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2012-02-01up

2012年憲法どうなる?どうする?「第3回:半田滋(ジャーナリスト)
「国是であったはずの武器輸出三原則の緩和。国会での議論さえなしに決定されたことは、大きな問題です」

半田滋(はんだ・しげる) 1955年栃木県生まれ。東京新聞論説委員兼編集委員。1993年、防衛庁防衛研究所特別課程修了。1992年より防衛庁(省)取材を担当。米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど自衛隊の活動にまつわる海外取材の経験も豊富。07年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『自衛隊VS.北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊~肥大化する自衛隊の苦悶』(講談社+α新書)、『「戦地派遣」 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『ドキュメント防衛融解 指針なき日本の安全保障』(旬報社)などがある。

平和国家としての国是でもあった武器輸出三原則が、国民的議論どころか国会での議論もないまま、昨年末に緩和されました。憲法審査会も動き出していますが、どのような議論がされているのかあまり聞こえてきません。国民やメディアが震災や原発問題に関心が集中している間に、国のあり方そのものに関わる重要問題が、なし崩し的に変わろうとしているのではないか、という危機感があります。このコーナーは、憲法改正や安全保障に関する5つの質問について、様々な分野の専門家にお聞きしていきます。シリーズでお送りします。

Q3

2011年12月27日、野田内閣は、武器の輸出を原則として禁じる「武器輸出三原則」の緩和を正式に決め、官房長官談話として発表しました。今後これを抜本的に見直し、新たに設ける基準に従い、平和・人道目的や、国際共同開発・生産への参加であれば輸出を容認するとのことですが、憲法9条を改正することなく、そして国会で議論することもなく、閣議決定だけで緩和を決めてしまったことについて、どう考えますか?

Answer

これまでにも三原則緩和の動きはあったけれど、今回のそれはレベルが違う。しかもそれが、与党の一部の政治家の中だけで話し合われ、決定されたことが大きな問題です。

◆「例外」ではなく「原則」としての緩和

 武器輸出三原則緩和の動き自体は、アメリカとのミサイル共同開発が認められるなど、これまでにもなかったわけではありません。ただ、それと今回が大きく違うのは、これまでの緩和はすべて個別具体的な案件についてのものだったということです。つまり、基本はあくまでも「禁止」であって、例外としてこのミサイルの共同開発だけに参加する、という形。その意味では、一つ一つの案件に対して監視の目が置かれていたわけです。
 ところが、今回の官房長官談話では、例えば自衛隊がPKOなどで海外へ持って行った装備品をそのまま現地政府に提供できるようにすると言っているのですが、それについても「防衛装備品等の海外への移転」とあるだけ。一応「平和貢献・国際協力に伴う案件については~」などと書いてはいるけれど、どういう案件ならよくて何なら悪いのか、非常にわかりにくい悪文だし、誰がそれを判断するのかもわからない。自衛隊の装備品には当然武器も含まれるわけだし、「装備品のうち武器以外は」提供できる、とでも書いてあれば別、この文章なら「平和貢献のためには武器も必要だ」というふうに、どこまでも緩めていける余地があるわけです。
 つまり、例外的な、個別具体的な緩和ではなくて、原則そのものが緩和されてしまったわけで、その意味で今回の緩和は今までとレベルが違います。これでもう、武器輸出三原則は本当に崩れてしまったと言っていいでしょう。
 実は2009年の政権交代以降、ここに至るまでの下火はくすぶり続けていました。2010年には北沢防衛大臣(当時)が防衛産業の人々が集まる賀詞交換会で、武器輸出三原則について「基本的な考え方を見直すこともあってしかるべき」だと言っているし、その年の秋頃、民主党が防衛計画大綱の見直しを前にまとめた「民主党の基本姿勢」にも、三原則の緩和に関する文言が出てきます。もともと、民主党は政権前から、医師会や歯科医師会、JAなど、かつては自民党の支持基盤だった組織を引きはがしにかかっていましたから、それと同じように、自民党の支持基盤と見られていた防衛産業を自分たちの側につけることで安定政権にしたい、盤石な支持基盤をつくりたいという狙いがあったのではないでしょうか。防衛産業の側も、近年の防衛費削減でダメージを受けていて、海外進出でなんとか昔みたいに儲けたいという気持ちがあるでしょうし、利害は一致している。
 ただ、そうしたことを考えあわせても、今回緩和が打ち出されたことには、唐突感が否めません。そこには、支持基盤の拡大、安定化だけではなくて、最終的には国際武器市場の一翼を担いたいという狙いがあるのではないか。今回の緩和はそれに向けての一歩――つまり、やりやすいところから崩していこうという「蟻の一穴」なのではないかと思います。

◆「共同開発」という言葉のまやかし

 具体的な「緩和」の内容としては、先ほど触れた「防衛装備品等の海外への移転」と、「防衛装備品等の国際共同開発・生産」についての条件をそれぞれ緩和するという2点が柱になっています。
 しかし、まず前者については、実は「自衛隊の装備品」ではない、民生品の重機や車両を海外に提供するための枠組みは、もうすでにあるんですね。特に、1999年の東ティモールPKOのときは、民生品の重機を150台も持って行って、しかもそれだけじゃ野ざらしになるかもしれないというので、現地でそのオペレーター養成までやりました。今活動中のハイチや南スーダンにも、現地に提供する予定の民生品の重機を持って行ってるし、オペレーターの養成ももう始まっているんです。
 だから、民生品はこれまでの原則のもとでも提供できるし、してきている。それにそもそも、自衛隊の装備品と民生品の何が違うかというと、例えば自衛隊のブルドーザーには銃を置く台が付いているけど民生品はついていないとか、その程度。どうしても自衛隊の装備品を提供したいのなら、その台を取っ払ってしまえばいいだけの話で、何も三原則の緩和をいう必要はないはずなんです。
 また、後者の共同開発・生産についても、おかしいと思うところがいくつもあります。例えば昨年、F35という戦闘機が自衛隊の次期戦闘機に選定されました。これは、アメリカがイギリスやスペイン、カナダなど8カ国と共同開発したという建前で、当時の北沢防衛相や防衛官僚たちは、「日本は共同開発国じゃないから完成してもなかなか買えない。共同開発国8カ国に全部行き渡って、やっと日本の順番が来る。(だから共同開発に参加できるようにするべき)」と説明していました。
 でも、この「共同開発」、実態はアメリカが開発費を安く済ませるために、各国からお金を集めているに過ぎず、開発された技術そのものはアメリカが独占しているんです。実際、「共同開発国」の中でも最大供出国であるイギリスが、ヨーロッパ向けF35の工場を国内に置きたいと言ったときも、アメリカは許可しなかった。イギリスにはある程度の戦闘機生産能力があり、工場を置いたらそこから技術が流れてしまうからです。
 あと、三原則緩和を主張する人たちがよく言っていたのは「国産の武器は商業生産をしないから割高で、防衛費がかさむ」ということですが、それは「平和の支出」というか、日本が平和国家として世界に尊敬されることの代償として引き受けるしかないコストなのでは? と思います。また、「共同開発に加われず、海外輸出もできないから防衛産業技術が進歩しない」とも言われますが、実は世界の最先端技術のかなりのものは日本にこそあるんですね。「技術的に鎖国しているから遅れている」なんていうのは、単なるイメージです。むしろアメリカのほうが、自分たちの不得意分野に日本の高度な技術を組み込んで、すごい武器をつくりたい、そのために三原則を緩和させたいという意図があるんじゃないでしょうか。
 こう考えていくと、日本が共同開発に参加するメリットはほとんどない。それなのにわざわざ条件を緩和するというのは、やはり実際には世界の武器市場に参入していくための口実なんじゃないかと疑いたくなりますね。そもそも、「共同開発」という言葉自体がくせ者で、例えば開発・生産の99%は日本で、1%だけどこかの国の技術を取り入れるという形でも「共同開発」と言えてしまう。だったら、共同開発に見せかけて実はほぼ日本製の武器を海外へ売るということも、理屈では可能になってしまうんです。

◆十分な議論さえなしに「国是」が変えられていく

 そして、非常に大きな問題は、武器輸出三原則というのは日本の国是であったはずなのに、それが官房長官談話という形で――つまり、民主党の中でもごく一握りの人たちが話し合ってきたに過ぎないことを突然閣議だけで決定して談話で出す、そんな形で緩められてしまったということです。
 そもそも、武器輸出三原則の最初の骨格ができたのは1967年、佐藤内閣のときですが、その後も首相答弁や官房長官談話などで項目が付け加えられて現在の形ができてきた。当初は対共産圏への輸出禁止という枠組みだったのが、議論を経て徐々に、より広く網をかける仕掛けに変わっていったわけです。その過程と比べても、あまりに議論がなさすぎる。例えば国会の中で、この問題について議論しましょうという動きもほとんどなかった、あっても表面化さえしない程度のものだったわけですから。
 官房長官談話では、海外移転した「防衛装備品」については第三国移転や目的外使用がないよう、そして共同開発した武器の第三国移転には日本の事前同意を義務づけるなど「厳格な管理」を行う、と謳っていますが、実際にはそんなことをすべてチェックするのは不可能です。共同開発の相手国、そしてそこからの直接の取引国まではチェックできたとしても、その後その武器がどこの国に売られていくのかを辿っていくのには自ずと限界がある。そもそも、アメリカをはじめフランスやイギリスなど、「普通の国」がいわば「死の商人」としての顔も併せ持っているのが武器市場の現実。日本もそういう国と手を組もうと言っているわけだから、行く末は見えているでしょう。
 もちろん、だからといってすぐに日本が国際社会で悪く言われるわけではないと思います。この先、日本産の武器が当たり前のように世界で使われるようになったとしても、それは5年10年という短期スパンではないだろうし、そうなったからといって日本に批判の矛先が向くとは限らない。ただ、武器市場に参入するということは、日本が本来持っているはずの外向的な交渉力――例えば和平会議の場で「日本は戦後、世界に一丁の銃、一発の弾丸も売っていない。だからこの場では日本の言うことを聞いてほしい」と訴えることができる、そういう交渉力を自ら放棄することに等しい。平和国家日本ならではの、国際社会における発言力、品格が削がれていくのはたしかでしょう。
 それくらい大きな国の舵取りが、びっくりするくらい議論がないまま、ごく少数の政治家によって決められてしまった。「たかが」官房長官の一言で、こんなに大きく国が動いてしまっていいのか、ということですよね。もともと民主党の意思決定のプロセスというのはとても不透明だし、八ッ場ダムなどの一件を見ていても、要は官僚や経済界の人たちがよってたかって「こうしろ」というのをそのまま政策として打ち出してるんじゃないか? とも疑いたくなる。せめてもっと議論をしてほしい、そしてそのプロセスをオープンにして、私たちにも意見を言わせろと思う。それが、最低限の民主的な手続きではないのでしょうか。

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