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2011-03-09up

ぼくらのリアル☆ピース

沖縄本島北部、やんばるの森に囲まれた東村高江で進む、
米軍ヘリパッド建設計画。
昨年末には、長く中断されていた工事が住民の反対を押し切って再開され、
緊迫した状況が続いています。
その高江の状況をもっと多くの人に知ってもらおうと、
東京でイベントなどを開催してきたグループが「ゆんたく高江」。
メンバーのひとり、大学院生の村上陽子さんにお話を聞きました。

楽しい「入り口」をたくさん作りたい

村上陽子さん
■その2■
村上陽子 (むらかみ ようこ) 広島県出身。高校卒業後、琉球大学法文学部に進学。広告代理店勤務を経て琉球大学大学院人文社会科学研究科に進学し、修士号を取得。2008年より東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程に所属。専門は沖縄および日本の戦後文学研究。沖縄・高江について「みんなでゆんたく(おしゃべり)しよう!」を掲げるグループ「ゆんたく高江」の活動に携わっている。

◆作業員や警備員に「声」をかけよう
――高江の現場から

──さて、前回も「高江の状況が緊迫してきている」という話がありましたが、昨年末から、連日沖縄防衛局がヘリパッド建設予定地にやってきて、工事を強行しようとしている、と伝えられています。現地では、住民や支援者による24時間の座り込み体制が続いていると聞いていますが、どんな状況なんですか?

 私自身は1年ほど現地へは行けていないので、仲間から聞いた話ですが…現地ではみんな、座り込みをしながら、とにかく「言葉をかける」ということをやっている、と言っていました。

──言葉をかける?

 工事には、沖縄防衛局の局員のほかに、工事の作業員や警備員の人たちも来るんですよ。彼らは防衛局に雇われた、民間の人たちですよね。彼らに対して声をかける。例えば、彼らは早朝のまだ暗いうちから細い山道に入らされたり、危険な作業もいっぱいさせられているので、「ちゃんと自分たちが危険なことをさせられてるって分かってる?」とか、「ちゃんと残業手当はもらったの?」とか(笑)。
 私たちの置かれてる状況は分かってほしいけど、でもあなたたちの権利も大事だ、ということですよね。やってくる作業員や警備員の中には、10代、20代の若い人たちも多い。彼らにも生活があるし、作業ができなくて給料をもらえないと困るから「作業は進めないといけない」という思いはあるだろうけど、本当に責めるべき存在は彼らじゃないというのもみんな分かっているから。

──現場では「対立」だけがクローズアップされがちだけど、それだけじゃない関係性もある。

 そう。もちろん状況は緊迫してるんだけど、そうやって声をかけていくうちに、互いに顔見知りになって「昨日も来てたね」なんて話もできるようになってくる。そういう状況が、確実に現場で作業の進行を鈍らせることにはなっていると思うんです。
 でも一方で、そうして住民と顔見知りになって、雑談をしたりするようになった作業員や警備員は、すぐに別の現場に移されてしまうらしくて。関係性ができないように断ち切ることに、すごく熱心なんですよね。

──逆に言えばそれは、住民と作業員や警備員との人間関係をつくられるのがどれだけ怖いかということなんでしょうね。

 そうだと思います。

◆大使館の前にも行けなかった申し入れ

──一方、そうした状況の悪化を受けて、東京では今年に入ってから3度、市民によるアメリカ大使館への申し入れが行われました。ゆんたく高江も参加したんですよね?

 主宰は別の団体なんですけど、そこに協力するという形で。各団体がつくった申入書や、全国のたくさんの人たちから寄せられた声明文を、大使館へ届けに行きました。

──参加されて、どうでした?

 うーん。私、申し入れってもっと「普通」にできると思ってたんですよ。大使館へのアポイントも取ってるわけだし、ちゃんと大使館の前まで行って、渡して、受け取ってもらえると思ってた。それが実際には、なんと大使館前にも行けなくて、そのことにすごくびっくりしました。

──もう少し詳しく教えてください。

 1回目のときは、大使館そばのビル前に集合したんですけど、何人もの警察官が周囲を警備していて、それに止められて先に進めなかったんです。
 私たちはアメリカ大使館にアポイントを取って、向こうが「来てください」と言ってるから行こうとしてるだけなのに、なぜか日本の警察が勝手にそれを止めるという…。まるで大使館を代弁するみたいに「(大使館は)ダメだって言ってるよ」「カメラが入るなら受け取らないって言ってる」とか言い出して、「それは誰が言ってるんですか」と聞いても教えてくれないし。

──最終的にはどうなったんですか?

 3人だけなら通っていいと言われて、3人で大使館へ申入書を渡しに行きました。私もその中に入れてもらったんですけど、悪いことしてるわけじゃないのに大使館までずーっと警察官に囲まれて、すごく気分が悪かったです。
 で、大使館に着いたら中から日本人の男性が出てきて「警察の指示に従ってください」って言うんですよ。それで「大使館の方ですか」と聞いてもなかなか返事をしなくて、何度も聞いてやっと「そうです」。名前も教えてくれなくて、最後は「指示に従えないんだったら、別に私たちが頼んで来てもらってるわけじゃないし、申入書はもらわなくて結構です」って言って奥に引っ込んでいっちゃった。それで結局、警備員の方に申入書を渡すことになっちゃったんです。

──本来はアメリカ大使館を日本の警察が警備する、こと自体がおかしいはずですよね。

 そうなんです。大使館側ももちろん「自分たちが警備を頼んだ」とは絶対に言わないんだけど。
 で、2回目に行ったときは、大使館から「日曜日は休みだから申入書は受け取れない」と言われて。事前に連絡して「休みの日でも受け取る」っていう回答をもらっていたはずなんですけど。

──そして2月に入って、3回目の申し入れを。

 最初はデモの予定だったんです。申入書を受け取ってもらえないんなら、大使館の前を通るコースでデモをやろう、と。ところが、1回は許可が下りていたのに、前々日になって東京都公安委員会に、集合場所も解散場所もルートも全部変更されてしまって。
 で、大使館前を通らないならデモの意味がないし、新橋の駅前広場でアピール行動をやったあと、大使館へ申し入れをしようということになって。駅前広場から大使館のほうへ移動するときも警察官がぴったりついていて、マイクを通さず歌を歌ってる人がいるだけで「歌をやめないと逮捕する」とか言われましたね。道を歩きながら歌ったら逮捕されるの!? と(笑)。

──でもその後、本当に逮捕者が出てしまったと聞きました。

 大使館そばのビル前に着いたら、すぐさま警察官が取り囲んできて、「歩道を確保する」と言って押してきて…。そのうち前のほうで「わあっ」という声があがって、警察官がマイクで「警察官に暴行するな!」と叫んでいるのが聞こえました。それで結果的に、2人が逮捕されてしまって。
 私は後ろのほうにいたんですけど、あとでその「逮捕」の瞬間の映像を見たら、「暴行するな!」っていう声がしてるその横で、警察官が逮捕された人の髪の毛を引っ張って引きずっていて…何をしたらこんなふうにされるの!? と感じました。

──その日は、申し入れは?

 やっぱりアポイントを取っていたにもかかわらず、大使館の人に「上から受け取るなと言われている」と拒否されました。「今後も、何回来ても受け取らないから郵送で送れ」とも言われて。このときも「6人だけ」に限定されて、警官にボディチェックまでされたんですよ。

──うーん。聞けば聞くほど、「それってどういう根拠に基づいてるの?」と疑問が膨らみますね。

◆「楽しさ」を大事にしたい

──さて、今後の活動の予定も教えてください。

 少し先になりますが、6月にいつも「ゆんたく高江」のイベントをやるので、それは今年もやろうと思っています。いろんなアーティストに声をかけて、音楽などもまじえながら。
 今、これだけ厳しい状況になっているので難しいんですけど、基本的にはやっぱり「楽しく」やりたい。その「楽しさ」って絶対に重要だと思うんですよ。状況が緊迫してるからって、自分たちも硬直していくことになっちゃいけない。だから今はなんだか「必死に楽しさを守ってる」感じなんですけど(笑)。
 でも、ツイッターを見たり、デモを沿道で見てる人の中には、私たちの言ってることには共感するけど、デモに参加したりまではちょっとできない、という人もたくさんいると思うんですね。私もそれはよく分かるけど、今は本当に大変なときだから、1人でも多くの人に助けてほしい。だから、その「共感」から一歩進んで一緒に何かやってもらう、その一歩をどうやってつくっていくかが大事だと思うんですね。そのためにも、例えば「音楽を聴きに来る」スタンスでふらっとイベントに立ち寄ってもらうとか――一生懸命楽しくやって、「入り口」をたくさんつくれたら、と考えています。

──デモや座り込みはもちろん重要だけど、一方で気軽にかかわれるような「入り口」をたくさんつくって、広げていくことも大事ですよね。
 ほかに何か、活動する中で感じていることはありますか?

 一つ思っているのは、情報発信についてですね。高江や、あと山口県の上関原発の問題なども本当に報道されないので、みんななんとかメディアに取り上げてもらおうとしているし、それは大事なんですけど、それだけでは限界があるな、という気がしていて。今、せっかくツイッターとかブログとか、情報拡散のツールをたくさんの人が持ってるわけだし、既存のメディアに頼るだけじゃなくて、自分の言葉でそれぞれが小さなメディアになる、自分で情報を発信していく、そういうことを進めていきたいなと思っています。

──ありがとうございます。最後に、村上さんの考える「平和」って何ですか?

 うーん…たぶん、平和っていうのは絶対に「今、ここにはない」ものだと思うんですよ。今まで「平和な状態」なんてどこにもあったことはなくて、ないからこそみんなが、少しでも平和な、少しでも生きやすい世界にしていくために動こうとするんじゃないかな、と。「今が平和」って思ってしまったら、いつかその状態は絶対に平和じゃなくなると思う。
 音楽でも、言葉でも、運動でも、ツールは何でもいいんですけど、今よりもっと「平和」な状態をつくるために、いろんな人たちとつながりながら、自分の言葉も育てていければいいな、と思っています。

←その1を読む

周辺に生息する絶滅危惧種の鳥の営巣期にあたる3月に入り、
防衛局による連日工事の動きはいったん休止の様相を見せていますが、
沖縄防衛局による「スラップ訴訟」など、
状況は変わらず厳しいまま。
たくさんの人に事実を知ってもらうために、
まずいくつもの、多様な「入り口」が必要です。
村上さん、ありがとうございました。
高江の状況については「やんばる東村 高江の現状」で、
ゆんたく高江の活動予定は公式サイトにて。

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