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2010-06-30up

蓮池透×伊勢崎賢治×マエキタミヤコ
トークセッション「平和と和解 その困難と希望」レポート

 5月29日、大阪・ジュンク堂書店難波店にて、蓮池透さん、伊勢崎賢治さん、マエキタミヤコさんによるトークセッション「平和と和解 その困難と希望」が開催されました。
 蓮池さんの著書『拉致2』(かもがわ出版)、伊勢崎さんの『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)『アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる』(かもがわ出版)の合同出版記念イベント。韓国哨戒艦の沈没事件によって朝鮮半島の緊張が高まる中、解決の糸口が見えない拉致問題について、そして「平和」と「和解」について、3人はそれぞれ何を語ったのか? 充実のトークの内容を、3回に分けてお送りします。

(その3)
マエキタミヤコさん
「はばかりの殻」を作らない

マエキタミヤコ●1963年生まれ。1986年よりコピーライター・CMプランナー。1997年からブランディング、クリエイティブディレクターとして、NGOの広告に取り組み、2002年に非営利広告メディアクリエイティブ「サステナ」設立。「100万人のキャンドルナイト」呼びかけ人代表、2005年「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーン実行委員、上智大学、立教大学非常勤講師、2008年より東京外国語大学 平和構築学(peac e & conflict studies)ピースアド担当助教。著書に『エコシフト』(講談社現代新書)などがある。

◆「平和」や「人権」へのリテラシーを上げよう

 お話を聞いていて感じたのは、外交や平和構築、人権といったことに関する社会的なリテラシーはまだまだ低いんだな、ということです。
 私はずっと「広告屋」として環境問題に取り組んできたんですが、今や環境問題はロハスやエコブームと言われるところまで来た。なんとか世の中がある程度のリテラシーを持つところまでこぎつけた。ところが、平和とか人権に対するリテラシーは、それと比べるとまだまだ低い。
 平和はもちろん大事です。みんなそれは知っているのに、やすやすと世論が戦争に流れてしまうことがある。それはリテラシーが低いからなのでは。仮想敵国をつくって「打倒」とか「けしからん」とかいって、みんなが一致団結できてしまう、結果、権力者に弱者が利用されてしまう。
 それを避けるためには、エコロジーって何、温暖化って何、というのを世の中の人たちが一つ一つ学んできたように、拉致問題ってどういうことなのか、人権って何なのか、みんながもっと学んでいく必要があると思います。たとえば、伊勢崎さんは当たり前のように「拉致問題と人権」という話し方をされるけれど、拉致問題が人権問題として扱われることって、実はそんなに多くない。とにかく拉致というと「けしからん」「打倒北朝鮮」になってしまうから。そこをいかに変えていくかですよね。
 国というのは基本的に二層構造のはず。実際に政策を立ててそれに対して説明責任のある一部の政策サイドの人たちと、それ以外の大多数の一般人たち。ところが、「拉致とんでもない、北朝鮮こらしめちゃえ」というときにはこの二層構造が忘れられて、まるで政策サイドと人民サイドの両方をまるごと打倒するかのような話になってしまう。人道支援もダメという日本の経済制裁という表現は、そういうこと。粗雑な話だし、それも言ってみれば外交政策や人権問題へのリテラシーが育っていないということだと思うんです。

◆大切なのは「対話する」努力をやめないこと

 このリテラシーを上げていくためには、マスコミだけに依存していてもしょうがなくて、自分たちでどんどん互いに話をする必要があります。「この本いいよ」とかね。
 ところが、それを邪魔するのが「憚り(はばかり)の殻」です。さっき蓮池さんが、「北朝鮮に対してちょっと柔軟な、強硬的ではない姿勢をとろうとすると、国賊だとか北の味方だとか日本人じゃないとか言われてしまうような風潮がある」とおっしゃっていたんですが、そういう状況があることで、みんなうんざりしちゃうというか「ケンカになるのは嫌だから話すのはやめておこう」となってしまう。その問題について、話すこと自体が憚られるような状態になってしまうんですね。
 そうしてみんなが「憚っちゃう」と、「憚りの殻」の中に問題自体が入って見えなくなっちゃって、そのまま何十年も放置されてしまうようなことになる。北方領土の問題とかがそうかなと思うんですが、それによってますます、話すとみんながエキセントリックになる問題、と思われてしまうことにもなるわけです。
 それを突破するには、もっとみんなが「憚らない」こと、そして憚らないでいいように、上手にその問題を話せるようになること。たとえば、蓮池さんは拉致問題の、まさに当事者でいらっしゃるから、その前に出ると普通の人はどこか緊張しちゃうでしょう。傷つけちゃいけないし、これはしゃべっていいのかいけないのか、いちいち考えてしまうんです。
 でも、きっと蓮池さんは、もし傷ついたなら「それは言わないでほしい」と言ってくれると思うんですね。そうすれば、「ああ、これは言っちゃいけないんだな」とわかる。そんなふうに寛容性に甘えさせてもらいながら、トライ&エラーを繰り返しながらも、逞しくただ対話をやめない、と決意することが大事なんじゃないかと。そうでないと、その問題自体がタブーになって、触れられなくなってしまうから。
 その話をするだけで「変な人たち」と思われるような風潮にしない、マスコミもそういう風潮をつくらない。なかなか難しい心のあり方だとは思うんですが、それが一番大切なんじゃないかと思います。

←その2

「ジュンク堂HIKESHIトーク」 以下からもご覧頂けます。
http://www.ustream.tv/recorded/7519080
http://www.ustream.tv/recorded/7493579

一つの事件や報道をきっかけに、
ある方向に「世論」が一挙に流れていってしまう。
そんな傾向が強まっているようにも思える近年。
その歯止めとなるのがまさに「リテラシー」なのかもしれません。
3回にわたってお届けしたトークセッション・レポート、
ご意見・ご感想をお寄せください。

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