やろうと思ったらできたけれど、それはやらなかったということですか。

半田  この法案を最初に言い出した人をみると、新日米同盟プロジェクトという日米同盟推進の研究者たちの集まりの会合があり、その中で大阪大学の坂元一哉教授がこのやり方を提案したんです。2001年頃の議論です。この新日米同盟プロジェクトのメンバーと、安保法制懇のメンバーがほとんど重なっているのですから、出てくる結果についても同じ方向性のものになる、と言わざるを得ないでしょう。

●集団的自衛権の4類型の議論とは何なのか?

川口  この法案と集団的自衛権行使を巡る4類型の議論とは、ワンセットで考えて行かないといけない、と思っています。国家安全保障基本法10条でも集団的自衛権の行使が可能になるわけですが、そもそも集団的自衛権を認める必要がある、というロジックで使われてきたのが、この4類型の検討なんですね。集団的自衛権を行使できるようにする狙いは、アメリカの要求に答えて、自衛隊をアメリカの海外展開のために使う、ということだと思いますが、しかし日本国内で世論を説得するためには、こうしたロジックが必要なわけですね。

編集部  第一次安倍政権の時よりも、より厳しさをました安全保障をめぐる環境が、第二次安倍政権の安倍首相の背中を押している、と評した新聞もありました。実際、「テロもあるが、国家による脅威も厳しさを増している。そういう問題を含め、4類型のほかにも脅威の現れ方はあるはずなので検討する」(柳井座長)と、検討の対象を広げる方針であることが伝えられています。

川口  広げていくでしょうね。しかしまずはこの4類型はしっかり押さえておく必要があります。

編集部  先般出された安保法制懇の報告書によると、
  •公海上での米艦艇への攻撃への応戦
  •米国に向かう弾道ミサイルの迎撃
  •国際平和活動をともにする他国部隊への「駆けつけ警護」
  •国際平和活動に参加する他国への後方支援

 これらをすべて可能にするように提言し、1)と2)は、集団的自衛権の行使を認める必要がある、としていますね。

半田  メディアの側もこれらを行わなかったら、日米同盟は破綻するぞ、とまるでおどしのように、書き立てていますね。

編集部  安倍首相が「自衛隊艦とともに航行している米軍艦が攻撃されているのに助けなかったら、日米同盟は終わる」と述べた言葉が、もっともらしく広まっています。

半田  しかし僕ら自衛隊をずっと取材してきたものからみると、これらの議論や設定は非常に陳腐であり噴飯ものだと感じています。大きく言えば、これらの議論というのは、アメリカという国を本気で攻撃する国があることが前提でないといけないわけですよ。例えばアメリカ本土を狙ったミサイルというのは、どこかの国が撃つわけでしょう? テロリストが小舟の上から撃つなんていうことはありえないわけだから。アメリカに対して戦争をふっかけるために、移動中のアメリカの軍艦に対して攻撃できる道具としては、対艦ミサイルか魚雷での攻撃しかない。しかし、ミサイルや魚雷を持っているテロリストはいるんでしょうか? そう考えると、やはりこれは国対国の正規戦を想定しているんでしょう。

 アメリカの軍事力というのは、世界中の国が全部集まって連合軍を作っても絶対に正規戦じゃ勝てないほど強大なものです。空母も11隻持っていますが、あの1隻に搭載されている戦闘機の量は、一国の空軍をはるかに凌ぐぐらいのものです。それ以外にも潜水艦が70〜80隻。日本では6隻しかないイージス艦も70隻持っています。また陸軍においては、戦後日本は一度も戦争をやってきていませんが、その間、戦闘地に出かけていってずっと戦争を続けてきたベテランの兵士を含む、50万以上の陸軍兵がいます。そして海兵隊は17万人います。こんな国に対してどこの国が戦争をしかけますか? というのをまず問いたいですね。

●現実離れしている「シチュエーション」を
議論する意図は?

半田  もっと専門的に分析していくと、艦艇を攻撃できるのは、対艦ミサイルと魚雷しかない。ミサイルに対する防御というのは、船の方もミサイルで迎撃するんですね、遠いところから。で、近くまできたら大砲でも対空火砲といって、弾幕を張ってそこで落とすと。一応自衛隊の船も武器は載せています。つまり自分の船を自分で守れるように作っているんです。軍艦というのはそういうものなのです。ところが、ここで言っているのは、並走する船を守るというわけですが、そもそも並走する船というのはまずないわけです。
 軍艦にとっては、潜水艦からの攻撃が一番怖いので、オペレーションをする時も、潜水艦の音が自分のスクリュー音とか、並走する艦艇の音に混じって聞き取れないと致命傷になりますから、船同士はものすごく離れています。以前、リムパック(環太平洋合同演習:アメリカ海軍主催による軍事演習。自衛隊は1980年から参加)の取材に行き自衛隊の護衛艦に同乗しましたが、どこにアメリカの船がいるかわからないくらい離れていました。ですから「並走する」という状況がまずありません。

川口  並走しちゃいかんのですね。

半田  そんな馬鹿なことをする船はありません。おそらくこの設問を考えている人は、日本海海戦(1905年、日露戦争中に行われた日本海軍の連合艦隊とロシア海軍の太平洋艦隊との海戦)をイメージしているんじゃないかなと思います。ロシアのバルチック艦隊と大日本帝国海軍の連合艦隊が日本海でまみえると。あのときに丁字戦法といって、一列になって向かってくるバルチック艦隊に対してあえて進路を塞ぐ形の丁の字になって戦ったそうですから、その時は確かに並走もしただろうなと思いますが、それは明治時代の話(笑)。
 現代の水上艦では並走はしません。
 それと仮に現代戦において、自衛隊の艦隊が遠く離れているアメリカの艦艇がやられると気がついたとして、自衛隊の護衛艦は、自分に向かっていないレーダー波を探知して横から撃つことはできないんです。つまり集団的自衛権を行使して守ってあげたいと言ったところで、守るための能力を現在の自衛隊の船は保有していません。

 では、魚雷についてはどうなのかというと、今の魚雷というのは様々な種類がありますが、一度狙われたら逃げられない。百発百中なんです。よく潜水艦が登場する戦争映画などで、艦長が潜望鏡を見て撃つでしょ。すると魚雷はまっすぐ進んでいきますが、現在の魚雷はそういう撃ち方はせずに、わざと曲げて撃つんです。そうしないと潜水艦が攻撃される可能性がありますし、ものすごく複雑になっている。つまり狙われてしまったら助かりようがないというのが魚雷による攻撃です。

川口  今の軍事技術は『沈黙の艦隊』レベルの知識では追いつかないですね。

半田  素人がイメージするような世界とは、かけ離れています。だからこのような状況を想定して懇談会で議論するということ事態がもうおかしいのです。

編集部  洋上補給しているときはどうなんでしょうか? その時にどこからか攻撃されたらどうするのか? という設問もありそうですね。

半田  洋上補給しているときは相手の艦艇との距離が50メートルくらいしか離れていないわけです。これは、私はインド洋の洋上補給を何回も現場にいって取材しているからわかることですが、日本の補給艦のところに、補給を受けたいアメリカやパキスタンの艦艇が来ますよね。で横に並ぶわけですが、必ずその後ろに自衛隊の護衛艦がつきます。そこでは、ミサイルが飛んでくる、航空機が飛んでくる、潜水艦がくるかもしれない、というのを警戒しながらいるわけですが、結局ここでは、50メートルしか離れていないわけですから、個別的自衛権で対処する以外にはないわけです。これは国会でも答弁されています。
 しかし、アメリカの艦艇と日本の船が並走している時にアメリカの船が攻撃されたら、というのはあまりにも考えられない状況です。たまにアメリカの空母が真ん中にあって、日本の艦艇がその周りにいるという場面の映像を見ることがあるかもしれませんが、あれはフォト・エクササイズと言って、写真を撮るために艦艇が集まってきているだけであって、実際のオペレーションというのは、肉眼でやっとみえるくらい、どこにいるかわからないくらいお互いに離れているんですよ。

●弾道ミサイルを迎撃できるという幻想

編集部  なるほど。ミサイルの場合はどうなんでしょうか? 「アメリカに向かう弾道ミサイルを迎撃して撃ち落とさないと日米同盟を揺るがす」という報告が安保法制懇から出されていましたが。想定するのは、今の場合だと北朝鮮からのミサイルということになりますが…。

半田  北朝鮮によって「テポドン2」が撃たれたと仮定して、あれを迎撃できるミサイルというのは現状では存在していないんですよ。先日も北朝鮮が発射するというのでイージス艦が日米で出ましたが、実際にやったことは、観測しただけなんです。なぜ迎撃できないかと言えば、「テポドン2」は、迎撃ミサイルよりはるかに高い高度を飛んでいきましたから、イージス艦が今持っている迎撃ミサイルのSM3ブロック1では、とても追撃できない。みんな迎撃ミサイルというと、まさに「ポンチ絵」なんだけれど、敵のミサイルがやってきたときに待ち構えていて、撃ち落としていると思っている。でも実際は追尾して撃っているんですよ。追い撃ちなんです。だから弾道ミサイルを追い越していくだけの速度が迎撃ミサイルにないと、当たらない。しかしそれが、長い距離を飛ぶテポドン2のような場合は、音速の10倍を越えるはるかに速い速度で飛んでいっちゃうもんだから、とてもじゃないけど今持っている日米のSM3ブロック1では撃てない。もうあっという間に追い越されちゃう。追いつく間もなく行っちゃう。でこれを撃てるようになるのが、日米で共同開発しているSM3ブロック2Aなんでけど、これは10年以上研究・開発しているけど、まだ完成していないんです。
 それにアメリカは迎撃ミサイルを搭載できるイージス艦を26隻持っていますが、それに対して日本は4隻しかない。アメリカに向かっていくミサイルを迎撃するのに日本の4隻ではなくて、アメリカの26隻でやっていただいたほうが確実じゃないですかと、言いたいですね。

編集部  こう見ていくと、そもそもアメリカのような国を攻撃する国はないだろうし、万が一アメリカが攻撃されたとして、その時に日本ができることはないですね。

半田  それにアメリカだけが攻撃されて日本だけが無傷だと懇談会のみなさん、思っているんですか? とも問いたいですね。つまりアメリカが攻撃されるということは、在日米軍基地があってアメリカ軍兵士が5万人いる日本が無傷ということはないでしょう。日米同盟ってそのためのものじゃないの。そう考えていくと、日本も防衛しなきゃいけないと。すると、日本にあるイージス艦は、日本を守るためにしか使えませんよ、という状況になることは当然出てくるでしょう。

 ミサイルの飛行ルートにしても、例えば北朝鮮から日本を狙って撃ったものは、日本海を横断してきますが、アメリカ本土を狙ったものは、樺太より北に撃たれる。場合に寄ってはウラジオストクよりも西寄りのコースを選ぶでしょう。そう考えていくと、イージス艦の配置からしてまるで、みなさんが想定しているような状況とは違ってくるわけです。

 あと付け加えると、みんな勘違いしていると思うんですけれど、去年2回人工衛星の発射と称して北朝鮮がミサイルを撃ち上げたと日本政府が言っていたとき、アメリカは弾道ミサイルを追跡するイージス艦や弾道ミサイル観測艦を何隻か出したんだけど、あれは別に日本を防衛するためにやったわけではないですからね。あれは、北朝鮮にアメリカに届くような長距離ミサイルを持つ技術があるかどうかを確認に来ていたわけですから。日本のイージス艦は日本を守るためにいたかもしれなけれど、アメリカのイージス艦はそうじゃない。

編集部  あの打ち上げは、北朝鮮としては成功したんですか?

半田  成功ですね。人工衛星として電波を出すなどの動きは確認されていないけれど軌道に乗ったことは間違いなくて、韓国が2回連続して失敗したのに比べると、北朝鮮のほうが人工衛星技術は進んだと言えます。韓国は今年になって成功しましたが。

川口  確かに、北朝鮮の動向は、慎重に見ていく必要はありますが、北朝鮮が行っているのは瀬戸際外交で、核実験+弾道ミサイル技術をちらつかせながら、アメリカや六カ国協議相手にずっとやってきているわけだから、本気でアメリカ本土を攻撃しようと狙ってやっているわけではありません。核実験は問題ですが、日本が過敏に反応しすぎるのはかどうか、と思いますね。

半田  アメリカ本土に向かって一発撃てるかもしれないけれど、もし北朝鮮がそんなことをしたら、最終的にはアメリカと国際社会からコテンパンにやられちゃって、国がなくなっちゃいますよね。そんな無謀なことを、為政者がやるはずがない。

●ありえない状況の設問をつくり、
世論のミスリードをさそっている

編集部  そもそもこの4類型を議論することの目的は、国内において、集団的自衛権行使は、やはりできるようにしないといけない、という世論を作ることにあるわけですね。建前は、日米同盟や安全保障、国際社会における平和協力といった現実的な問題として考えようということになっているようですが、こうやって、専門的に見ていくと、まったく現実離れしているし、机上の空論だということがわかります。

半田  この4類型というのは、安倍さんが考えたわけではなく、前から集団的自衛権が行使できるようにした方がいいとか、海外における武力行使ができるようにした方がいいと思っている人がいて、その「専門家」たちが、わかりやすい「たとえ話」を考えて、4類型ということで出してきたんです。
 集団的自衛権の行使を考える場合として、もうひとつ設問を増やすとしたら、例えばアメリカが海外で戦争をはじめた時に、日米同盟を組んでいる日本は、アメリカを必ず支援しなければいけないのでしょうか? ということを入れるべきだと思います。例えば、アメリカはイラク戦争、アフガン戦争を行いましたが、イギリスは集団的自衛権の行使という形でこの2つの戦争に参戦しました。しかし、あのイラク戦争が正しかったと思っている人はそう多くはないでしょう。イラクが大量破壊兵器を隠し持っている、だから先制的な自衛権を行使しないと、アメリカが9・11の二の舞になるからという理屈でアメリカはイラクに戦争をしかけましたが、実はそれは嘘だったわけですね。アメリカも間違えるわけです。

編集部  そういう間違った戦争をアメリカがしている時、集団的自衛権というのをどう考えるのか? ということですね。そもそも戦争に正しいも間違いもない気がしますが。

川口  この4類型は、バーチャルに日本人が想像しやすい、しかも誤解しやすいものをよく選んだなと思います。実際に議論をしている専門家の人たちは、そこそこに軍事についても安全保障についても知識を持っているはずですから、内心はこんなことはありえないと分かっていて、出しているように感じます。

編集部  一番と二番は現実的にありえないと。すると、三番と四番の「国際平和活動」に関してはどうなんでしょうか?

半田  一番と二番は世論のミスリードを誘うという意味で悪質ですが、三番と四番については、ちょっと力技で持ってきたという印象ですね。

川口  これについては、憲法9条とイラク訴訟から考えていくことができるでしょう。

(構成/塚田壽子 写真/マガジン9)

その2へつづきます

2月12日に北朝鮮が3度目の核実験を行ったとのニュースが駆け巡り、メディアは早速「安全保障と改憲」をテーマに取り上げ始めました。この議論、原発問題と同様に市民不在のまま進んでいくことに、強い危惧を持っています。安全保障は国家におけるハイレベルの問題かもしれませんが、憲法をどうするかは、主権者自らが情報を集め、判断をするべき事柄です。
川口さんと半田さんを講師に迎え、さらに踏み込んだ議論を、3月2日(土)のマガ9学校で予定しています。テーマは、〈日本は「平和国家」の看板を下ろすのか?〉詳細と参加申し込みはこちら

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