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2013-06-26up

この人に聞きたい

枝元なほみさんに聞いた(その2)

「希望のシステム」を作りだそう

作りやすくて親しみやすく、もちろんおいしい。そんなレシピが人気の料理研究家・枝元なほみさん。テレビや雑誌で活躍するほか、生産者支援や被災地支援、脱原発などの活動にも積極的に取り組んでいます。お話ししているとこちらまで元気になってくる、そのパワーの源泉はどこにあるのか? 農業支援団体「チームむかご」の活動について、「食」への思いについて、たっぷりお話を伺いました。

枝元なほみ(えだもと・なほみ)
料理研究家。明治大学卒業後、劇場の研究生になり役者をしながらレストランで働く。劇団解散後、料理研究家に。料理本の執筆の他、料理番組への出演多数。また農業支援団体チームむかごを立ち上げ、現在は社団法人「チームむかご」の代表理事。東日本大震災の後は被災地支援の活動(にこまるプロジェクト)も同法人で行っている。twitter:@eda_neko

社会のことを考えるのを、日常の一部に
編集部

 前回、「食べること」は「生きること」とつながっている、というお話がありましたが、一昨年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故では、その大切な「食」も大きく脅かされることになりました。3・11からの2年あまりを振り返って今、何を思いますか。

枝元

 ずっと考えているのは、私たちは以前とはまったく違う「3・11後」を生きてるんだと思わないとダメなんだろうな、ということですね。原発のことだけじゃなく、農業のこと、TPPのこと…あらゆることが今、分岐点に来ていると思う。これまでの、経済効率を優先させる暮らしというものが、人間的なサイズを超えてしまって、逆に人を苦しめるようになってきているし、環境面から見てももう限界。このままじゃもうやっていけない、ということを意識しないとダメなんだと思う。

編集部

 本当に、3・11の前と後とでは、いろんなことが大きく変わりました。政府に対して「怒らない」と言われていた日本で、あちこちで大規模な脱原発デモなどが行われるようになったこともその一つです。枝元さんも、毎週金曜日の官邸前行動などに参加されていたそうですね。

枝元

 でも一時期、仕事や親の介護で疲れ切ってどうしても行けなくて、そのことがすごく後ろめたかったことがありました。行きたい、行かなきゃ、と思いながら、ソファに横になったまんまどうしても動けなくなっちゃって。
 だけど、いろいろ考えるうちに、自分にできるやり方でいいんだな、と思うようになって。例えば私なら、今日はデモには行けないけど、かわりに大間原発の建設に反対しているあさこはうすに郵便を送ろう(注)とか。参加できなくてごめん、って自分を追いつめるんじゃなくって、行ってくれてる人に対して「みんなありがとう」と感謝しながら、自分にできる違うチャネルを考える。それでいいのかな。と。だって、1人で全部は絶対できないじゃないですか。

(注)あさこはうすに郵便を…「あさこはうす」は、青森県大間町で建設が進む大間原発(電源開発㈱所有)建設予定地の中にあるログハウス。原発に反対し、土地を電源開発に売却するのを拒否し続けていた故・熊谷あさこさんによって建てられた。現在は、その娘の小笠原厚子さんらが管理しているが、電源開発はあさこはうすに通じる道を封鎖しようとしており、それに対抗するためにはその道が「一定の交通量がある公道である」ことを示す必要があるため、あさこはうす宛の郵便を送ろう(郵便を送れば、郵便局の車が通る)という呼びかけがなされている。

編集部

 本当にそうですね。

枝元

 あと、花粉症のシーズンなら、友達に「昨日日比谷公園のデモ行ってたんだけど、花粉がひどかったよね~」って話したり、デモに行くことが「さも当然」みたいに話す、なんてこともやってる(笑)。よく、原発のこととか政治のことを口に出しにくい雰囲気がある、とかいうけど、あえてそういう空気は読まないで。私は「のらりくらり作戦」と呼んでるんですけど、おかしいなと思うことに真正面からぶつかるだけじゃなくて、そうやってのらりくらりとやっていく、くらいの感じじゃないと、長丁場にはやっていけないかな、と思うんです。

編集部

 短期決戦! ではなくて、政治のこと、社会のことを考えて、口に出すことを、「日常の一部」にしていくという…。

枝元

 この間、埼玉県の小川町に行きました。町ぐるみで有機農業を推進しているところで、オーガニックの農家さんを訪ねさせてもらいました。そしたら、本当に美しいほどに「循環」しているなあ、と。牛や鶏の糞は集めて、生活排水を混ぜて発酵させて、それで出たメタンガスを調理に使う。下に溜まった発酵物は液肥として畑に使う。使用済みの食用油は漉して、トラクターの燃料にする…。何もかもが循環していて、かっこいいなと思って、元気と希望をもらって帰ってきたんです。
 でも、帰ってきてからようく考えてみると、そういう「循環」を作るためには、まず自分の生活から考え直さないといけないんですよ。生活排水を液肥にするんだから、シャンプーやコンディショナーは生分解できるものじゃないと駄目だなとか、台所洗剤は一応分解性の高い石けん洗剤だから大丈夫かな…とか。何を食べるか、何を使うか、自分がどういう暮らし方を選ぶか。そういう、ほんとに「日常」から考えていかないとダメなんだな、とすごく思いました。

「人任せ」から脱却しよう
編集部

 でも、その「日常」を過ごす中でも、自分ではどうしようもない、納得のいかないことが起こって、心が折れそうになったりすることもありませんか。

枝元

 去年の総選挙での自民党圧勝とかね。もう、折れ続けてる(笑)。でも、そういうことに潰されずに自分の中のバランスをとっていくためには、やっぱりめげずに、まず自分から方向を見つける、動きはじめることしかないんだと思うんですよ。
 私は「原発」国民投票(注)の賛同人にもなっていて、去年は原発都民投票の請求代表人として、あちこちで署名集めをやったりもしていたんですけど…声をかけてもらったきっかけが、やっぱり国民投票の賛同人になっている社会学者の宮台真司さんのおっしゃっていた言葉なんです。

(注)「原発」国民投票…3・11後に結成された市民グループ〈みんなで決めよう「原発」国民投票〉が、今後の日本の原子力政策についての国民投票や地方自治体での住民投票を実現させようという呼びかけを行っている。昨年は東京都と大阪市などで、住民投票条例制定を求める直接請求のための署名集めが行われた(いずれも必要署名数に達したが、議会で否決)。

編集部

 どんなことですか?

枝元

 「〈任せて文句をいう社会〉から〈引き受けて考える社会〉へ」という…。それを聞いたとき、ほんとにそうだな、原発のことだけじゃなくて、農業のことも食べ物のことも、みんな人に任せて文句を言うだけになっちゃってるな、と思ったんです。そのことを『ビッグイシュー』の連載に書いたのが縁で、賛同人をやることに。

編集部

 その『ビッグイシュー』は、いわゆる「ホームレス」の人たちへの支援を目的に創刊された雑誌ですが、枝元さんはかなり以前から連載をもたれていますよね。こちらはどんな経緯で?

枝元

 かかわりは、インタビューを受けたのが最初だったと思います。でも、その前から存在は知ってたんですよ。すごく明快で、わかりやすいシステムだなと感心したの。ホームレスの人たちが雑誌を売って、1冊売ったらその約半分が自分の収入になるわけでしょう。
 私、前に路上で寝てる人に「何かしてあげたい」と思って、お金を渡そうとして断られたことがありました。たしかに、お金を渡すって失礼な行為だったかもしれない。『ビッグイシュー』はそうじゃなかった。お金を渡すのじゃなくて仕事をつくる。それも、やりたいという人を拒まない。それこそお金があれば解決すると考えがちだったり、人任せにして自分は何もしないのに裏で文句を言うとか、長いものに巻かれるとか、そういういかにも「日本型」のシステムとは違う、明快で希望のあるシステムだと思ったのでした。それで、何か手伝わせてもらいたいと思って、連載をはじめることになったんです。

小さなスイッチの切り替えが、
大きく状況を変える
編集部

 「希望のあるシステム」というお話ですが、枝元さんは全国各地で頑張っている生産者や、町おこしの取り組みをしている人たちを訪ねておられますよね。以前お越しいただいた「マガ9学校」では、〈グローバリゼーションに対抗するローカリゼーションに希望を感じるようになった〉ともおっしゃっていました。最後に、その具体例を何か、教えていただけますか?

枝元

 たとえば、三重県の尾鷲市に、「夢古道おわせ」という施設があるんです。今は地下から汲み上げた海洋深層水を沸かしたお風呂なんかも人気なんだけど、もともとは地元の商工会議所の人たちが、外から人に来てもらえるよう、ごはんを食べるところをつくろう、と立ち上げたのがきっかけ。
 そのときに面白いのがプロの料理人を呼んでくるんじゃなくて、地元の女性たちに「ごはん作りをしませんか」と声をかけたこと。それも、海側と山側、あと畑をやってる地域と、3カ所の女性たちのグループに呼びかけて。今は、その3組がそれぞれ法人格を取って、ちゃんと「夢古道おわせ」と契約をかわして、1週間交代で厨房を担当してるんです。ずうっとじゃないし昼11時から2時までの営業だから、彼女たちにも負担になり過ぎなくてちょうどいいのだそうです。
 食堂はバイキング形式で、地元でしかとれないお魚とかも並ぶけど、おかあさんたちが作る料理だから、普通にカレーとか焼きそばとかも出てくる(笑)。でも、地元の新鮮な素材を使ってるから、すっごくおいしいんですよ。一度畑を見せてもらいに行ったことがあるけど、ほんとに熊とか猿とかが出るようなところの畑で、隅っこには切り干し大根が干してありました。

編集部

 お客さんはどのくらい来るんですか?

枝元

 休日には200組くらい、と聞きました。ランチバイキングが1200円だから安くはないんだけど、ロケーションも最高だし、とにかくおいしいから。近所にあんな店があったら、私もうごはんなんか作らないかも、と思うくらい(笑)。
 女性たちにとっても、みんなが食べてくれて「おいしい」と言ってくれてお金にもなるんだから、プライドも生まれてくるしやりがいになるよね。かといって、時間に追われて自分の生活を犠牲にしなければならないわけでもない。みんな、すごく楽しそうに働いてました。最近は、間伐材の利用などにも取り組んでいるので、それを加工する人たちの仕事も生まれてきた、と聞きました。

編集部

 ちょっとしたアイデアなんですね。

枝元

 そう。よく地方は元気がないとかいわれるけど、実際に行ってみるとこういう話はいっぱいあるんですよ。仕事がないしモノをつくっても売れないし、若い人の仕事全然ないし、だから帰って来れないし、後継者いないし…といってあきらめるんじゃなくて、違う良さを探す、違う形で仕事をつくっていく。「そんなの仕事にならないよ」と言われてたものこそが、実は大きな収益を生み出したりもする。「チームむかご」も『ビッグイシュー』もそうだと思うけど、考え方のスイッチを一つ切り替えるだけで、変わっていくことができるんじゃないかと思うんです。

編集部

 むかごも、「今まで捨ててたもの」を「売る」という切り替え。『ビッグイシュー』も、ホームレスの人に「お金やモノをあげる」んじゃなくて「仕事をつくる」という切り替えですね。

枝元

 それも、考えてるだけじゃなくて具体的なことを始めてみることですよね。まずは自分で動く、具体的な取り組みをする。そこからいろんなことが見えてきたり、新しい人とつながれたり…そういうことからしか、今私たちは変わっていけないんじゃないかと思うんです。
 「にこまるプロジェクト」でも新たに、被災地各地のにこまるクッキー製造所にカフェ機能をプラスしていくという、「プラスカフェ」プロジェクトが進行中なんです。一番の目的は地元の人たちの働き場所と居場所をつくること。そして、オープンの暁には、メンバー制でフードチケット付きの寄付を募ろうと思っています。都市に住む私たちが3・11のことを忘れないように、そして被災した人や地域とつながりを持てるように。いつか被災地を訪ねたら、そこに自分がかかわったカフェがあって、「いらっしゃい」と言ってもらっていろんな話ができる。そんな場所があったらいいんじゃないかな、と思っているんです。

←その1

(構成/仲藤里美 写真/塚田壽子)

ツイッターなどを拝見していても、
本当にパワフルに全国を飛び回っていらっしゃる枝元さん。
「まずは自分が動きはじめること」という言葉が、説得力を持って響きます。
ともすれば心折れてしまいそうなことばかりですが、
そんな中でも希望は忘れずにいたい。
そう思わせていただいたインタビューでした。
枝元さん、ありがとうございました!

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