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2013-07-10up

2013参院選を前に~今、私が言いたいこと~

使命を忘れたメディアは国家を崩壊させる
松宮 光興

 自民党政治にこりごりした国民が、09年の総選挙で民主党に期待をかけ、政権を託したが裏切られてしまった。そのため昨年の総選挙では、第3の選択肢を探したが、みんなの党や維新の会など自民党の亜流ばかりで、多くの国民は選択肢を失ってしまった。そんな中で唯一注目された未来の党は、小沢一郎が関与していたためにマスコミの標的にされて押しつぶされてしまった。マスコミが「悪の権化」のように批難する小沢一郎は、どんな悪事をしたのだろう。「脱官僚政治」や「緊密で対等な日米関係」を訴え、国民に支持されただけである。それに「官僚の利権を脅かす」と危惧した検察が、強制捜査をしたが起訴に足る証拠は発見できなかった。仕方なく、検察審査会に虚偽の証言を信じさせて強制起訴に持ち込んだものの、裁判所は無罪判決を下した。それでも中傷をやめようとしないマスコミこそ人権侵害の大罪を犯しているのではないか。
 マスコミの民主党バッシングにより誕生した自民党・安倍晋三政権は、低所得者ほど負担が重くなる消費税を増税し、円安による物価引き上げ、TPP参加で食の安全を脅かし、生活保護や国民年金を引き下げるなど、既得権益者を優遇し、低所得層いじめの政策を次々に行っている。そんな現実を知りながら、政権批判どころか、アベノミクスともて囃し続けるマスコミに対し限りない憤りを感じている。
 消費税を引き上げ、社会保障を引き下げる理由を、財政健全化のためだというが、このような上っ面だけの対策で国家財政が良くなるはずがない。バブル崩壊以後、国民の所得が大幅に下がったから所得税額が減少し、購買力が低下しているから消費税収も減っている。国民の苦労を無視して、国の税収しか考えないから、この国の経済がおかしくなっているのだ。かつて池田内閣が「所得倍増政策」を提唱し、成功したのは、半導体産業の革命と言えるほどの急成長や、自動車の需要拡大があったためだ。例えば自然エネルギーなど、何らかの「新しい産業」を見つけて、成長を支援する必要がある。ところが政府は原発再開など、既得権益保護ばかりで、新産業への投資は「不確定要素」とみて切りすてている。こんな後ろ向き政治では経済が活性化する道理がない。
 我が国の「モノづくり産業」が発展したのは、末端の従業員にも「私の会社」という認識を持たせ、品質向上に努力させた結果である。例えばトランジスタという半導体は、米国で発明されたが、製造しても9割以上が僅かな静電気で壊れてしまい、大量生産は不可能といわれていた。それを大量生産可能にしたのは、ソニーで働いていた1人の女子工員のアイデアであり、その提案をまじめに検討・採用した経営者だった。日本企業が急成長していた時代には、企業は従業員を「企業の財産」と考え、その全能力を引き出そうとしていたが、最近は新自由主義の影響で、従業員の給料を経費と考え、少しでも安く使うため非正規雇用ばかり増えている。いつ解雇されるかもしれない非正規雇用では、与えられた仕事を「天職」と考えて、自分の能力を傾注することはできないし、仕事中に気付いたことを改善しようとも考えない。これでは企業は年老いた経営陣の思考で動くから、新たな発想は出てこない。従業員の方は青春を謳歌する余裕もなくなるから、レジャー産業は不況になる。かつては若者たちが競うように購入したスポーツカーが、今はまったく売れないという。低所得では結婚もできないから、ブライダル産業・住宅産業・出産育児関連も成長できない。これほど少子化が騒がれているのに、保育園が不足している。一方で大企業は02年以降の好景気のお陰で莫大な金額の「社内留保」があるという。大企業経営者の発想を日本的経営に引き戻して、社内留保を吐き出させるには、アベノミクスとは逆方向の「新産業の育成」が不可欠だ。
 もうひとつ忘れてならないのは改憲である。自民党が作成した文書には、たしかに「憲法改正草案」と書いてあるが、実体は平和憲法を棄てて、自衛隊を米軍の下請けにして世界に紛争を広げる手伝いをする。国民主権を棄てて、独裁国家に変える内容であり、「正しく改める」のではなく、「最悪に改める」と言わざるを得ない。しかしマスコミは報道や世論調査でも、この改憲を「改正」と言い続けている。「正」か「悪」かは個人の評価だと考え、「改悪」や「改憲」は使わないまでも、多少とも国語能力があるなら、「改定」あるいは「変更」などの言葉を使うはずだ。少なくとも国民の半数が拒否していることを、マスコミが「正しい」という先入観を与えてはならない。ウソで世論誘導をするマスコミに強く抗議したい。

 自民党の作成した改憲案についてのQ&AのQ1で、改憲の理由として「現行憲法は、連合国軍の占領下において…制定され…国民の自由な意思が反映されていない…」ため、「日本らしい日本の姿を示し、世界に貢献できる新憲法の制定を目指す」のだという。現行憲法制定時が占領中だったことは事実だが、国会において数ヶ月間、激論を重ね、何度も修正を繰り返して決定した経緯を知らないのだろうか。
 また、「他の国々では何度も改正が行われているが、日本では一度も改正されていない」というが、諸外国の改正は、文字通り「不備な点を手直しする」のに対し、自民党が目指しているのは「平和主義・国民主権・基本的人権の保護という、憲法の根本原理を破壊して、民主主義国から独裁国家に変えようとする大転換」だから、国民の支持が得られないだけなのだ。
 Q&AのQ40で、「冷戦の間は憲法改正を口にすることもできませんでした」と書いてあるのも大嘘である。朝鮮戦争が始まった頃から米国は憲法を変えて、再軍備をさせようと圧力をかけてきたが、吉田首相は自衛隊の前身・警察予備隊を作ることで圧力をかわしていた。次の鳩山一郎首相は施政方針演説で憲法改正を明言したが、2/3の賛成議員を確保できず、その後の選挙でも議席を増やせなかった。次の岸信介首相も改憲を口にしたが、発議要件を確保できず断念したのだ。その後は、佐藤栄作首相が「現憲法は国民に受け入れられ、血となり肉となっている」と国連総会で述べるなど、池田・田中・三木・福田・大平・鈴木などの各内閣も改憲を見送っていた。「冷戦中だから改憲できなかった」のではなく、国民に拒否されてできなかったのだ。米国などから歴史認識を問われている安倍首相は、党内の改憲論議に関しても「歴史認識が欠如している」のだろう。せめて自分の祖父のことぐらい、きちんと調べるべきだ。
 このような「事実誤認」についても、指摘するマスコミはない。不思議に思って調べたら、各社の社長や政治部長などが、連日首相と会食をしているらしい。そのため、安倍内閣を批判できないのではないか。
 従軍慰安婦に関して、橋下徹大阪市長が槍玉に挙がったが、彼は安倍首相の歴史認識を擁護しようとして、あの発言をしたのだ。しかるに、マスコミは橋下バッシングだけに留め、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述がある資料は発見されなかった」という第一次安倍内閣の「閣議決定」には言及しなかった。また、以前にNHKが女性国際戦犯法廷のドキュメント番組を作りながら、安倍氏の横槍で番組内容が改変されたことを朝日新聞がスクープした時も、マスコミ各社は何を血迷ったのか、非難の矛先を安倍氏や自民党、NHKではなく、スクープをした朝日新聞社に向けた。その結果、せっかくの「政治の浄化」のチャンスを、マスコミが壊してしまい、その後も反省の色は見えない。
 女性を強姦目的で拉致することが悪いことという認識は、当時の兵隊だって持っていたから、そんな証拠文書など作るはずはないし、たとえ作ったとしても、敗戦時には焼却しただろう。そもそも「証拠がないから、犯罪がなかった」などという理屈を信じる人がいるとは思えないが、それさえも日本のマスコミは非難していない。 
 権力を監視すべきマスコミが、第二次大戦後の総括も忘れて、完全に「権力の犬」に成り下がっている。今さら、ジャーナリズム精神などは望むべくもないが、せめて「報道という仕事」の意義や目的は忘れないでほしい。利権のために視聴者や読者を欺くことに、罪の意識は感じないのだろうか。マスコミにとって最大の使命である「権力の監視」をやめるということは、社会的に存在価値を否定することであり、自殺行為なのである。

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